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138.ローレンスとサシで飲み

【★お知らせ】


書籍版2巻でます!

10/15に発売予定!


挿絵(By みてみん)



 俺の元にやってきた、ローレンスと極東勇者達。


 これより彼らは、魔王討伐という最後の難関に向かって、出発しようとしている。


 話はその日の夜。


 俺のギルド、【天与の原石】。

 ギルド会館にて。


 俺は自分の部屋から出て、1階へと降りてきた。


「ふがー……」「ぐぅー……」「もうたべられない~……」


 ホールではギルメン、および勇者パーティのメンバー達が眠っている。


 さっきまで子供みたいに騒いでいたのだが、やれやれ。


「アクトさん!」


 振り返ると、大男がそこにいた。

 こいつはローレンス。


 地上最強の勇者であり、元ギルメンの男だ。


「ナニしてるのだ、貴様は?」


「うむ! 稽古をしてきた! 素振り1兆回!」


 ……やれやれ。まったく規格外の男だ。


「おいローレンス。ちょっと付き合え」


「む? いいぞ!」


 ローレンスを引き連れて、俺は夜の街へと繰り出す。


 深夜、街は静まりかえっている。


 ローレンスを連れてきたのは、この街唯一のバーだ。


「これはこれはアクト様。いらっしゃいませ」


 整った身なりのバーテンダーが、俺に気づいて、笑顔で出迎える。


「それにローレンス様も、いらっしゃいませ」


「うむ! こんばんは!」


 なかは落ち着いた雰囲気のバーとなっている。


 魔法をつかった照明が、青く周囲を照らし、古い感じの音楽が流れている。


「良い雰囲気のお店だな! こんな所を知ってるなんて、さすがアクトさんだ!」


 バーテンダーは笑顔で俺に言う。


「今夜は貸し切りにさせていただきます」


「なに! いいのかっ?」


 ローレンスが目を丸くする。


「ええ。表の看板を下げて参りますね」

「すまないな」


 俺が言うと、バーテンダーは笑顔で首を振る。


「気にしないでください! いつもアクト様にはお世話になっておりますので」


 彼は頭を下げると、一度部屋を出て行く。

「やはりアクトさんはすごいな! 何も言わずふらっと訪れた店を、貸し切りにしてしまえるなんて!」


「別にたいしたことはない」


 だというのに、やれやれ、大げさなやつだ。


 ややあって。


 俺たち並んでバーカウンターの前に座る。

「うまい! こんな美味い酒、はじめてだ!」


 がぶがぶ、とローレンスが浴びるように酒を飲む。


 だがまったく酔う気配がない。

 昔からこいつは、うわばみなのだ。


「アクトさんが選ぶ店だからな! 美味くて当然か! 美味い!」


「そう言ってもらえると光栄です」


 バーテンダーが新しいカクテルをつくり、ローレンスの前に出す。


「味わって飲め」


「うむ! 飲んでいるぞ! 美味い!」


「貴様は昔からそうだな、何を飲んでも何を食っても、美味いという」


 ローレンスはニコニコ笑いながら、俺を見てくる。


「なんだ?」

「いや……とうとう、ここまでこれたんだなぁ、と少し感慨にふけっていたのだ」


 彼は目をほそめて、自分の手を見やる。


「昔のひょろがりだった子供が、今では勇者をやれて、魔王を倒せるところまで来ている……あなたのおかげだ」


 深々と、ローレンスが頭を下げる。


「感謝する、アクトさん」

「……ふん。勘違いするな」


 俺はカクテルグラスを手に取って、一口啜る。


「俺が貴様を見いだし育てたのは、後になって大成するとわかっていたからだ。今のうちに目をかけてやれば、必ず俺の利益になるとな」


 もう一口飲み……からになっていた。

 その絶妙なタイミングで、スッ……と新しいカクテルが出される。


 頼んでいないが、しかしちょうど欲しいところだった。


 良い仕事をするな。


「アクトさんは、信じてくれてたってことだな! おれが絶対、魔王を倒すって!」


 ローレンスはその赤い瞳をキラキラと、まるで宝石のように輝かせる。


 図体はデカくなっても、この目は、昔も今も同じだな。


「ふん。当たり前だ。誰が貴様を育てたと思ってる?」


「うむ! アクト・エイジ……世界最高の指導者にして、おれの最高の師匠だ!」


「わかってるじゃないか」


 俺はカクテルを1杯飲む。

 すると、また飲み干したタイミングで、もういっぱい出てくる。


「なあ……アクトさん。おれは、強くなれてるかな?」


 少し目線を下に落として、ローレンスが言う。

「安心しろ。体も心も強くなれてる」


 俺はローレンスの胸を、どんっ、と叩く。

「少なくとも決戦を前に、【魔王討伐の仲間として、ついてきてくれないか】と軟弱なことを言わなくなったじゃないか」


「あ……」


 一度、こいつは俺を仲間に引き入れようとしてきたことがあった。


 あのときと違って、今回、こいつはそんなこと言ってこなかった。


「貴様は強くなった。この目で、貴様をずっとみてきた俺が……保証しよう」


「あ……」


 ぽろり……とローレンスが、涙をこぼす。

「あぐ……あぐど……あぐどざぁあああああああん!」


 大の男が、子供のように泣きじゃくる。


 俺はヤツの肩を、ぽんぽんと叩く。


「おれ……おれ……うれしくて……うぐぅううううう!」


 常に前に立ち、剣を振るってきたこいつもまた、一人の人間なのだ。


 不安も悩みもあって当然。

 俺が愚痴を聞くことで、ほんの少し、心が軽くなれば……それでいい。


 ほどなくして……。


 ローレンスは酔い潰れて、カウンターに突っ伏していた。


「さすがですね、アクト様」


 バーテンダーが俺の前に、カクテルを出してくる。


「ローレンス様が、心に不安を抱えていることを見抜いて、ココへ連れてきたのですね」


 彼が微笑みながら、勇者を見やる。


「今この時間帯なら、客も入ってないと当たりを付けて。ローレンス様が、悩みを打ち明けて、涙を流して……すっきりできるように、ここを選んだ」


「勘違いするな。俺は単に、お気に入りの店を、こいつに自慢したかっただけだ」


 バーテンダーは苦笑すると、静かに言う。

「よほど嬉しかったのですね。ローレンス様も……それに、アクト様も」


「俺が? ふん、そんなことはない」


「そうですか。ただ……いつもより、酒の進みが早かったように感じたのですが?」


「…………ふん。余計な口を挟むな」


 その後、目を覚ましたローレンスをつれて、ギルド会館へと戻るのだった。

 

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