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142.極東勇者パーティ、奮闘する



 アクトの元を離れ、勇者パーティ達は最終戦、魔王との戦いに挑みに来た。


 魔王城の結界をこえ、城の中に入ろうとしたそのとき。


 黒い獣が無数に湧き出てきた。


 その数は、数えるのも馬鹿になるくらいの量だ。


「ひぃ! アレ一体が四天王レベルなのに、こんなにたくさん居たら死ぬっすよぉおお!」


 魔族ヴィーヴルが半泣きで、ローレンスに抱きつく。


「やっちゃってくださいよぉ、ローレンスさん!」


 超勇者の力は人の理を超えている。

 その剣のひとふりは、天を裂き、地を砕き、星すら真っ二つにする。


「あんたなら楽勝っすよねぇ!?」


 だが、ローレンスは剣を抜かない。

 腕を組んで、どっしりと構えている。


「うむ! だが……おれは動かん!」

「どうしてぇ!?」


 泣きべそかきながらローレンスの体にしがみつくヴィーヴル。


「彼女たちに、任せたからだ!」


 ローレンスの視界の先、5人の剣士が立っている。


 5つの属性をそれぞれ持つ剣士達。


 極東の勇者達。


 一度パーティ解散の危機があったものの、今はこうして、また一つにまとまって最後の舞台に立っている。


 黒髪の、炎をもした服に身を包んでいるのが、リーダーの火賀美ひがみ


 青い髪の水月すいげつ

 そして土門、日光ひかり、木蓮と続く。


「さぁいくわよあんたたち」


 リーダーの火賀美は刀を抜く。

 だが前にように、先んじて飛び出すようなまねはしない。


「準備は万全でしょうね?」

「無論でござる!」


 水月。以前パーティを火賀美によって追放されたことのある少女だ。


 彼女は一度ローレンスパーティに参加していたのだが、最後の戦いのために、またこのチームに戻ってきたのだ。


「これが最後の戦いよ。みんな……気合い入れるわよ」


 残り四人の剣士達は、顔を見合わせると、クスクスと笑う。


「な、なによ……」

「いやぁ、火賀美殿も随分変わられたなぁと思ったまででござる」


 うんうん、と残りのメンツもうなずく。


「む、昔のことは良いでしょ……ほら、いくわよ」


 彼女たちは死地に赴くというのに、全員がリラックスしている。


 控えている、ローレンスパーティたちも、誰もそのことを注意しない。


 彼らの力を信用しているのだ……。


「ローレンスさん! ねえ! ほら! 剣ぬいて剣ほら! 死んじゃうからほら! たすけてぇええい!」


「少しは信用したまえよまったく……」


 ウルガーの持っている槍の石突きで、こつん、とヴィーヴルはひざをこつとされる。


 火賀美はまっすぐに、手を見据える。


「さぁ……いくわよ!」


 ごぉ……! と5種類の魔力が吹き荒れる。

 水月が青い刀身の刀を振り上げる。


「水成る竜……水竜乱舞!」


 水月が刀を地面に突き刺す。


 すると凄まじい量の水が地面から湧き出す。

「うびゃぁあああああああああああ! おぼれるぅううううう! って、アレ大丈夫?」


 大津波が敵のみを押し流す。


 黒い獣たちはその水圧に耐えきれず、水死したり、押し流されたりする。


「樹海結界!」


 木蓮が同様に、刀を地面に突き刺す。


 押し流された水の流れを、巨大な樹木達がまるで檻のように囲っていく。


「ぬぅううん! 超土隆壁ぃいい!」


 樹で囲った結界を、さらに土の壁で覆っていく。


 超巨大な土のドームが完成し、表面が金属へと変わる。


「す、すげえ……相手を閉じ込めた……けど! これだけじゃ勝てねえっすよぉ!」


「わかってるわよ、わめくんじゃあないわ」


 火賀美が優雅に神楽を舞う。


 舞に合わせて、刀身より炎が飛び散る。


 それは赤から青へと変わる。


 凄まじい熱量を秘めた蒼炎が大地を焦がす。

「いきなさい……蒼炎の不死鳥!」


 舞い踊り終わると同時に、青い炎が空へと飛翔していく。


 それはそれは巨大な鳳へと変化すると、勢いよく結界めがけて飛んでいく。


 ぶつかった瞬間、思わずヴィーヴルは目を閉じる。


 衝撃、そして爆風が彼女たちを襲う。


 地面を引きはがしながら、周囲のすべてを焼き付きしていく。


 鉄の檻に囲まれた敵達が、逃げ場がなくてドロドロに溶けていく……。


 やがて、そこには何も残らない。


 一切合切が灰燼に帰したのだ。


「あ、あんたもついに……人間やめちゃったんすね……火賀美さん……」


