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13.悪徳ギルドマスター、魔道具師ギルドを救う



 魔道具師ギルドのギルマス【リア】がやってきた、その日の夜。


 俺はリアのもとを尋ねた。

 彼女は魔道具師ギルドの工房にいた。


「こんな時間まで何をやっているのだ、貴様は」

「ぎ、ギルマスぅ~……」


 彼女の目の前には、通信用の魔道具、その作りかけが置いてあった。


 周囲を見渡すと、ギルドメンバー達が、床に直で横になっている。


「何かトラブルがあったんだろ?」

「……い、いえいえ、トラブルなんて」


「強がるな。なにを隠してる?」


 この女はアポもなくウチに来たことはなかった。

 さらに、化粧で誤魔化してはいたが、目の下に大きな隈があった。


 トラブルかと思って身構えていたら、何も言ってこなかったので、様子を見に来た次第だ。


「はは……ギルマスは、何でもお見通しなんですね……。さすがです……」


「トラブルの内容を端的に説明しろ」


「明日までに、通信用の魔道具を100個、作らないといけないんです」


 通信用魔道具は、離れた人と会話できる、文字通り魔法のアイテムだ。


 1つ作るのにかなり時間が掛かる。

 少なくとも、明日までに100個など到底無理だ。

 くわえて、他のギルメン達はダウンしている状況。


「納期を延ばしてもらうことはできないのか?」

「無理です……【財務卿】からの、納期厳守の依頼なので」


「財務卿……国からの依頼なのか」


 なおさら伸ばせないか。


「正直に打ち明けようと思ったんです。けどやっぱり迷惑かけられないって思って……うちの問題だし……」


 こいつも、3年で少しは、組織の長という自覚が出てきたみたいだ。


「ぐす……すみません……」

「謝るな。すぐに作業に取りかかれ」


「でも……ひとりで100個明日までなんて……無理です……」


 俺はリアの肩を掴んで、顔を近づける。


「ぎ、ギルマス……そんな、もっとムードのある場所で、その……」


 俺は時王の眼を発動させる。


「固有時間加速をおまえに施した。通常ではありえんスピードで動ける。さっさと手を動かせ」


 リアは凄くなにかがっかりした表情になった。


 だがすぐに気を取り直すと、凄まじいスピードで魔道具を作っていく。


 固有時間加速は、自分だけでなく、相手にも使うことができる。


 リアは驚くべきスピードで作業を進め、ものの数時間で、100個を一人で完成させてしまった。


「すご……ギルマス、やばいですぅ! できちゃいましたぁ!」


 ぴょんぴょん、とまるで子供のように飛び跳ねる。


「そうか。よかったな」


「はいっ! ギルマスのおかげで修羅場を終えることができましたっ! 本当に、ありがとうございます……!」


 と、そのときだった。


「おらぁ! 何を寝とるんじゃ貴様らぁ……!」


 工房のドアが乱暴に開き、はげ頭の中年男性が入ってきた。


 机の下で眠っているギルメンたちを見て、顔をしかめると、蹴飛ばす。


「お、おやめください、財務卿様ぁ~……」


 この無礼な男が財務卿か。


「何のご用でしょう?」

「商品の受け取りに決まってるだろぉ?」


 ニタニタと笑いながら、財務卿が言う。


「なっ!? 受け取りは明日の朝って話しでしょ!?」


「おいおいバカなのか貴様ぁ。ほれぇ、時計を見ろ。0時を回って居るではないかぁ」


 確かに日付は変わっていたが……普通0時に納品なんてあり得ない。


 第一、リアが把握していないのだから、事前に時間指定されていなかったのだろう。


「それでぇ? できているのかね、通信魔道具はぁ?」


「あ、はい。できてますよぅ」


「くく……まあできてなくて当然か。新進気鋭と持てはやされているギルド【彩りの星】とは言え、所詮は歴史の浅い……って、え?」


 ぽかん……と財務卿が口を開ける。


「い、今なんと……?」

「だから、依頼されている品は、すべて完成しましたって、言ったんですよぅ」


 通信魔道具が詰め込まれている箱を、彼女が指さす。


「で、デタラメを言うな……! ど、どうせ適当なものをつ、作ったんだろぉ!」


 びくんっ、とリアが萎縮する。

 彼女が、俺に縋るような目を向けてくる。


「おまえは、また俺に頼るのか?」


 リアは目を剥いて……だが、キッ、と財務卿をにらみつける。


「い、いい加減にしてくださいっ!」


 びくんっ、と逆に財務卿が萎縮する。


「わた、ワタシの、【彩りの星】のメンバーは、たとえ納期がギリギリでも、適当なものを作ったりしません! みんなプライドを持って仕事をしているんだ!」


 リアは目に涙を流しながら、目の前の財務卿に臆することなく言う。


「今日だって、みんな家に帰らず、寝ずにがんばってくれたんだっ。ワタシの部下を、ばかにするなー!」


 ぐすぐす……と涙を流すリア。

 

