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160/232

160.俺は



 天羽あもうとの最終決戦のさなか、俺に仲間たちからの声が届いた。


「マスター……聞こえたでしょう?」


 隣で倒れ伏すメイド・フレデリカがボロボロになりながら立ち上がる。


 俺より深いダメージを受けているはずだが、さすがは魔獣といったところか。


「あなた様が、お救いなさった人たちが、みなあなた様を応援なさっております。みな、感謝しているんです」


「…………」


 感謝。俺は、そう……わからなかった。俺は自分のために、やつらを利用してるだけのつもりだった。


 弱者が踏み潰されない、世界。その実現のための駒でしかないと。


「そう思ってる人は、誰もいません。みんなも、そして……あなた自身も。駒なんて思ってないのでしょう?」


 ……そうだ。


 俺は、もう……あいつらを……。


 でも……俺は。


「俺が、あいつらに好かれていたのは、俺に未来を見通す目があったからだ。今の俺じゃ……」


「それは違います、マスター」


 フレデリカは微笑む。


「あなた様の目に、みなが惹かれたのではない。あなた様のその優しさを求めてきたのです」


 フレデリカは笑う。自分もたってるだけでつらいだろうなか、やつは近づいてきて、俺に手を差し伸べる。


「それはわたしも同じ。あなたは、時王の目を持つから主なのではありません。弱者わたしに手を差し伸べてくれたのがあなただったから、わたしはあなたについていこうと思ったのです」


「…………」


「たとえその目が黄金に輝かずとも、あなたの目が未来を見通す力がなかろうと、あなたには未来を見据え、つかみ取る力があります。アクト・エイジ。立ち上がりましょう、もう一度……!」


 差し伸べる彼女の手。そして、俺の脳内に響く、仲間たちの声。


 彼女たちが俺に力をくれる。俺が磨いてきた原石たちが、その輝きをもって、俺をこぶする。


 俺に立ち上がれと、そう言ってくる。


「……そうだな」


 俺は諦めるところだった。自分の理想を。弱者、力なき彼らが悲しまない世界の実現。


 そこには俺も含まれる。俺だって弱い。だからイランクスに追放されたのだ。


 でも……でももうあのときの、弱いままの俺じゃない。


 俺がたくさんの原石を磨いてきたように、俺もまた……彼らによって研磨されてきた。


「あなたは、弱者じゃない。そう、あなたは……」


「そうだ。俺は……俺は、」


 フレデリカの手を、強く握る。


「俺は、冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター、アクト・エイジだ!」


 うつむいて、立ち上がれない弱者ではない。


 仲間とともに、仲間を導く。そんな存在となったのだ。


 フレデリカとともに俺は立ち上がる。


 俺に時王の目がなくとも、俺には仲間がいる。守るべき、導くべき仲間たちがいる。


 だから俺は負けない。

 俺は……戦い、そして……勝つ。


 と、そのときだった。


 フレデリカとつないだ手が、光り輝きだしたのだ。

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