130.悪徳ギルドマスター、田舎から出てきた若者をそそのかす3
悪徳ギルドマスターであるアクト・エイジのギルドに、新しい人材が入ってきた。
田舎から成り上がりを夢見て出てきた少年・ヤボイ。
悪のカリスマ(だと勝手に思っている)アクトに接触を果たした。
ややあって。
ヤボイはアクトとともに、冒険者ギルド【天与の原石】へ向かう途中だった。
黒髪の青年の後をついていきながら、ヤボイは期待に胸を膨らませる。
(やった! やったぞ! 悪のカリスマの部下になることに成功した! まあ過程はどうあれ、超らっきー!)
出逢い方は最悪だったが、しかしなぜかアクトに気に入られたようだった。
これはチャンス、成り上がる……ビッグチャンスだと彼は思っている。
(そういえばアクト・エイジのギルドってどんなとこなんだろうか……きっとアウトローなやつらが集まってるんだろうな! 屈強な戦士とかいるんだろうなぁ)
「何をニヤニヤしている貴様?」
アクトが立ち止まって、こちらに振り返る。
「いえ! はやくギルドにつかないかなーっと思いまして!」
「もう到着したぞ」
さて、悪の総本山はどんな感じだろうか……。
きっと地下の秘密基地、もしくは、すさんだ奴らがたむろする酒場とか……。
「って、あれ? こ、ここですか?」
そこにあったのは、こぎれいな建物だった。
開放的な作り、清潔感にあふれる建物。
……悪の総本山にしては、しょうしょう人が入りやすいデザインだった。
「アクトさん、あれっすか? からかってるんすか? それともテスト?」
「何を言ってる貴様」
「いやだって……あのアクト・エイジのギルドですよ。なんでこんな……普通というか……」
「下らんこと言ってないでさっさと中に入るぞ」
少々の疑問はあれど、しかし重要なのは外見ではなく中身。
(なるほど……そうか。本当の大悪党は、事務所は普通にするんだな。情報弱者たちを安心させ、金を絞り取るために! くく……なんてすごいんだ)
「参考になります、アクトさん!」
「……この子は一体何を見て、何を参考にしているのでしょうか……?」
「知らん。いくぞ」
首をかしげるフレデリカを連れて、アクトがギルドの中に入る。
ギルメン達、そして客達で中は賑わっていた。
「「「アクトさん! お疲れ様です!」」」
ギルメン達はアクトに気付くと、みな笑顔で頭を下げて、あいさつをする。
それを見たヤボイは……。
(あ、あれ? なんか……部下も普通……というか、え!? めっちゃ可愛い子おおくない!?)
笑顔で近づいてくるのは、弟子のユイ。
続いてSランク冒険者のロゼリア。
受付嬢長のカトリーナ、治療室担当のショコラーデ。
と、美少女・美女ばかり。
(いやでもまてよ。悪党って言えば、美人を侍らしてる感はあるな。ハッ! そうか……この人らはみんな、アクトさんの女なんだ!)
「なるほど、さっすがアクトさん! 大悪党ですね! ナイス悪党!」
「……さっさと来い」
「うっす! どこまでもついてくっすー! おれもアクトさんみたいな大悪党になって、美人をはべらせてウハウハしたいでーす! ひゅー!」
「どうも先ほどから、この子とマスターとで話がかみ合ってないように見えるのですが……」
「放っておけ」
ややあって。
ヤボイはギルマスであるアクトの部屋へと、通される。
(ここが悪のリーダーの部屋か……。なんか普通だな……。いやまて、こんな普通なわけがない。きっと……そう、隠し部屋とかあるに違いない! そこではヤバい事が行われてるに違いない! どこだ隠し部屋は!)
きょろきょろ、とせわしなく周囲を見渡すヤボイ。
一方でその様子を遠巻きにアクトとフレデリカが見ている。
「マスター、あんな子が本当に才能ある原石なのです?」
「ああ」
「まあマスターが言うなら間違いないのでしょうが……」
とはいうもののフレデリカは彼の資質に疑問を抱いている様子だった。
「おいヤボイ」
「はいっす!」
ヤボイは直立不動の体勢を取り、アクトの前に立つ。
「今日より貴様は俺の補佐官……簡単に言えば弟子にしてやる」
「~~~~~! ま、まじっすか! ひゃっほぉおおおおおおおおおおおおう! やったぁあああああああ! 人生勝ち組確定ばんばんざーーーーーーーーーい!
「ウルサい子ですね……マスターが話しているでしょう? 黙りなさい」
「うぃーっす!」
と言いつつもヤボイの気分は高揚していた。
憧れのギルドマスターの付き人になれたのだ。
これが自分の成功への第一歩だと、彼は固く信じていた。
「ではまず貴様に最初の仕事を与える」
「はいっす! なんでもやりますよー! 金の取り立てっすか!? 盗みっすか!? 敵アジトに潜入して」
「挨拶回りだ」
「………………はい?」
ヤボイは、首をかしげる。
「い、今……なんて?」
「挨拶回りだ。まずは世話になるだろう、ギルド職員たちにアイサツして、名前と顔を覚えてもらってこい」
ヤボイはぽかん……と口を開く。
大悪党のもとについて、最初の仕事にしては、少々地味だった。
というか、肩すかし感はあった。
しかし……
(なるほど……たぶんこれは……新人いびりだ! 地味な仕事、辛い仕事を与えて、おれがさっさと逃げ出すやつかどうか、テストしてるんだな!)
「わかりました! アクトさん、おれ、したの連中にあいさつしてきやーす!」
笑顔でヤボイはうなずくと、どたばたと部屋を出て行く。
残されたアクトとフレデリカは、同時にため息をついた。
「マスター……大丈夫なのでしょうか、あの子……」
「まあな。フレデリカ。ユイにあいつの補佐をやらせろ。それとカトリーナにもサポートしろと通達しておけ」
「かしこまりました。まあ……素直な子ではあるので、伸びはするでしょうけど、わたしには路傍の石にしか見えないのですよね……」
だがアクトの目には、しっかりと、ヤボイという少年の放つ才能の輝きが、見えていたのだ。
だから、彼を拾った。
それはフレデリカもわかっていることだ。
「しばらくは様子見だ。まずは簡単な仕事からやらせていく」