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14.悪徳ギルドマスター、ライバル組織からスカウトされる



 その日、俺はフレデリカ、ユイとともに、ギルド協会の本部へとやってきていた。


「はぁー……おっきい……立派な建物ですねぇ……」


 とは、協会本部に到着したユイの言だ。


 俺たちは組合長の部屋へと通され、しばし待つ。


「あの、アクト様。ここはいったい?」

「王都にあるギルド協会の本部だ」


「冒険者ギルド、なのですか?」


 するとフレデリカが首を振る。


「ここは冒険者ギルドだけではなく、さまざまなギルドの元締めとなっております。商業、魔道具師、あらゆるギルドの本部のような場所です」


「ギルドの援助・支援だけでなく、クエストをとりまとめ、各ギルドに投げることもあるな」


「な、なるほど……依頼は各ギルドに直接来る物もあれば、こうして協会から渡される物もある、と」


 ユイがメモ書きをしている。

 この子は物覚えがいい、きっと今に独立して立派なギルドマスターになるだろう。


「今日はどのような用事なのですか?」

「協会本部長からクエストの依頼だ。たいていの場合……厄介な案件であることが多い」

 

 と、そのときだった。


「待たせたわね、アタシが来てやったわ!」


 バンッ! と扉が開くと、小柄な女が入ってきた。

 紫がかった銀髪に、アメジストの眼をした女だ。


「この方が、協会本部長ですか? わ、若い……わたしと同じ年?」


「本部長じゃない。こいつは別のギルドのギルドマスターだ」


 ドレスを着て、縦ロールのそいつは、俺の前までやってくる。


「久しぶりじゃない、アクト」

「そうだな、【ミリア】」


 ミリアは背後に立っていたユイを見て、むっ……と顔をしかめる。


「……だれよこいつ?」

「俺の弟子だ」


「ふーん、あっそ。また女なのね。女ばっかりねあんたのギルド!」

「そんなことはない。何を怒ってるんだ貴様は」


「別に怒ってない! ばかっ! ふんっ!」


 一方でフレデリカが、こっそりとユイに耳打ちする。


「……彼女はミリア。S級1位の冒険者ギルド【血の栄冠】のギルドマスターです。年齢は14歳」


「……じゅ、14歳でギルドマスターだなんて……すごい……」


「ちなみにマスターと彼女の父とは古くからの友人です」


 するとミリアはこほん、と咳払いをする。


「あんたも本部長からの呼び出しを食らったのね。ちょうど良いわ」


 びしっ、と彼女が俺に指を突きつける。


「あんた、今日こそアタシのものになりなさい」


 ぽかん、とユイが眼と口を大きく開く。


「え、ええぇええええ!?」


 やがて声を張り上げる。


「ど、どういうことですか!? け、結婚なさるのですか!?」


「んなっ!? ち、ちがうわよ! だ、誰がこんな人相も性格も最悪の男とけけっ、結婚なんてしゅるもんでしゅかっ!」


 ミリアが顔を真っ赤にして叫ぶ。

 フレデリカがぷっ……と吹き出す。


「なによ冷血女?」

「いえ別に。ツンデレ乙と思いまして」

「むきー! なによばかー!」


 こほん、とミリアが咳払いをする。


「アクト、弱者救済ギルドなんて捨てなさい。アタシの元で、大勢の精鋭達の育成に専念した方がいいと思うわ。才能を腐らせるだけよ」


 真剣な表情のミリア。


「アタシはあんたの眼と育成の腕を高く評価しているわ。素晴らしいものだとね。あんたが入れば、ギルド1位の座は盤石になる」


 すっ、とミリアが俺に手を差し伸べる。


「アクト、【血の栄冠】に来て。副ギルドマスターとしてのポジションは、あんたのために空けているわ」


 背後のユイが息をのむ。


「す、すごい……S級1位のギルマスから、直々にヘッドハンティングされているなんて……」


「さすがアクト様です。それで、どうなさるんですか?」


 俺の答えは決まっていた。


「すまないミリア。断らせてもらう」

「んなっ! ど、どうして!?」


「俺にはこのギルドでやらねばならんことが山積みなのだ。申し出はありがたいが、俺がここを辞めるには、まだ早い」


 ミリアが歯がみする。


「……どうしても? ねえどうしてもダメなの?」

「ダメだ」


「給料は、あんたが望む額を提示するわ。待遇も考える。それでもダメ?」

「ダメだ」


 そう……とミリアがうつむくと、ぐし、と目元を拭う。


「ふ、ふん……! バカなギルマスね。このアタシがせっかく誘ってあげたのに、断るなんて! あーあ、後からやっぱりアタシの元へきたいって泣きついてきてももう遅いんだからね」


