150.超越者たる力
俺は月面にて、超越者の天羽と相対する。
彼がいる限り、完全なる勝利は難しい。
「気づいてるんだね。ぼくが魔王の魔力供給源だって事」
天羽の体からは何本もの魔力経路が伸びている。そこから、あの青い星にむかって魔力が流れているのが、俺の眼には見えた。
「ああ。貴様を葬り去り、魔力経路を引き裂いた上で、勇者が魔王を倒す。そういう手はずだ」
「そのことは……地上の勇者は知ってるのかい?」
「貴様等には、関係ない」
俺は魔力を眼に貯める。
固有時間加速。俺の持つ魔眼の能力の一つだ。
己の時間を早くすることで、身体能力を向上させる。
一瞬で天羽に近づいて、拳を彼の頬にたたき込む。
ばきっ! という音とともに天羽が吹っ飛ぶ。
「いいパンチきまったっすー!」
背後で魔族ヴィーヴルが喜びの声を上げる。
だが……まだだ。
俺は更に加速して、天羽のもとへ向かう。
拳の連打を浴びせる。
容赦はしない。
相手は、子供や女みたいな見た目をしているが……。
その実、地上の人間を苦しめても、なんの感情も乱さない、敵だ。
俺は彼の腹に馬乗りになって、連打をくらわせる。
加速した拳はやつの顔面の骨を砕く……。
だが……。
ぱちんっ!
「いやぁ、やるねえアクトくん」
マウントを取っていたはずの天羽が、俺の前から消えている。
背後には無傷の彼がいた。
「ど、どうなってるんすか!? 今……アクトさんが確かに、攻撃してたのに……!?」
「良いリアクションするじゃないかヴィーヴルちゃん」
にんまりと笑う天羽。
そこには余裕があった。まるで俺なんて、驚異なんて思ってないようだ。
俺は左目を押さえる。
「出し惜しみはしない」
「おー! やるかい、君の最終奥義、もう出しちゃうのかい?」
時王の眼。これには奥義が二つある。
俺の眼が赤く輝き……相手に呪いをかける。
「【固有時間完全停止】」
相手の時間を完全に止める……つまり、即死させる技だ。
赤い輝きは天羽に直撃し、フッ……と力を抜いてその場に崩れ落ちる。
「や、やった! アクトさんの必殺技が決まったっす! これで……!」
「そんなわけ、ないか」
ぱちんっ! という音とともに、また天羽が復活する。
「うん、いい練度だ。発動までの時間がだいぶ短縮されてる。どうやら本気で、ぼくを殺す気でいたらしいねえ……」
余裕の笑みを浮かべる天羽。
そこには……そう、悪意がまるでないのだ。
子供のように、無邪気に笑いながら、その口で言う。
「でもその程度じゃぼくは殺せないよ」
……それはおごりではない、単なる事実の確認作業だ。
即死の魔法程度じゃ自分は殺せないという、前提を……俺に教えてくれる。わざわざ、ご丁寧に。
「そんな……アクトさんの必殺技ですら、勝てないなんて……こんなの無理っすよ……」
絶望に沈むヴィーヴルの表情。
確かに……そうかも知れない。
だが……。
「いい目をするようになったね、アクトくん」
彼が俺を見下ろしながら微笑む。
それは……俺が奈落で、初めて彼に出会ったときと、同じ眼をしていた。
「ああ。俺のよりどころは、もう……ここだけじゃない」
俺は自分の右目に触れて言う。
左目は、奥義を使ったことで潰れている。
固有時間停止は、あと一発が限度。
更に言えば、こいつにはそれすら効かないときた。
けれど俺は諦めない。
「俺はもう、あのときの俺じゃない。俺には、志を同じくする……仲間が居る。あの星にいるあいつらの期待を背負ってる……」
俺は目の前の敵をにらみつける。
「俺たちの進むべき道に、貴様は邪魔だ」
「はっ! いいね。でもぼくが、人類虐殺をするのを止めたければ……もっと本気で殺す気でこい」
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