155.信頼と成長
俺と超越者との戦いに、部下のフレデリカが現れた。
「馬鹿者が……貴様に頼んだのは、地上の防衛だろう。なぜここに来たのだ?」
銀髪のメイドが、ふっ……とうれしそうに笑う。
「良かった」
「なにがだ?」
「帰れ、とは命令しないのですね」
……言われ、確かにそうだと思った。
「マスター。わたくしはあなたの忠実なるしもべ。あなた様の望みがわたくしの望み。あなた様が帰れとご命令なさるのでしたら、今この場で去りましょう」
「……ふん。勝手なことを」
「余計なことを、とは言わないのですね。ふふ♡」
まったく、この女は面倒だ。
こちらの言葉を勝手に全部翻訳してくる。……あながち間違えではないとこがたちが悪い。
「へえ。フレデリカ。久しぶりじゃあないか」
「あら、元マスター」
元々この女は、天羽の元で護衛をしていたのだ。
俺が天羽の元での修行を終え、出て行くときに、こいつの身柄をもらいうけたのである。
「主人の命令に逆らうなんて、番犬が堕ちたものだね」
天羽の言葉は神経を逆なでするようなものだ。
かつてのフレデリカならば、確かに主人の命令には絶対従っていたろう。
フッ……とフレデリカが余裕の笑みを浮かべる。
「残念ですが、わたくしはもう番犬ではございません。わたくしは外に出て、アクト様と出会い……変わったのです」
彼女は俺を見て微笑む。
「マスターとともに過ごしたこの年月は、わたくしを番犬から一人の女にしてくださりました」
「そっか……君もまた、才能の原石の一つだったわけだ。それを彼が磨いたと」
「ええ……おかげでわたくしは、生きる理由を見いだしました。生きてて、楽しいって、そう思えるようになりました」
「だから、親であるボクはもう不要ってわけだ?」
フレデリカは今度は天羽を見据える。
「違います。わたくしはあなたが不要だとは思っておりません。あなたがいなければ、わたくしはアクト様とで会い、変わることができなかった。だから、感謝はしています」
けれど、と彼女が続ける。
「アクト様の歩む道を、邪魔するというのなら……わたくしは実力を行使し、あなたを排除します」
腰のナイフを抜いて彼女が構える。
「乗り越えさせて貰います、元マスター」
「そうかい。……そりゃあ、重畳だ」
天羽が微笑みを浮かべる。それは、いつも浮かべているような、感情の読めない笑みじゃなかった。
どこか、慈しむような笑み。目の前にいる女が、強く成長したことに対する、喜びを感じてるかのような……。
父性を思わせるような、笑みだった。
一瞬だけフレデリカがひるむ。だが戦意は喪失していない。
「戦えるな?」
「ご命令とあれば、手足がちぎれようと」
「そうか……なら……」
俺はフレデリカの隣にたち、拳を構える。
「俺を手伝え、フレデリカ」
「イエス、マイロード」