161.霊装、仲間の力
窮地にて、仲間たちが俺を励ましてくれた。
俺はもう一度、立ち上がる力を得た。
フレデリカと手をつないだ瞬間……。
俺の体が、青く、強く光り出したのだ。
「ほほぉう……ついに、成ったんだね、アクトくん」
黒幕、超越者の天羽がにやりと笑いやがる。
やつをよそに俺の体はどんどんと変化していく。
黒い髪は長く伸び、青みがかった銀髪へと変貌する。
黒い衣服は真っ白な、まるで礼服のようなものへと変わった。
俺の周囲には氷の剣がいくつも浮いている。
「あ、アクトさんの姿が変わったっす!? なんすかこれ、なんすか!?」
勇者パーティのぱしり、邪神竜ヴィーヴルが驚愕している。
俺もまた驚いている。だが……俺は、【知ってる】。
この姿を、俺は。
驚くヴィーヴルに、天羽が余裕綽々の態度で答える。
「これはね、霊装だよ」
「れ、れいそー……? なんすかそれ!」
「霊的な存在と、分子的に融合し、神に等しい運動エネルギーを得る、武芸者の最終奥義さ」
「わ、わけわかんねー!」
「ま、よーするに合体だよ。フレデリカと、アクトくんが、合体して、ちょー強くなったのさ」
俺はただたっているだけなのに、周囲が凍り付いている。
空中に浮いてる氷の剣、そして俺自身……浮いていた。
「まさか無才の君が、武芸の極地にたどり着くとはね。その姿は、才あるものが鍛練を重ねた先につかめるというのに」
「……ふん」
俺とてローレンスほどではないが、武芸者としての訓練を重ねてきた。
だがそれだけで、この姿にたどり着くことはできない。
フレデリカ。信頼するパートナーの存在。これが、最も大きい。
「フレデリカは氷魔狼。かつては神狼と呼ばれた神の獣。それと合体したアクトくんは、神の力を得たに等しい。ただの力の足し算じゃない。今の彼は……さっきまでの比じゃないくらい、力を持っている」
「…………」
「ずいぶんと冷静なんだね、アクトくん」
「ああ。霊装は、初めてじゃないからな。もっとも、俺がやったのは初めてだが」
「ははあ、なるほど。あの超勇者たちも……なるほどね。教えたのは君か。驚かないのもうなずける」
……そんなことはない。
ローレンスたちもまた、霊装を、神の力を身につけた。
それは俺の指導があってこそ。
だが俺は教えることはできても、実践することはできない。
俺の目、時王の目は未来を見据える。
彼らにこの姿……霊装を会得させるために、必要な道筋は鑑定できても、俺自身がなるための道は見つからない。
素質がなかった、はずだから。
だが、できた。これはどういうことなんだ?
『簡単なことです』
脳内にフレデリカの力が響く。
やつと合体してるからか、体の内側から、あいつの声がする。彼女の存在をとても近くに感じる。
『アクトさまは多くの才能あるものたちを指導してきました。その経験の蓄積が、確かな土壌を育んでいたのです。だが、あなたは自分で自分の限界を決めてしまっていた。でも……あなたはみんなの声援をもって、自信を得た』
「だから、できたと?」
『ええ。素養はもとよりあったのです。あとは、できると……深く信じるその気持ち。それさえあれば、あなたはいつだって、霊装ができたのですよ』
経験の蓄積、か。
つまり……俺が、今までやってきたこの集積が、今、この姿ということ。
俺のやってきたことは、無駄じゃなかったんだ。
「いくぞ、フレデリカ」
『はい、マスター! 往きましょう!』
神の力を……否。
仲間の力を得た俺は、もう誰にも負ける気がしない。
俺は天羽の前に立つ。
「勝てるのかい、この僕に?」
「勝てる」
「はっきり言ってくれるね。才能も、S級鑑定眼も、何もかもないくせに」
たとえ、俺に才能がなかったとしても、俺の秘蔵っ子……時王の目がなかったとしても。
「俺には、仲間がいる。もう……追放されたあの頃、何もできなかった無力な俺じゃない」
フレデリカが微笑んだのが、伝わってきた。
俺もまた、笑った。
「かかってこい、天羽。最後の戦いだ。貴様に引導を渡してやる」