「な、なんだ小娘の分際で、財務卿たるわしに口答えをするのかぁ!? このぉお! 女のくせにぃ!」


 ぐわ……! と財務卿が腕を振り上げる。


「そこまでだ」


 俺はその腕を掴んで、ひねりあげる


「いたたたたっ!」

「ギルマスぅ……」


 リアを見て、俺は言う。


「後は任せろ。……立派にギルマスできるじゃないか」

「ぐす……ふぇええ……」


 俺は財務卿の腕を放す。


「貴様なにをする!?」

「今回の依頼、ちょっと無茶が過ぎるんじゃないか?」


 短すぎる納期、キャパオーバーな注文。

 

「おまえ、わざと無茶な注文をしたんじゃないか?」

「なっ!? なにを、根拠にそんなことをぉ!?」


「ちょいと【知り合い】に通話して聞いたんだ。おまえ、他の魔道具師ギルドとグルみたいだな」


 特定の魔道具師ギルドを優遇してやる代わりに、金をもらっていたみたいだ。


「おまえはいつもの魔道具師ギルドを利用しようとした。しかしリアたち【彩りの星】の商品の質がいいということで、こちらに話が回ってきた」


 俺は机の上に置いてあった、通信用の魔道具を手に取る。


「優遇することで、金を受け取っていた魔道具師ギルドから金をもらえない。そこで、今回無茶をリアにふっかけ、依頼を失敗させ、信頼を堕とそうとした。違うか?」


 大汗をかいて動揺する財務卿。

 どうやら、俺の推論が正しかったのだろう。


「で、デタラメだぁ……! 何を根拠にそんなことぉ!?」


「どうした? 汗びっしょりで目が泳ぎっぱなしだぞ。図星を突かれて焦っていることなんて、見れば子供でもわかる」


「そ、そんなもん何も証拠にならないだろぉ?」


「その通りだな。では調べてもらおうか。貴様の部屋を。なぁ、【エドワード王太子殿下】?」


 俺は通信用の魔道具のボタンを押す。

 ブンッ……! という音と供に、立体映像が出てくる。


「お、王太子殿下ぁ!? なぜぇ!?」


「リアの作る通信魔道具は特別製でな。映像を記録し、送信することができる」


 一連のやりとり、および財務卿が動揺していた姿を、これを通してエドワードは見ていたのだ。


「後は頼むぞ」

『承知した。すぐに調べさせよう』


「お、おまちください! 殿下! おまちくださぃいい!」


 必死になって止めようとする財務卿を、王太子は一喝する。


「さ、先ほどのはやつの作り話でありまするぅ!」

『嘘かどうかは、貴様の部屋を調べればわかることだろう?』


「し、しかしぃ~……」

『黙れ! この落とし前はきっちりとつけさせてもらうぞ!』


 がくり……と財務卿は肩を落とすのだった。


    ★


 後日、ギルマスの部屋にて。


「ギルマス、おひさしぶりですぅ」


 笑顔のリアが、俺の元へやってきた。


「ゴタゴタが落ち着いたので、ご報告にまいりましたぁ」


・財務卿の部屋で、不正な取引の証拠の書類が発覚。

・財務卿は当然更迭。

・着服金は押収され、城を追放された。


「ギルマスのおかげで、窮地を脱することができました。本当に、ほんっとうに、ありがとうございましたぁ……!」


 深々とリアが頭を下げる。


「気にするな。俺はおまえを失うわけにはいかなかっただけだ」


「そ、それは……! ワタシとけ、結婚を考えてるからとかですかぁ?」


「違う。貴様の作る魔道具は出来が良いからな。それがなくなるとウチが困る」


「あー……そっちですかぁ~……」


 がっくりと肩を落とすリア。


「ワタシ、ほんとダメダメですよね……今回だって、アクトさんがいなかったら終わってたし……ギルマス失格ですよね……」


「バカ言うな。おまえは俺に頼らず、財務卿に啖呵を切って、部下の名誉を守っていたじゃないか」


 俺は立ち上がって、リアのそばへゆき、頭をなでる。


「成長したな、リア。俺は嬉しいぞ」

「ふぐ……ふぇええん! ぎるましゅうう!」


 子供のように大泣きし、リアが俺の腰にしがみついて言う。


「ワタシ、一生懸命ギルマスとしてがんばります! もっともっと、成長を喜んでもらえるように!」

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― 新着の感想 ―
[一言] ちっとばかし擁護するなら。 一人なの? 皆床に直で寝てるってあるから力尽きたのかな?と。 ギルメンの話が出てくるの意味わかんね? 細かい部分をギルマスが引き受けてて、ザックリとした部分を…
[気になる点] 100個作ってるのはギルマスとギルメンどっちなんだろう?というかこの仕事自体どういう状態? ギルドの案件なのにリアは一人で100個作ったし、とは言いつつもギルメンは半端な仕事はしてない…
[気になる点] >「わた、ワタシの、【彩りの星】のメンバーは、たとえ納期がギリギリでも、適当なものを作ったりしません! みんなプライドを持って仕事をしているんだ!」 そも、全部リアが作ったんですよ…
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