153.窮地
超勇者ローレンスとその仲間たちは、魔王となったフョードルとの最後の戦いに挑んでいた。
尋常ならざる力を持つローレンスたち。
天を割り、地を裂く一撃を次々と魔王にぶつけていく。
……だが。
「くははは! 効かん! 効かんぞぉおおおおおおおおおおおお!」
魔王が高笑いする。
ローレンスの放った斬撃が右腕を吹き飛ばしても、瞬時に再生してみせた。
触手が伸びてローレンスの体を捕縛しようとする。
弓使いミードの精密な射撃によって触手が破壊された。ローレンスは胴をなぐ一撃を魔王に放つ。
再生している隙にローレンスは離脱。
だがなお……。
「無傷……か」
「半端ない再生力ね」
槍使いウルガー、治癒術士ルーナが戦慄する。
相手はルーナの高速治癒に匹敵、下手したそれを凌駕するほどの再生能力を持つ。
いかにローレンスたちが人外の膂力を持って攻撃しようとも、壊すそばから再生されたのでは、相手を打ち倒すことは不可能。
「ならば……! 一撃で敵を粉砕するのみ! ぬぅうううん!」
ローレンスが大剣を思い切り振り下ろす。
黄金の斬撃は魔王の城ごと魔王を木っ端みじんに消し飛ばした。
すぐに魔法使いイーライが結界を張って、その場から転移。
城の外へとやってきたローレンスたち。
「やったか!?」
「いや、まだだウルガー! 敵は生きてる!」
瓦礫と化した魔王城を見据えながらローレンスが声を張り上げる。
土煙の向こうで魔王が立ち上がって高笑いをしていた。
「無駄無駄無駄ぁ……! このボクを殺すことは不可能!!!!!」
びゅっ、と無数の触手が伸びてくる。激流のごとく押し寄せてくる触手の束を、ウルガーとミードが捌く。
「なんつー馬鹿げた手数だよ! イーライ!」
イーライは極大魔法を連続発動。
火と風の魔法により、周囲一帯を消し飛ばす。
だが爆煙の向こうから魔王が現れ、イーライに接近戦を挑んできた。
「イーライ!」
「ウルガーさん!?」
ウルガーはイーライを突き飛ばす。
魔王の触手がウルガーにからみついて、腕を切り飛ばす。
「ぬぅうん!」
ローレンスが大剣をふるって魔王を吹き飛ばす。
「大丈夫!? 今治癒を!」
ルーナがウルガーに魔法をかける。だが……。
「!? う、腕が再生しない!!!」
ルーナの治癒は一級品だ。どんな怪我だろうと瞬時に直してみせる。
だが切断された腕が元通りくっつかないのだ。
イーライが鑑定魔法で傷口を見やる。
「高度な呪術です。相手の治癒魔法を分解する呪いが込められています」
「そんな! じゃあ……」
「呪いを解いてからでないと、治癒が効きません。ですが……」
触手の波がまた押し寄せてくる。ミードが一人で捌いているが……
「イーライ! 転移だ! これじゃ保たない!」
ミードからの要請に、イーライが応じる。転移で距離を取る。
「呪いを解いてる間に次の攻撃が来てしまいます……」
「そんな……」
ウルガーは布をちぎって傷口を塞ぐ。
「ルーナ、今は治癒はいい。後でどうにでもなる。今は倒す方法を考えるんだ」
「でも……」
「僕は大丈夫だ! この程度の傷、どうってこともないね!」
……そんなはずはない。強力な呪いを受け、ウルガーは死ぬほどの痛みを感じているはず。
現にウルガーは額に脂汗を浮かべている。
だが。
彼はにかっと笑って敵を見据える。
「なぁに、僕ほどの天才ともなれば、腕が一本あれば戦える! むしろ腕の分、体重が減って動きやすくなったね!」
ウルガーは銀の光となって特攻。魔王の触手を引き裂きながら、魔王の心臓をうがつ。
「ウルガー! ぬぅううん!」
ローレンスの一撃が魔王の首を切り飛ばす。
脳と心臓を潰した……。だがそれにもかかわらず、触手は動いて、彼らを殺そうとしてくる。
「こんな相手……ほんとに勝てるの……」
ルーナが弱気になりそうになる。
だが……。
「諦めちゃだめです、ルーナさん!」
「イーライ……」
いつも気弱な魔法使いのイーライ。仲間に追放されて、無力さを嘆くことしかできなかった彼が……。
今、誰よりも前を向いている。
「やつの不死身には理由があります。やつの体からは魔力経路が出ています」
「魔力経路……?」
「はい。やつに力を注いでいる人物がいます。そして……それは空に続いています」
イーライが頭上を指さす。そこには満月が浮かんでいた。
「あんなところに……? でも、じゃあどうやって……」
「大丈夫、あそこから……アクトさんの気配も感じます」
彼らのマスターたるアクトの存在。
イーライは魔力を感知することで、突き止めた。
……つまり。
「ギルマスも、戦ってるのね」
「はい! だから……諦めちゃだめなんだ!」
ルーナがぐっと力を込めて立ち上がる。
イーライの言う通りだ。アクトも戦っているのなら、自分が、倒れるわけにはいかない。
「頑張りましょう、勝機は……必ず来ます! 今は耐えるんです!」
「そうね……そうよね!」
ルーナは治癒を、イーライは魔法を発動させる。
消耗していく仲間たちを彼らは支える。
絶対に諦めない。必ず、勝機はあのギルマスが運んできてくれる。
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