148.月面の神殿
魔王討伐へ勇者が向かう一方、俺は邪竜ヴィーヴルに乗って、すべての黒幕である男のもとへ向かう。
場所は空の先にある、宇宙。
黒々とした空間に銀の星々が浮かぶ特殊な空間だ。
『はえ……宇宙にこれたっす。すげえっす……自分……』
この邪竜ヴィーヴルは対超勇者用に作られた特別な存在だ。
あらゆる状況、環境に適用されるだけの頑強な体を持って生まれていたのである。
『なるほど、ここへ来ても大丈夫だと見抜いてたんすね。さすがアクトさん……』
俺の両目は時王の眼というS級の鑑定眼となっている。
あらゆるものの持つポテンシャルを見抜くことができるのだ。
ヴィーヴルがここまでやる奴であることはあらかじめ分かっていた。
だが生来の臆病な性格がたたって、今まで存分にその秘めたる力を振るえていなかった。
ローレンス達勇者パーティのそばにいることで多少は自信がついたみたいだが、まだ自分の力には気づけてなかった様子だ。
「そろそろつくぞ」
『うぇ? でも何もないっすけど……』
俺たちの前には黒々とした宇宙空間が広がっているだけで、そこには何もない。
だが俺は鑑定眼を発動させる。
すると何もなかったところに巨大な月が出現した。
「隠蔽の魔法だな。俺たちから見えなくするための」
『邪竜の目すらあざむく幻術を見抜くなんて、すげーっすわアクトさん』
「ふん。いくぞ」
何もない月面に恐る恐るヴィーヴルが着陸する。
彼女が降り立った瞬間、隠れていた月が表に出てくる。
『あらほんとだ。隠れてたんすね』
「貴様俺の言葉を疑っていたのか?」
『まさかでしょ。アクトさんを信頼してるっす。ただでもアクトさんを盲信してはいけねーって思ってるんで』
そう、いざとなったとき、頼りになるのは自分だ。
自分の頭で考えずについてくるだけの木偶は不要。
ふん……成長したじゃないか。
「いつまでそんなでかい図体してるのだ」
「へいへい」
ぱぁ……と体が輝くと、彼女は人間の姿へと変化する。
長い紫の髪の美少女が俺の前に立つ。
「んで、あそこにいくんすね」
「ああ」
俺たちのいた青い星を背景に、【それ】はあった。
真っ黒い空間の中に、ただ一点、白い建物が佇立している。
「神殿……すかね」
「そうだな」
白亜の神殿が少し離れた場所にたっていた。
無論こんなものがあるなんて誰も思わないだろう。そもそもこの酸素のない空間で暮らせる人間など、通常は居ない。
「あれ? 自分は邪竜っすから平気ですけど、アクトさんってなんで普通に生きてられるんすか?」
「体内の時間を操作し、一時的な不死状態にしているのだ」
呼吸を必要としない身体となることで、俺は宇宙でも普通に動けるというわけだ。
「いくぞ」
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