140.復活のフョードルと、黒幕
悪徳ギルドマスターが、勇者達を送り出した、一方その頃。
今、一柱の悪神が復活する。
「ハァ……!? はぁ……はぁ……はぁ……こ、ここは……?」
そこは見たことのない場所だった。
だだっぴろいホールの中に、無数の本が積まれている。
本はまるで塔のようにそびえ立ち、あちこちにあった。
「わ、ワタシは……なぜ、なぜ生きてるんだ!?」
悪神。名前をフョードル・ドストエフスキーという。
かつてアクトと相対し……そして、敗北した魔なる神の一柱だ。
「なぜだ……ワタシは、あの憎っくきアクトに……殺されたはず……」
と、そのときである。
「やぁ起きたかい、フョードルくん?」
「だ、誰だ!?」
本の塔の奥に、これもまた、本で積まれた山があった。
山の上に、優雅に座る人物がいた。
「おまえ……いや、あなた様は!」
その人物は、頭からすっぽりと黒い布をまとっていた。
「超越者様!」
フョードルが目を輝かせ、彼の元へ駆け寄る。
超越者と呼ばれた人物は、本の山の上で座ったまま、悪神を見下ろす。
「わたくしめを、お助けくださったのですね!」
……そう。
この黒布をまとった、超越者という男が……。
悪神フョードルの、親玉。
つまり……すべての黒幕である人物だ。
「おいおいおいおい、勘違いしないでおくれよ。別に君のためにやったんじゃあない」
黒布の男はふるふる、と首を振る。
「おっと、これは【彼】の決めゼリフだったね」
くつくつ……と超越者は笑う。
「な、何のことでしょう?」
「まあ君は知らなくて良いよ。さて……フョードル君。君のこれからについて、少し話そうか」
両手を、超越者は前に出す。
「君には二つの道がある」
「二つの……道?」
「そう。1つ。僕の実験に付き合って死ぬ。1つ。今すぐここで死ぬ」
「なっ!?」
突然の提案に、フョードルは戸惑うばかりだ。
実質、どちらを選んでも死ぬではないか!
「君のこと結構気に入ってるからさ、選ばせてあげるよ。どっちがいい♡」
「!いさだくでいなけざふ、ふ」
……。
…………フョードルは、目をむいた。
世界が……反転したからだ。
否……。
「!ぃにまのつい !が首 !く」
フョードルの首が、いつの間にか切断されていた。
首の根っこにむりやり接合されている。
何をされたのか、さっぱりわからない。
そして急所を切られたのに、なぜ生きてる?
どうして、こんな状態で生きてる!?
すべてがフョードルの理解を超えていた。
人知を超えし力を持つ男……。
それが、超越者。
「君を殺すのなんて濡れた障子を破るよりもたやすい。けれど君は使える男だ。僕の手先として、最後の仕事をするなら……少しだけ生きながらえさせてあげるよ♡」
「そ、そんな……」
いつの間にか、首の位置がなおっていた。
またも、何をされたのかわからない。
いつ、攻撃されたのかも、不明。
フョードルは、ガタガタ……と体を震わせる。
あの、悪神が。
まるで幽霊におびえる子供のように、体を震わせる。
それくらい……超越者という男は、恐ろしい存在なのだ。
「わ、わか……わかりました……あ、あなた様のお役に立って……死にます」
「ん♡ そーゆーと思ったよ~」
超越者はパチパチ……と拍手する。
「さって、じゃあ君にミッションを与えるね。魔王くんとタッグを組んで、超勇者ローレンスたちを葬り去ってきて欲しいんだ」
「超勇者を……倒すのですか?」
ローレンスの、異次元の強さは理解している。
だからこそ……。
「む、無理です! 無理無理! 死んでしまいますぅ!」
フョードルは涙を流して首を振る。
「まあ今までの君がそのまま挑めば死ぬね。でも安心したまえ。君に特別な才能を授けるよ」
おいでおいで、とフョードルを手招きする。
超越者の元へ行くと……。
ずぶ……。
「いぎゃぁあああああああああ! 目が! 目がぁあああああああああああ!」
超越者はフョードルの両目を、指で突いて潰したのだ。
「おいおい大げさだよ。もうなおってるだろ?」
「えぁ……? あ……ほ、本当だ……」
フョードルは周囲を見渡す。
確かに、視界は確保されていた。
「君には特別な目を授けたよ」
「特別な……目?」
超越者がうなずくと、目の前に大きな鏡が出現する。
「こ、この目は……!?」
鏡に映る……【黄金の瞳】に、フョードルは見覚えがあった。
「時王の眼!? あの……アクトの使っていた眼じゃあないですか!?」
そう……悪神の両目には、アクトと同じ時王の眼が収まっていたのだ。
「どうして、これを……?」
「そりゃあ、【彼】に眼を授けたのが、ほかでもない、僕だからね……」
ぱさ……と超越者は黒マントを外す。
そこに居たのは……。
女とも、子供とも見えるような、見た目。
長い髪の毛。
そして……赤い瞳。
……そう、フョードルの親玉で、すべての黒幕は……。
「じゃーん、黒幕はアクトくんの師匠キャラ、超越者の天羽くんでーす」
……ギルドを追放され、奈落に落ちた彼を救い……。
そして鍛えた張本人……天羽。
フレデリカの主人にして、この奈落の主である彼が……。
フョードルや魔王を使って、世界に混乱を招いていた、張本人だったのだ。
「黒幕が師匠って展開、燃えない? ねえねえ?」
「ちょ、超越者様……? 一体何を?」
「んー、君には関係のないことだよ。それと今後は僕を天羽って呼ぶこと」
「は、はい……天羽様」
さて、と天羽が一息つく。
「これより始まるのは、魔王・悪神軍VS超勇者軍。君はその目を使って、勇者達を皆殺しにしてくるんだ。断ったらどうなるかわかる?」
従わねば、殺される。
言外にそう言っていた。
「わかり……ました……」
「うん。素直な子は大好きだ。じゃ、もういいよ。さっさと出て行きな」
暗転。
そして、気づくとフョードルは、地上にいた。
「く、くくく! くははははは! はーーーーーーーーーーーーはっはっはぁあああああああああああああああああ!」
狂ったように、フョードルが叫ぶ。
「やった! やったぞぉ! このワタシも! 時王の眼を手に入れたぁ!」
彼が狂喜乱舞するのは、当然だ。
「アクト・エイジと同じ眼だ! ひゃはっ! ひゃはははははははっ!」
アクトの持つ、時王の眼。
過去も未来も見通す、最強の魔眼。
それに何度、煮え湯を飲まされてきただろう。
だが、今その最強の眼が……自分の手元にある。
「アクト・エイジぃいいいいいいいいいいい! 勇者を殺して、次はおまえだぁあああああああああ! おまえを殺すのは、このワタシだぁああああああああ!」
……かくして。
舞台に役者がそろい、最後の戦いが……始まろうとしていた。
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