159.声
俺は黒幕である天羽との最後の戦いに挑んでいる。
強大な敵を前に、俺とフレデリカはなすすべがなかった。
時王の眼を奪われ、もう駄目だと思ったそのとき、俺の耳にやつの声が聞こえたのだ。
「イランクス……なぜ、貴様が……?」
イランクス。俺をギルドから追放した人物だ。
後に、悪神の手先となって俺を倒しに来たという過去がある。
やつは今、鉱山奴隷として捕まっていたはず……。
『ふんっ! だらしない。なんだその無様な姿は!』
どこからか、やつの声がする。それに俺の姿が見えてるような言い方だ。
「自分の力っす!」
「ヴィーヴル……」
勇者パーティのパシリ、邪神竜ヴィーヴルが、後ろに控えている。
「自分の新しい能力、それは、意識のリンク! あらゆる人との五感情報を共有することが、できるんす!」
「つまり……ヴィーヴルの見ている情報を、他者とリンクさせることができると?」
フレデリカの言葉に、ヴィーヴルがうなずく。
「アクトさんの戦いを、地上の人たちがみんな見てるっす!」
「……馬鹿が。なんでそんなことを」
すると……。
『みな、あなた様のお役に立ちたいからですわ!』
「ロゼリア……」
ヴィーヴルが地上にいるロゼリアの声を、俺に届ける。
俺のギルドのエースである彼女が、俺を見ていると言うことは……。
『ギルマス! がんばってください!』
弟子のユイが、応援する。
ユイだけでない。俺のギルド、天与の原石の連中の声が届く。
『負けないでギルマス!』『あなたならできる!』『アクトさーん! がんばってー!!!!』
ギルド連中以外の声も聞こえてきた。
町長、国内外のえらくなったやつら。そいつらが、みな俺を後押しする。
「なぜ……だ。俺を応援する義理など、貴様等にはないだろう? 俺は……俺のために、貴様等を利用しただけにすぎないのに」
『ふん! 何を勘違いしてるのだアクト・エイジ!』
イランクスが不敵に笑ってるように言う。
『愚かな貴様に教えてやろう。みな、貴様のくさい芝居を、理解してるのだ。自らが悪役となって、追放する。そうすることで遺恨を残さず、新しい場所へ行けるように。その優しさを、やつらは理解してるのだよ』
……驚いた。
まさか、こいつが、よりにもよって俺を理不尽に追放したやつが。
俺を……理解してるとは。
『すまなかった、アクト・エイジ』
そんなふうに、やつが俺に謝罪する。
『貴様を追放したのは、わしの間違いだった。でも……今は後悔していない。なぜなら、貴様は新しい場所で、こんなにもたくさんの、優秀な原石を磨き上げてきたのだからな』
俺の中にたくさんの人たちの声が届く。みな俺を応援している。みなが、俺に立ち上がれと勇気をくれる。
……俺のやっていることは、正しい行いのなのか。
俺はずっと迷っていた。
原石を拾っては磨き、そして世に放つ。
そうしていけば、世界は強くかしこいやつらであふれて、いずれ世界が平和になるとそう信じてやってきていた。
でも迷いが無いわけじゃ無かった。
この世界に住む人たち全員の才能を、磨き上げるのは無理だと。そんなことして意味が無いのでは無いかと。そう思って。
『貴様は間違っていない。アクト・エイジ! 貴様の行いは世界を着実に平和にしている! 後もう少しだ! もう少しで貴様の理想の世界に、誰も傷つかない、優しい世界が出来上がるんだ!』
だから、とイランクスが言う。
『こんなところで諦めてるんじゃあない!』
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