152.勇者パーティたちの連携
ローレンスが仲間たちとともに、魔王となった悪神ドストエフスキーのもとへとたどり着いた。
今、最後の戦いが始まる。
「よぉし! いくぞ! ウルガー!」
「任せたまえ」
ウルガーが槍を構える。
まずは様子見だ。
以前のローレンスなら、後先考えずに突っ込んでいったろう。
だが彼らは成長したのだ。
数々の冒険を経て、絆と仲間を得た。
ローレンスは一撃のパワーは比類無いものの、その分隙が大きい。
一方でウルガーは一撃の強さはさほどでもないが、その足の速さと手数がある。
「ウルガー、頼むわよ」
治癒術士ルーナがウルガーに聖なるバリアを張り、魔法使いイーライが付与魔法を使う。
「勇者パーティが一番槍! ウルガー、参る!」
超高速でウルガーは悪神に突っ込んでいく。
光を超えた速度の一撃。一瞬で敵の懐に入り、心臓となる場所へと刃を突き立てる。
手応えは、あった。だがその瞬間……視覚外から攻撃が来た。
「ウルガー!」
弓使いミードが尋常じゃない速さで、無数の矢を放つ。
それがウルガーへ攻撃しようとしていたものを、正確に射貫いた。
隙ができたところでウルガーは一度引く。彼もまた以前の彼ではない。
かつての彼は何より手柄にこだわっていた。無茶をして、無理をして、そして真っ先に死ぬタイプだった。
だが今は違う。
自らの役割を……一番槍としての役割を理解し、そして動いている。
自らがおとりとなって、相手から情報を引き出す。その足の速さと手数を使って、相手を攪乱する。
それがウルガーの役割……だと、アクトから教わったのだ。
ウルガーは一度引いてローレンスたちと合流。
「たしかに手応えはあったのだがね」
「どうやら相手は……肉体改造を施してるようです」
イーライが目に魔力をこめ、鑑定魔法を使う。
悪神は、人間のフォルムではあるものの、異形の姿をしている。
顔が三つ、腕が3組。さらに背中からは無数の触手が生えている。
触手の先には刃がついていて、鞭のようにしなりながら、高速で動いていた。
「急所となる心臓は3つ。首は3つ。それを同時に破壊する必要があります」
「あの触手の鞭をかいくぐって……となると、かなり厄介だね」
イーライの言葉に、ウルガーがうなずく。
触手の速さは常人の目では追えないレベルだ。ローレンス・パーティの前衛である、ローレンス、ウルガーならば掻い潜っていける。
だが触手の数が多すぎるうえ、急所が複数ある、それを同時に破壊となるとかなりの難易度だろう。
「それにまだ敵は手札をすべてさらしてません。気をつけてください」
「「応!」」
ウルガー、そしてローレンスは武器を手に前に出る。
ふたりはうなずきあうと、二手に分かれて走り出す。
真っ先に懐に入るのはウルガーだ。
「【垓烈槍】!!!!!」
一瞬で、無限にも近い回数の突きを放つ。
音を置き去りにした、光の速さの突き技。
無数の触手を弾き飛ばし、そこに空間を作る。
「ぬぅうん!」
ローレンスが大剣を一振りする。
それは黄金の奔流となって、ウルガーがあけたスペースに押し寄せる。
悪神の上半身を消し飛ばす。だがすぐに再生し、再度攻撃を放ってきた。
触手がローレンスとウルガーの心臓を貫く。
だがその瞬間にミードが触手を射貫き、イーライが転移魔法で二人を敵から離れた位置に転送。
すかさずルーナが治癒魔法で二人を回復。
「結構、再生の速度が速いね」
「うむ! あと硬いな! なかなか! 一撃で屠るつもりだったのだがな!」
触手がローレンスたちに襲いかかってくる間、イーライが結界で敵の攻撃を防ぐ。
ミードが矢を放って敵を牽制しながら時間を稼ぐ。
「触手をまずなんとかしようかね。ミード! ルーナ!」
「「了解!」」
ウルガーが一人飛び出す。
降り注ぐ触手の雨の中、一直線に敵へと接近。
ウルガーとミード、ふたりで数え切れないほどの攻撃を放つ。
削れた触手は、しかし再生しない。
ルーナが再生を遅らせる呪術を、刃に付与しておいたのだ。
触手を削りきり、悪神を守るものが消える。
「陽光聖天衝ぉおおおおおおおおおおおおおおお!」
太陽のエネルギーを凝縮した、大上段からの一撃。
ローレンスの放ったすさまじい斬撃は悪神をまるごと消し飛ばす。
あとには何も残らない……だが。
「回避!」
ウルガーとローレンスがすかさず待避。
消し飛ばしたはずの悪神が、再び現れていたのだ。
「細胞のひとかけらでも残っていたら、そこから再生できるらしいね」
「なんとも厄介だな!」
敵の強さに絶望することは、ない。
彼らは苦難を乗り越え、肉体だけでなく、精神的にも成長しているのだ。
「みんな! 長い戦いになる! だが、諦めるな! おれたちの背負ってるものを、思い出すんだ!」
敵の隠していた、厄介な事実。それは勇者たちのやる気をそぐ役割を持っていたのだろう。
だがローレンスは、味方が絶望するタイミングで、仲間たちを鼓舞した。
どんなときでも、味方の支えとなる。
それがリーダーだと、アクトから教わったからだ。
彼らは諦めない。強靱な精神と肉体で、悪を討つ。
そういうふうに、アクトによって、磨かれてきた原石たちだから。