 少なくとも人間が出せる火力ではないことは確かだ。


 地面がドロドロの溶岩になっている。


「うんまあ……もう今更というか……」


 水月が目を細める。


「今ので4割くらい削れたでござるな。ただ……残り6割が……結合していってるでござる」


 黒い獣たちは劣勢だと思ったのだろう。

 一カ所に集中して集まっていく。


 まるで粘土細工のように、もごもごと動きながら、一つの形を取っていく……。


「きょ、巨人っすぅうううう!?」


 黒い獣が固まって作られた、黒い巨人が出現する。


 ご、ごご……ずごごごごごぉ……!


「ひぃい! 地面が揺れる! なすかこれなんすかぁ!?」


 イーライが目を閉じて探知魔法を使う。


「どうやらあの巨人の重さに耐えきれず、星の地表が沈んでいるようです」


「ちょっ!? 星が凹むってぇ!? どんな質量なんすかぁ!」


 巨人が一歩歩くごとに地盤が沈んでいく。


 大地が、この星が、傷ついていく……。


「短期決戦よ、わかってるわね、あんたたち」


 いち早く状況を理解した火賀美が、素早く仲間達に指示を出す。


 刀を抜いて、火賀美達が刃を重ねる。


「…………」


 火賀美は目を閉じて、これまでを思い出す。


 本当に、本当に長い道のりだった。


 勇者となって海を渡り、調子に乗っていたら鼻を折られ……。


 高い壁ローレンスと直面して、嫌になった。


 でも……

 

 それでも火賀美は、いいと思った。


 壁に上る必要は無いと。


「あんたたち。あたし達はたぶん、主役にはなれない。この力を使ったら、体力をほぼ消費して動けなくなる」


 つまり、魔王との戦いには挑めないと言うこと。


 だが誰も異存は無い様子。


 それは火賀美すらも、だった。


「物語の端役が、アタシね、嫌いだった。だって地味なんていやじゃない。悲しいじゃない。みんなの心に、ド派手に残りたいじゃないの……」


 だから、いつも一人でツッコんで暴れて……そして失敗した。


 でも……もういいと彼女は思った。


「脇役でもいい。たくさんの人の心に残らなくていい。誰の記憶にも、記録にも……残らなくて良いんだ」


 きぃいいいいん……と火賀美たちの刃が、輝き出す。


 彼女たちのもつ5つの魔力が、渾然一体となって、一つの奥義を作り出す。


「未来世界で、あたし達の子孫が、何者にもおびえない生活を送れていたら……もうそれでいいんだって」


 目立つことを辞めた火賀美。


 彼女はただ、世界の平和のためだけに……。

 その身を犠牲にして、悪と戦うもの……。


 すなわち、真の勇者へとなったのだ。


「いくわよ、奥義……!」


 5つの魔力が一体化して、やがて一つの力を顕現させる。


「【天神アマテラス】!」


 5色の光が天を貫く。


 それは黒い巨人を凌駕するほどの、巨大な女神を作った。


 光の女神は1000の手を持つ。


 その手をつかって、悪を包み込む。


 じゅぅ……! という蒸発する音とともに、黒い巨人がみるみる消滅していく。


 やがて……何も残らず……。


 そして、傷ついた大地は元通りになっていた。


「あ、あんだけいた化け物達が……きれいさっぱり……まるで、何もなかったかのように……なくなったっす……」


 唖然とするヴィーヴル。


 極東の勇者達は、その場にへたり込む。


 全身全霊をかけて、彼女たちは雑魚のつゆ払いをしたのだ。


 回復術士ルーナが駆け寄ろうとするのを……火賀美が手を上げて制する。


「さ……活路は切り開いたわよ」


 すっ、と火賀美が手を上げる。


「いきなさい、ヒーロー!」


「うむ!」


 ぱんっ! とローレンスが火賀美の手をたたき、走り出す。


 彼の仲間達は力を温存した、最高の状態で、敵陣へと入り込むことに成功。


「これで……よかったのよね……」


 残された火賀美が、その場に崩れ落ちる。


 仲間達も、満足そうな顔をしてうなずいていた。


「アクト……やっとアタシ、勇者になれたわ……あんたのおかげよ……」


 ここにはいない恩人に、彼女は感謝の意を伝える。


「ありがとう、優しい悪徳ギルドマスター」

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[気になる点] 未来世界で、あたし達の祖先が、何物にもおびえない生活を送れていたら……もうそれでいいんだって 子孫では?祖先だと逆なのでは?
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