160.俺は
天羽との最終決戦のさなか、俺に仲間たちからの声が届いた。
「マスター……聞こえたでしょう?」
隣で倒れ伏すメイド・フレデリカがボロボロになりながら立ち上がる。
俺より深いダメージを受けているはずだが、さすがは魔獣といったところか。
「あなた様が、お救いなさった人たちが、みなあなた様を応援なさっております。みな、感謝しているんです」
「…………」
感謝。俺は、そう……わからなかった。俺は自分のために、やつらを利用してるだけのつもりだった。
弱者が踏み潰されない、世界。その実現のための駒でしかないと。
「そう思ってる人は、誰もいません。みんなも、そして……あなた自身も。駒なんて思ってないのでしょう?」
……そうだ。
俺は、もう……あいつらを……。
でも……俺は。
「俺が、あいつらに好かれていたのは、俺に未来を見通す目があったからだ。今の俺じゃ……」
「それは違います、マスター」
フレデリカは微笑む。
「あなた様の目に、みなが惹かれたのではない。あなた様のその優しさを求めてきたのです」
フレデリカは笑う。自分もたってるだけでつらいだろうなか、やつは近づいてきて、俺に手を差し伸べる。
「それはわたしも同じ。あなたは、時王の目を持つから主なのではありません。弱者に手を差し伸べてくれたのがあなただったから、わたしはあなたについていこうと思ったのです」
「…………」
「たとえその目が黄金に輝かずとも、あなたの目が未来を見通す力がなかろうと、あなたには未来を見据え、つかみ取る力があります。アクト・エイジ。立ち上がりましょう、もう一度……!」
差し伸べる彼女の手。そして、俺の脳内に響く、仲間たちの声。
彼女たちが俺に力をくれる。俺が磨いてきた原石たちが、その輝きをもって、俺をこぶする。
俺に立ち上がれと、そう言ってくる。
「……そうだな」
俺は諦めるところだった。自分の理想を。弱者、力なき彼らが悲しまない世界の実現。
そこには俺も含まれる。俺だって弱い。だからイランクスに追放されたのだ。
でも……でももうあのときの、弱いままの俺じゃない。
俺がたくさんの原石を磨いてきたように、俺もまた……彼らによって研磨されてきた。
「あなたは、弱者じゃない。そう、あなたは……」
「そうだ。俺は……俺は、」
フレデリカの手を、強く握る。
「俺は、冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター、アクト・エイジだ!」
うつむいて、立ち上がれない弱者ではない。
仲間とともに、仲間を導く。そんな存在となったのだ。
フレデリカとともに俺は立ち上がる。
俺に時王の目がなくとも、俺には仲間がいる。守るべき、導くべき仲間たちがいる。
だから俺は負けない。
俺は……戦い、そして……勝つ。
と、そのときだった。
フレデリカとつないだ手が、光り輝きだしたのだ。
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