154.窮地のギルマス
俺は超越者の天羽との最後の戦いに臨んでいる。
月面に存在するやつの居城にて、勇者パーティのぱしりこと邪竜ヴィーヴルと乗り込んでいた。
魔王の超再生能力。それはこの天羽がもたらす魔力によるもの。
つまり魔王を倒すためには、この天羽を殺さねばならない。
俺の秘蔵っ子である固有時間完全停止の能力を使っても、なお、こいつは死ななかった。
一撃必殺の奥義を受けて、平然としているのだ。
「どうしたんだい、アクトくん? だんだんキレが悪くなってきてるよ?」
俺は白兵戦へと切り替えていた。大技で一撃で倒すのは無理だ。
ならば小技でやつを削る。
俺の手には1本のナイフが握られている。
「【理滅破壊剣】。よくもまあそんなレアな神器を見つけてくるもんだね」
理滅破壊剣。一見するとただの黒い刃のナイフだ。
だがぐねぐねと曲がったフランベルジュのような形をしている。
効果は、能力の無効化。
相手がどんな強力な力を持っていようが、このナイフにさされた段階で、その能力の発動がキャンセルされてしまう。
天羽は尋常ならざる魔力量、そして特殊な能力を持っている。
それがある限り俺の勝つ確率はゼロだ。
だがこのナイフがあれば……。
俺は時王の目で天羽の動きを予測、やつが攻撃してくるタイミングで破壊剣を刺し、弱体化してるところで本体へとダメージを当てる。
「なるほどなるほど……時王の目は僕の動きすら凌駕する、S級鑑定眼だ。理滅破壊剣を一発あて、弱体化してる本体にダメージを与える。能力が無効になってる間のダメージは回復できないからね」
だがこの作戦には欠点がある。
少しずつしか、ダメージが入らないこと。そして……破壊剣を当てるため、嫌でも接近しないといけないこと。
俺は鑑定を使ってやつの接近を未来予知。やつが右ストレートを放ってくる未来を見て、側面に破壊剣を突き刺そうとする……。
「アクトさん! よけてっす!」
ヴィーヴルからの助言。俺はとっさにしゃがみ込む。う゛ぉん! とすさまじく早い蹴りが、俺の髪の毛をかすめていった。
安心したのもつかの間、連打が襲ってくる。能力が理滅破壊剣でキャンセルできてないため、万全の状態でやつが攻撃を放ってきた。
それは音を超えるほどの早い攻撃。しかも一瞬で1000の打撃を放ってきやがる。
俺は攻撃が来るとわかっていながら、回避することはできなかった。ただ防御姿勢をとってやつの強打を受けるしかない。
やがてやつの前蹴りが俺のみぞおちをとらえる。どん! とすさまじい衝撃ともに俺は背後へと飛ばされる。
「へえ、ギリギリで後ろに飛んでよけたんだ。やるねえ……まあでも……」
「がはっ!」
口から吐血する。攻撃の威力を殺したはず、それで、このダメージ量なのか……。
「理滅破壊剣を持ち出したのは、いい判断だ。いい戦術だ。でも戦術が決まってるってことは、勝ちパターンが読めるってことと同じ、だよ?」
「……おとりか」
「そう。君が僕の動きを予測できる、そして君は破壊剣を一度当てなきゃいけない、そこから君の動きを予測しカウンターを放つ」
「……簡単に言ってくれる」
俺は時を加速させて、常人の目では追えない速度で動いているんだぞ。それなのにやつは、速度に対応するだけじゃなくて、俺の戦術を逆手に取った戦い方をしてくる。
……目の前に、とてつもない大きな壁を感じた。これが……超越者か。
「どうだい? 僕に挑むのが無謀だって、やっと痛感した?」
天羽は余裕の態度を崩さない。二発しか撃てない必殺技を受けても平然とし、秘蔵っ子の破壊剣を使った戦術もたやすく対策してくる。
「君はたしかに無双かもしれない。でもそれは地上限定さ。本当の化け物が住む天上の世界では、君の力はあまりにちっぽけなんだよ」
ぱちん、と天羽が指を鳴らす。
俺の持っていた理滅破壊剣が、破壊された。
……何をした? 何をされた?
いや……そんなのはどうでもいい。逆転の手立てが、たった今失われたのだ。
「さ、これでゲームセットでしょ。どうする? 残り一発の必殺技を、自爆覚悟で使ってみるかい?」
……万事休すか。
「じゃ、ばいばーい!」
天羽が左手を俺に向ける。黒い業火が発生し、俺は一瞬で消される……。
「諦めるのは、まだ早い、ですよ、マスター」
そのとき視界が晴れた。
俺の前には、銀髪のメイド・フレデリカがいる。
右腕だけがフェンリル化していた。
「貴様なにを……」
「主のピンチに参上しないで、なにが下僕ですか」
フレデリカは静かに微笑んでいる。
後ろでは、ヴィーヴルがぐったりしていた。
あいつ、この女を連れてきたのだな。
「貴様は地上で待機と言っただろうが」
「あれ、お忘れですか? わたくしは、主人の言いつけを守らぬ、駄犬だということを」
……ああ、そうだ。そういえば、そういう女だったな。こいつは。
「マスター、わたくしの愛する人、どうか一人で何でも背負わないで。わたくしにも、背負わせてくださいまし」
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