「そうはならないから安心しろ」


 じわ……と眼に涙を浮かべ、だがそっぽを向いて言う。


「ばーかばーか! アクトのばーか! ふんだ!」


   ★


 ほどなくしてギルド協会本部長がやってきた。

 60歳だがガタイがよく、若々しい印象を受ける。


 ソファに座る俺とミリアの前で、腰を下ろす。


「忙しいのに呼びだしてすまないな。君たちにしか頼めない、少々厄介な【モンスター】が出現してな」


 映像記録用の魔道具を起動させると、空中に立体映像を表示させる。


 だが周囲に落雷が発生しているせいで、不鮮明な映像でしかなかった。


「なにこれ? これがモンスター?」

「……【麒麟】か」


 俺が言うと、本部長がうなずく。


「さすがアクト、目がいいな。その通り、雷雲を呼び、周囲に迅雷をまき散らす、荒ぶる神の獣だ」


 雷が落ちたのか、映像はぶつりと途切れてしまった。


「SSランクモンスターか、確かにこれは手を焼くな」


「アクトさま。Sランクが上限ではないのですか?」

「通常はな。だが古竜や、それに類する強い敵などは、Sランクを超えた格付けが与えられる」


 本部長はうなずいて言う。


「勇者パーティ案件なんだがあいにくと今手が離せないらしくてな。冒険者側にお鉢が回ってきた。撃退せよ、とな」


 討伐ではなく撃退か。


「ミリアのギルドと協力すれば問題ないだろう」

「ちょっと待ちなさいよ」


 ミリアは不機嫌そうな顔で言う。


「撃退? なになまっちょろいこと言ってるの? 人にあだなす害獣よ? 討伐すればいいじゃない」


 彼女は自信たっぷりに胸を張って言う。


「この討伐依頼、アタシたち【血の栄冠】が請け負うわ!」


 本部長は顔をしかめて言う。


「たしかに血の栄冠はS級1位。精鋭が揃っている。だがなぁ……」

「なによ? 不服?」


「アクト、心配だからついてってやってくれ」

 

 だがミリアは首を振る。


「結構よ。うちだけで片付けるわ」

「おいおい、無茶を言うな」


「無茶じゃないわ本部長。アタシたちはS級1位。全冒険者ギルドのトップに立つ実力があるのよ。他人の手なんて必要ないわ」


 血の栄冠は多数のSランク冒険者たちが所属している。

 さらにミリアには特殊なスキルがあり、それが自信の源となっている。


「アタシがやるわ。何か文句ある、アクト?」

「別にお前のやり方に異を唱える気はない。だが数日は様子を見たほうがいいと思う」


「はぁ? なにそれ」

「平時ならおまえのギルドでも対処できるだろうが、今は時期が悪い」


「ふん! 時期なんて関係ないわ。うちの精鋭は何時だって万全のコンディションよ」


 ミリアは依頼書を本部長からひったくると、立ち上がって出て行こうとする。


「ミリア。やめたほうがいい」

「うるさい! アタシの誘いを断った分際で、よそのギルドに口挟まないでよ! ばかっ」


 彼女は俺をにらみつけると、踵を返して出て行く。


「あー……すまんなアクト。ミリアは優秀だがいかんせん子供でな」

「問題ない」


 俺は通信用の魔道具を手に取って、連絡を取る。


「アクトだ、今回の件だが……」


 通話を取り終えて、俺は魔道具をしまう。


「なるほど、さすがだなアクト。仕事が早い」

「いくぞ、二人とも」


 俺はフレデリカ達とともに、部屋を出る。


「アクト様。やはり、うちのギルドも血の栄冠をサポートするために出動するのでしょうか?」


「バカ言え。今回の依頼はミリアが請け負った。彼女の許可なく他ギルドが割って入っていけば、協会の規定に反する」


「で、では彼女たちを放っておくのですか?」

「そうだ。俺【たち】は手を出さない。俺たちはな」


 ユイは心配そうな表情でうつむく。

 だがフレデリカは微笑むと、彼女の頭をなでる。


「御安心なさいな。マスターは慈悲深いお方、目の前で消えようとする命を見過ごす御方ではありません」


「でも、手を出さないって……」


「マスターにはマスターのお考えがあるのです。我らが最高のギルマスの手腕を信じましょう」

【※読者の皆様へ】


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― 新着の感想 ―
[一言] 麒麟を害獣として扱っているので大きく減点。
[良い点] 展開が早くて最高です❗ 主人公のヒーローっぷりが最高! [気になる点] 更新が待ち遠し! [一言] 体調に気を付けて(*´・ω-)b 執筆頑張って下さい❗
[一言] >うるさい! アタシの誘いを断った分際で、よそのギルドに口挟まないでよ! ばかっ なにが無茶って、こんな思春期発情猿が対外折衝やってるのが無茶 >あー……すまんなアクト。ミリアは優秀だがい…
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