143.フョードル、迎え撃つ
ローレンス達が魔王城に乗り込んできた、一方その頃。
魔王の間には、1柱魔神がいた。
魔神、フョードル。
かつては白髪のイケメンだった。
だが今は、天羽によって力を与えられ、さらに強くなった……。
そのかわりに、顔や体中に、大小の目玉のついた、醜悪な姿に成り下がっている。
「くっく……くかかかっ! 来やがりましたねぇ、雑魚虫どもがぁ……!」
フョードルはアクトと因縁深い相手だ。
幾度となく衝突し、そのたび、アクトとその手の物によって敗北を喫してきた。
しかし、今回ばかりは、フョードルは勝ち誇っていられた。
なぜなら今の自分は、超越者・天羽の手により、超進化を遂げているからだ。
【うれしそうだねぇい、フョードル君】
どこからか、子供のような甲高い声が響き渡る。
ぶんっ、と彼の目の前に、いつの間にか1人の人間がいた。
長い髪の毛に、ワンピースのようなゆったりとしたデザインの服。
男のようにも、女のようにも、少年のようにも大人のようにも見える……。
「おお! 超越者! 我が主よぉ!」
天羽。彼はアクトを育て上げ、強くした張本人。
フョードルの裏にいて糸を引いていたのは天羽だ。
「ご覧になられてくださるのですかっ、私がアクトの秘蔵っ子をぶち殺す様をぉ!」
フョードルはアクトへ復讐心は誰よりも強い。
何度も予想を覆され、作戦を台無しにされてきたからだ。
【まぁね。部下ががんばってるなら、上司は応援しないとだからさ。で? 首尾は?】
「上々でございますぅ……!」
ぱちんっ、とフョードルは指を鳴らす。
立体的な図形が表示される。
それは魔王城の全体像だ。
城は多層構造になっている。
最上階に、魔王となったフョードルが待ち構えるような形だ。
【道中敵とかトラップとかが待ち構えていて、最上階に魔王が待つ……か。ま、RPGでよくある構造だねぇ】
……天羽は時折、フョードルの理解を超える言葉で話すときがある。
【勇者たちは下から攻略していく形……でも大丈夫? ちょっと心配なんだけどぼく】
「ふはは! ご安心ください!! 配置したトラップの数々、そして! なにより私の秘蔵っ子がいるから!」
ぱちんっ、とフョードルが指を鳴らす。
彼の前に、7人の覆面の男女が現れる。
「彼らは我がギルド! 追放者ギルド【七つの大罪】のギルメン! 私が手ずから力を与えた、精鋭達でございますぅ!」
【あー、追放者ギルド、あったねそんなのも】
七つの大罪をもした7人の男女。
魔神フョードルの手によりさらにパワーアップしている。
「彼らをまずは、大罪の間に配備させます!」
【大罪の間?】
「魔王城の一階部分! 七つの部屋に別れており、上へ行く階段の鍵は、その部屋のどこかに置いてある! というもの! そして待ち受けるのは自慢の七つの大罪!」
【ふーん。これもベタっちゃベタだね】
フョードルがいくら熱弁を振るっても、天羽はどこか冷めたような態度を取ってくる。
そのことが、気に入らない。
「我が主はご心配なのですか?」
【え、めっちゃ心配。こんな雑魚七人も集めても、超勇者の仲間にすら勝てないよ】
ぎりっ、とフョードルが歯がみする。
「問題ございません! 七つの大罪は無敵! 負けるはずがございませんぅ! ゆけ!」
七つの大罪達はうなずくと、それぞれの部屋へと転移する。
「さぁ超勇者ども! この七人の敵を各個撃破できるかなぁ!? 果たして、何人の仲間が、立っていられるかなぁ……!?」
と、そのときだ。
ドガァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!
「ふぁ……!?」
城を揺るがすほどの衝撃と、爆発音。
フョードルは思わずよろけて、膝を地面につけてしまう。
「なっ!? なんだ!? 何が起きたんだ……!?」
【フョードル君、ほらみてごらんよ。七つの大罪の間を】
立体魔法陣を拡大してみる。
……絶句した。
七つの大罪の間が、まるごと、消えていたからだ。
「し、信じられぬぅう……!」
フョードルが用意した、精鋭たちがワンパンされていた。
しかも部屋ごと壊されていた。
「あ、相手は! 相手に傷は負わせたのだろう!?」
【いーや、無傷みたいだねぇ】
城の中の様子を見やる。
ローレンスが背中に大剣を戻す。
『これにて一件落着!』
『いやすごいね相変わらず、剣の一振りで、七つの部屋ごと、中に居る敵ごと、葬り去るなんて』
『すごいです、ローレンスさん!』
……あり得ないことが、絶賛展開中だった。
七つの大罪の部屋を、ローレンスはひとりで、しかも一撃で、破壊して見せたのだ。
【この魔王城はかなりの広さを持つ。さらに素材は神威鉄なんて比じゃないくらい固い……それを一撃とか、やるねえ。こりゃフョードル君の秘蔵っ子がやられてもしかたないか】
「そん……な……ばかな……」
本来なら、七つの大罪との戦いが繰り広げられるとこだった。
憤怒から始まり、順々に戦っていき、七人との死闘を繰り広げたあと……。
次の階へという想定だったのだ……。
それが、わずか数秒しか持たなかったのだ。
【ま、落ち込むなよ。こうなるのわかってたから、あらかじめぼくが助っ人を用意しておいたからさ~】
ずずっ、と部屋の奥から、4柱の魔神が現れる……。
否、魔神と呼ぶには、それら4つは、おぞましい見た目をしていた。
「うぐ……ぷ……!」
あまりに膨大な魔力量に、吐きそうになってしまう。
【彼らは外なる神。ぼくが作ったオリジナルの……まあ人造の神ってところかな】
「外なる神……? 人造の、神……?」
【そ。まあ彼らは君の雑魚部隊よりはほどほどにやってくれると思うから】
……天羽の口ぶりでは、この外なる神すらも、超勇者達が倒すような感じであった。
……やっと気づいた。
天羽は、自分たちに何も期待していない、ということに。
超越者たる彼の中では、どれもが捨て駒なのだ。
【ほいじゃ、君もそこそこにがんばってねー】
天羽の通信が切れると、ぎりっ、とフョードルが歯がみする。
「これも……全部! アクト・エイジのしわざなんだぁあああああああああ!」
フョードルはアクトにしてやられすぎて、全部をアクトに責任転嫁するようになっていた。
「ゆるさん! ゆるさんぞぉ! アクトぉおおおおおおおおおおおおお!」
……これから戦うのは、ローレンスだというのに。
フョードルはアクトへの怒りと憎しみを、募らせるのだった。