141.勇者パーティ、魔王の城へ
悪徳ギルドマスター、アクトの元を旅立った、勇者パーティ達。
人間の国ゲータニィガを出てしばらく。
彼らがたどり着いたのは、魔王の国……ケラヴノスティア。
人間の領土と魔王の領土は隣接している。
大森林を挟んだ向こうに広がるのは、魔族達が支配する荒野。
その最奥にあるのが、魔王城。
だがこの城は異次元の結界によって、守られていた。
魔王の部下である四天王が、結界の発生装置をそれぞれ守っていたのだ。
しかしローレンス達は四天王を撃破。
城を守っていた次元の壁は破壊された。
そして……目当てである、魔王城への侵入が可能となった次第だ。
「うむ! 到着だな!」
大剣を背負った、大男……ローレンス。
白いマントに輝く白い歯。
彼の笑顔は人に安心を与える。
アクトが育て、輝きを得た原石の一つだ。
「やれやれ、結構楽勝だったね。ここまで来るのに。拍子抜けしたくらいさ」
ローレンスパーティのサブリーダー、銀髪の青年ウルガーが、かっこつけた調子で言う。
「まあ異常なほどに敵が襲ってこなかったのは気になったけどね」
ローレンスとは別の勇者パーティ、極東の勇者・火賀美が言う。
ローレンスの勇者パーティ。
火賀美の勇者パーティ。
ふたつのパーティで、合同でこの戦いに挑む。
「罠、でしょうか?」
魔法使いのイーライが、緊張の面持ちで杖を握る。
「罠、でしょうね」「だろうな、あきらかに敵が少なすぎる」
回復術士ルーナ、弓使いのミードが同意する。
残りの極東勇者達も同意していた。
「大丈夫なんすか~……みなさん」
ローレンス達の背後にいるのは、彼らをここまで運んできた元魔族の少女、ヴィーヴル。
元は、対超勇者用の決戦兵器だったのだが、今は寝返って彼らの仲間になっている。
「ま、大丈夫でしょ」
火賀美が何も気にしてる様子もなく言う。
「こっちには化け物と、凄い化け物と、更には超化け物がついてるんだし」
「「「だれ……?」」」
「あんたらよあんたら!」
超化け物とは言うまでもなくアクトのことである。
「ふっ……まあギルマスが何も言わず送り出したと言うことは、あの黄金の瞳に、勝利が見えていたということだろうね」
アクトには未来を見通す魔眼がある。
彼が何も言ってこない、それは最大の賛辞である。
アクトが自分たちの力を、信用しているこということだから。
「うむ……では、聞いてくれ! みんな! これからの話をしよう!」
ローレンスが勇者パーティ達を見やり言う。
「これより我らは、魔王の城へ乗り込む! そして魔王を打ち倒し、世界に平和をもたらす! これは、最後の戦いだ!」
今まで色んなことがあった。
この場に居る全員が、一度挫折を味わっている。
だがその都度、アクト・エイジに救われてきた。
彼が自分たちの才能の原石を信じて、丁寧に磨いてくれたからこそ……。
彼らは今、最高の輝きを放っている。
「勝とう! そして、世界に、国民に……なにより、我々を見捨てずにひろい育ててくれた、ギルマスに!」
ぐっ、とローレンスが拳を握りしめる。
「平和という、最高の贈り物を、しよう!」
「「「おう……!」」」
彼らの覚悟は決まっていた。
この先に待ち構えるのが、たとえ罠だとしても、強大な、魔王だとしても。
ローレンス達の歩みは止まらない。
なぜなら勝利を保証されているからだ。
彼らが信じるべき存在、アクト・エイジが……見守ってくれているから。
堂々たる面持ちで、進んでいく。
すると……魔王城の前に、黒い靄が発生する。
「ひぃいい! 敵っす! しかも……どひゃー! めっちゃすげえ数っすよぉー!」
黒い靄で作られた化け物達が、彼らの視界を覆い隠すほど量、待ち構えていた。
「一匹が四天王に近い力を持ってますね」
魔力を感知できるイーライが解説する。
「ええええええ!? し、四天王レベルなんすか、あの黒い化け物ぉ!」
だがしかし、ローレンス達はみじんも動揺しない。
「おれがいこう!」
「馬鹿言わないで」
火賀美が刀を抜いて、ローレンスを押しのける。
「ここはあたし達の出番、でしょ?」
火賀美はまっすぐにローンレスに言う。
「雑魚の相手は、二軍であるあたし達」
……かつての火賀美なら、そんな言葉、でるわけがない。
火賀美は自分が目立つことを、何より望んでいた。
しかし今はっきりと口にしたのだ。
自分が、端役であると。
「主役は力を温存しておきなさい」
「うむ! 任せた!」
「ちょっ!? いいんすか!?」
ヴィーヴィルがローレンスの肩を揺する。
「む! なんだ!」
「だって相手は四天王レベルの化け物軍団なんすよ!? 火賀美さんたちが強いのはまあ知ってるっすけど……さすがに荷が重いんじゃ……」
だが……。
火賀美が刀を天にかかげて、振り下ろす。
その瞬間……激しい炎が沸き立つ。
炎は不死鳥の形を作り、黒い魔物達を飲み込み……あっという間に火の海にする。
「えええええええええええ!? ちょーつよくなってるぅうううううううう!?」
「当然じゃない!」
火賀美が、にっ、と笑う。
「アクトが育ててくれたのよ? これくらいできて、当然でしょ!」
そうだそうだ、とローレンス達が緊張感ゼロでうなずく。
「さぁいくわよ極東勇者! 最高の状態で、主役を舞台に、運ぶのよ!」
火賀美は率先して、雑魚の相手をする。
もう目立つことなんて考えてない。
彼女が思うのは、アクトに恩を返すこと。
勝って、恩を返すのだ。
火賀美は激しく燃える炎を自在に操り、敵陣地にツッコむ。
仲間達も各が、凄まじい自然の力を持って、敵を蹴散らし来ていくのだった。
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