158.隠された真実
本気を出した天羽の前に、フレデリカも俺も、手も足も出ない。
やつは今まで全然本気では無かったのだ。
フレデリカとの連携でやつを追い詰めたことがきっかけとなり、天羽の本気を引き出してしまったわけだ。
「がはっ……!」
天羽の掌底をくらい、フレデリカが吹っ飛ばされる。
俺が受け止めようとする……が。
「どこ見てるの?」
背後に回った天羽が、俺の背中に蹴りを放つ。
「ぐっ……!」
フレデリカと空中で激突。
一瞬やつを見失った。どこだと探しているときには、俺たちは地面に倒れている。
「良いとこまで頑張ったけど、残念だったね。ぼくは時間を消し飛ばすことができる」
「時間を消し飛ばす……ですって?」
戦慄するフレデリカに、天羽が悠然とうなずく。
「その通り。君たちの流れる時間を削り取る。その間に起きたことを君たちは知覚できない。一方で、ぼくはできる」
「……何を言ってるのですか、あなたは」
立ち上がろうとするフレデリカ。だが俺もやつも、限界だ。
「ようするに、疑似時間停止みたいなもの。時間操作できるアクトくんでさえも、この消し飛んだ時間のなかでは、それもできない。つまり……」
また俺たちは何かされて、宙を舞っていた。
「ぼくが時間を擬似的に止めてる間だ、攻撃を防ぐことができないってこと」
……確かに、俺は擬似的に時間を止めることができる。
やつがもし時間を止めてるだけだったら、俺はそれを知覚し(未来視で)、同じように時間を止めて対抗できる。
だがやつの時間を削る能力を使われると、その間の意識もまた削られるので、なにもできない。
「ゲームオーバーだよ、アクトくん。フレデリカ。君は……ここで終わりさ」
天羽がこちらに歩いてくる。
既に勝ちを確信しているのだろう。やつからは戦意が失せていた。
俺も……フレデリカも、絶体絶命だ。
立ち上がるパワーが俺には無い。
「ああ、そうだ。さっきの話をしよう。アクトくん、君は時王の眼をぼくから移植されたんだ」
「…………」
「君はパーティメンバーにだまされて、奈落に落ちてきた。君は虫の息だった。そのとき君は何を望んだか覚えてるかい? まだ死にたくない……そう言ったんだ」
天羽が俺の前にしゃがみこむ。
「ぼくは君に尋ねた。裏切った奴らに復讐したいからかい、と。そしたら……君は言ったんだ。同じ風に、騙されて、酷い目にあうだろう人たちが……同じ目に遭わないようにしたい、って」
天羽が昔を懐かしむように言う。
だが、俺にはそのときの記憶が無い。
「ぼくは考えたんだ。面白いオモチャを見つけたって。だから君にぼくの力の欠片を与えたんだ。時王の眼。それがそうさ。ぼくの力であり……ぼくの目」
天羽が俺の眼に触れる。
「ようするに、君はぼくから力を与えられてたんだよ。君は元々なーんにも才能がなかった。あのとき、本当は死ぬはずだったんだ。今君が生きてるのは、ぼくのおかげさ」
すっ……と天羽が俺から手を離す。
「うぐ……がぁ……!」
その途端、俺の眼が発熱しだす。
なんだ……なにが起きてる……。
その痛みは一瞬だった。
「!? ま、マスター……! 目が……目の色が……!」
天羽のやつは魔法で俺の前に鏡を作る。
俺の眼は……黄金に輝いてたはずの、俺の眼が。
黒く、変色していた。
嫌違う……。
「返してもらったよ、君の目……いや、まあぼくの目か」
「そんな……」
……なるほど。俺に力を与えることができた、ということは、奪うこともまたできるということ。
やつは俺から、唯一の逆転の手立てである、時王の眼を奪ったのだ。
「これでもう、さすがに諦めたでしょ、アクトくん?」
天羽が酷薄に笑う。
「そもそも凡人だった君が、みんなから賞賛されていたのは、この時王の眼が……未来を見通す目があったからだ。それをなくした君に価値なんてない。もう君はただの凡庸なる存在、無価値な男なんだよ」
やつの言葉が俺の心を打ち砕こうとする。
……確かに。
確かに、そうかもしれない。
俺が天与の原石を作ってこれたのも、ローレンスをはじめとした才能の原石を見つけられたのも、全部……あの目のおかげだった。
目があったからこそ、俺は今ここに居られる。ギルマスで、いられる。
時王の眼が奪われた以上……。
俺は……もう……。
『まだだ! 諦めるのは、まだ早い! そうだろう……アクト・エイジ!!!!!!』
そのとき、俺の脳裏に、誰かの声がした。
聞き覚えのある声だった。それは……。