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127.悪徳ギルドマスター、勇者パーティ相手に金儲けする



 ショーンを追い出してから半月ほどが経過した、ある日のこと。


 俺のギルド【天与の原石】に、勇者パーティの槍使いウルガーを呼び出した。


「やぁギルマス! 瘴気をどうにかする物を開発したって、本当かい!?」


 銀髪の美丈夫は俺の前で目を白黒させる。


 魔王の領土は瘴気と呼ばれる毒ガスに包まれている。


 勇者といえどその空気の中に長く滞在することができない。


 だから瘴気の中で行動できるよう、どうにかしてくれとこいつから依頼を受けていたのだ。


「ああ。本当だ」


 俺は懐から赤色のポーション液が入った薬瓶を取り出す。


「それが解毒ポーションかい? 飲めば瘴気への耐性を持つという」


「ふん。バカめ。そんな低レベルな仕事を俺がすると思うか?」


「? どういうことだい?」


 俺は隣で控えていたフレデリカに目配せする。


 こくりとうなずくと、彼女は空中に氷の八面体を作った。


「この女が作った結界だ。ここにまず、貴様からもらった瘴気のサンプルを入れる」


 別の薬瓶を取り出して、結界内部に放り投げる。


 ぱりんと音を立てると結界内部に濃い紫色の気体が充満する。


「そして、このショーン・ポーションを中に入れる」


「しょ、ショーン・ポーション……? あ、安直すぎないかね名前……?」


「うるさい。わかりやすければいいのだ」


 ショーンの作ったポーションが割れると、赤い気体が中を充満する。


 瘴気と混じり合って……中にあった気体が綺麗さっぱり消滅した。


「なっ!? ば、バカな……瘴気を中和するポーションだってぇ!?」


 ウルガーが目を剥いて叫ぶ。


「何を驚いている? 注文通りだろうが」

「いやいやいや! 僕が頼んだのは、瘴気の毒に耐性をつけるようなポーション、つまり解毒のポーションで良かったのだよ!」


 なに……?

 そうか……。


「いや、でもすごいねほんと。これ、どうやって作ったんだい?」


 フレデリカに目配せすると、彼女が説明する。


「ショーンです。彼は錬金術師ギルド栄者の碧玉のギルドマスターとなりました。部下を総動員し、このショーン・ポーションを完成させたのです」


「な、なるほど……また才能ある子を見つけてきて、育てて、研究させたってわけか。さすがというか……回りくどいというか……」


 くつくつ、とウルガーは苦笑していた。


「マスターはこういう方ですからね」

「ああ、僕もよーやく最近わかってきたよ」


 俺を理解してる気になっているとは……。

 やれやれ、思い上がりも良いところだ。


「さて、ではビジネスの話に入ろう」

「ビジネス?」


「金を払え。当たり前だろ。貴様の注文に応えたのだから」


「た、たしかに……で、いくら払えば良いんだい?」


 ウルガーが、さらりと髪の毛を払いながら言う。


「勇者が手こずるような毒を中和する術を開発したのだ。当然、莫大な対価は請求させてもらうぞ」


「ほー……具体的には?」


 こいつ、莫大な対価といっているのに、全然怯えているようすも、気構えている様子もない。


 どういうことだ……?

 まあいい。


「まずは人件費。そして栄者の碧玉の設備をこのために一新したその金。材料費そのほか諸々をあわせて……フレデリカ、請求書を渡せ」


「かしこまりました」


 フレデリカが請求書の巻物を手に取って、ウルガーに渡す。


「うげっ。マジですごい大金だねこれ……」


「ああ。貴様ごときが何年かかっても払えないような額だろうな」


 くるくる、とウルガーは丸めて懐に入れる。


「それで、支払い方法はどうすればいいんだい?」


 俺はニヤリと笑って言う。


「もちろん現金一括払いだ。それ以外は受け付けん」


「そ、それはさすがに横暴じゃないかい……? この額を一括で今払うなんて無理だよ……」


 やっとウルガーに動揺が見れた。


「バカ言え。何も今払えとは言ってないだろ?」


「………………は? つまりどういうことだい、ギルマス?」


「簡単だ。貴様らが魔王を倒したとき手に入る、やつがため込んでいた金銀財宝、それで払ってもらえれば良い」


「あー……ああ。ああ、うん、なるほど……そういうことか……」


 ウルガーは一人納得したようにつぶやくと、笑顔になって言う。


「ありがとう、ギルマス。あなたは、信じてくれてるんだね」


 ウルガーは微笑んでいた。

 なぜそんな顔をする?


「僕らの勇者が、あなたが選んだパーティメンバーが、魔王を必ず倒すという確信がある。だから……出世払いでいいと。必ずこの負債を僕らが返せる確信がなきゃ、こんなことできないよね」


 ウルガーは、なんだか涙目になっていた。


 やれやれ、何を勘違いしているのだろうか。


「俺は単に貴様らが手に入れるだろう財宝が欲しくてそう言っただけだ。それ以上の意味合いはない」


「ふふっ、そういうことにしておくよ」


 ウルガーはショーン・ポーションを懐に入れると、深々と頭を下げる。


「ありがとう、最高のギルドマスター。このウルガー、必ずや魔王を打ち倒し……そして、あなたに恩を返しに来ます」


 このガキにしては珍しいことに、他者に頭を下げていた。


 ふん、こんなところでも成長しおって……。


「そうか。期待してるぞ」

「はい! ではねギルマス!」


 ウルガーがそう言ってポーションを持って出ていく。


 あとには俺とフレデリカだけが残されていた。


「さすがマスターです。ショーンとバクマンをすくい、そしてウルガーたち勇者パーティを発奮させる。一つのクエストで多くの人の心を救いました。すごいです」


「ふん……貴様も何を勘違いしてるのだ。俺は金が欲しい、だから、そのためにやっただけだ」


「またまた、わかってますよ、マスター。わたしは……わたしだけは、ね?」


 こうして、俺はウルガーからの依頼を完遂したのだった。

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