125.ブラック錬金術師ギルドを追放されたポーション師4
ポーション使いとしてショーンが才能を開花させている、一方その頃。
錬金術師ギルドは、大変な事態になっていた。
「くそぉ! なんだこのクレームの量はぁ……!」
ギルドマスター【バクマン】の机の上には、大量の苦情陳列書が並べられていた。
どれもがこのギルドの作っているポーションの質が落ちている、というものだった。
ポーション。回復薬ともいう。
それはモンスターと戦う冒険者だけでなく、国防のために戦う騎士にとっても必須アイテムだ。
冒険者ギルドだけでなく、国家や貴族からも、この錬金術師ギルドのポーションを求めて注文が殺到していた……。
そう、それは今は昔の話。
ショーンを追い出したあと、ギルドが作ったポーションは大不評だった。
まずい。飲みにくいに始まり、回復力が落ちている、解毒されないなど……。
ショーンがいなくなった前と後では、クレームの量が増え、代わりに売り上げが落ちていた。
……どう考えても、ショーンを追放した悪い影響が出ていた。
「バクマンさん、もうショーンを連れ戻しましょう」
優秀な部下が進言してくる。
「だ、だまれぇえい!」
だがその言葉を拒み、部下を殴り飛ばす。
「わ、わしの判断が間違いだったとでもいうのかぁ!?」
殴られた頬をさすりながら、部下はハッキリ自分の意見を述べる。
「バクマンさんも気付いてるでしょう……? ショーンがいなくなってからこのギルドの評判が落ちだした。彼の作るポーションが我々の根幹を支えていたのですよ」
だが今更気付いたところでもう遅い。
すでに彼は天与の原石という新しい職場で仕事を開始してる。
それに、バクマンにもプライドがある。
「あんなガキに謝れるものか! わしはギルドマスターだぞ? 一度口にした言葉を撤回するほど落ちぶれてなぁい!」
この大きすぎる自尊心が自らの首を絞めている結果になっているのだが……。
はぁ、とため息をついたそのときだ。
「失礼。バクマン様はいらっしゃいますか?」
ギルマスの部屋に入ってきたのは、燕尾服を着た老紳士だった。
「おお! これはカーライル公爵家の執事殿!」
カーライル公爵とは、この国の三大貴族の一つである大貴族だ。
王家とも太いパイプを持つ、この国の重要貴族の一つである。
無論バクマンのギルドの取引先でもあった。
「どういたしましたかなっ?」
「実は我が主カーライル公爵より書状を預かって参りました」
「はて、書状?」
老紳士から書類を受け取り、バクマンは絶句する。
そこには、このギルドとの取引を止めたい旨が書かれていた。
「な、なぜですか!? 今まで長くうちと付き合っていたのに、急に捨てるなんてっ?」
「それは、あなたもでしょう? 部下を一人追い出したそうですね?」
「なっ、なぜそれを……?」
「今貴族界ではウワサになっておりますよ。有能なポーション師を追い出した、愚かなギルドのこと。そして……この新ポーションのこと」
「新ポーション!?」
老紳士は懐から、ガラスに入ったポーションを取り出す。
「現在、天与の原石傘下のギルドが作ったポーションが、大人気なのはご存じですか?」
バクマンは首を振る。
執事に促され、ポーションを一口飲む。
「なっ!? なっ、なんだこの、美味なるポーションはぁあああああああ!?」
あり得ないくらい苦みの無い回復薬だった。
良薬は口に苦し。それはこの世界の常識だった。
だが……天与の原石傘下のギルドが作ったポーションが、そんな常識を覆したのだ。
「だ、誰が!? 作ったというのですかっ!?」
「貴方が追い出した……ショーンくんですよ」
「バッ……!? バカな!? あんな落ちこぼれが!?」
ふぅ……と老紳士は呆れたように吐息をつく。
「もういいです。今日限りで公爵家はあなたたちのギルドとは手を切ります。確かに、言伝をしましたよ」
出て行く老紳士を止めることもできないくらい、バクマンはショックを受けていた。
それほどまでに、このポーションは革新的だったのだ。
「……今すぐ」
「はい?」
部下が首をかしげる。
「今すぐショーンの居場所を突き止めてこい! やつを連れ戻すぞっ!」
「え、ええー……」
ビジネスチャンスが転がっているとわかった途端、バクマンはショーンを連れ戻そうとしたのだ。
先ほどまでプライドがどうとか言っていたのに……と上司であるバクマンに対して失望のまなざしを向ける。
急ぎ、ショーンの居場所を特定し……バクマンは足を運ぶ。
「おれのギルドに、戻ってきてもいいんだぞ?」
「悪いですけど、お断りですッ……!」
……だが探し当てたところでもう遅い。
彼にはすでに、居場所ができていたのだから。