124.ブラック錬金術師ギルドを追放されたポーション師3
アクトのギルドに、元錬金術師の少年ショーンが来てから、半月ほどが経過した。
ある日、天与の原石所属の冒険者達は、ダンジョンボスを討伐した。
「はぁ……はぁ……た、倒した……」
「こんな強いボス……初めてだ……」
冒険者達は既に疲労困憊だった。
倒れ伏すボスの亡骸を見ながらつぶやく。
「ショーンからもらった、再生阻害ポーションがなきゃ、終わってたところだった……」
敵は無限に再生する特性を持った、軟体生物型のモンスターだった。
事前にそのことをギルマスに相談したところ、ショーンが新しいポーションを作ったのである。
瓶に入ったポーションを投げつけた結果、無限再生が止まり、攻撃が通ったのだ。
「ぐっ……! くそ……右腕が……」
先ほどの激闘で、冒険者の一人が右腕を大きく負傷していた。
複雑骨折しており、腕から骨が飛び出ている。
「これ、飲んでみろ。ショーンからもらったポーションだ」
リーダーの男……Sランク冒険者オルガが、仲間にポーション瓶を渡す。
「ぽ、ポーション……? いや、ただの回復薬で……この大けがは……」
「いいから飲め」
胡乱げな目を向けるが、しかし大人しく
冒険者がポーションを口にする。
すると……一瞬で右腕が元通りになったのだ。
「す、す、すげええ! なんだこれ! 右腕が……いや、体中の傷が治ってるぅうう!?」
骨が元の位置に戻り普通に動くようになっていた。
先ほどまでの疲労もどこへやら、戦う前の状態に戻っていた。
「勇者パーティのルーナ姉さん並にすげえな、このポーションの回復力!」
治癒術士ルーナはどんなケガも一瞬でなおすほどの、治療魔法の名手だ。
彼女の治癒と同レベルのポーションをショーンが完成させた。それは……ただごとではなかった。
「よし、おまえら、素材を回収してギルドに帰るぞ!」
「「「了解!」」」
★
オルガは天与の原石に帰還後、ショーンの研究室を訪れていた。
「助かったぜショーン。あんたのポーション、最高だ」
白衣を着たショーンが、笑顔で首を振る。
「いえ、ぼくなんてまだまだです。リタさんに比べたら……」
妖小人の少女リタが研究書類の山に埋もれたまま眠っている。
「しかしこのポーションめっちゃうまいな。回復薬っていやマズいで有名なのに。まるで高級ワインのように飲みやすかったぜ?」
「ほんとですかっ。ありがとうございます!」
えへへ、とショーンが嬉しそうに笑う。
「飲んでくださる人たちが、満足してもらえるものをって思って、錬金術師ギルドにいたころから模索してたんです。でも……結局はそんな気遣いいらないって……」
ショーンとしてはこの薬を使う人たちを思ってやったことだった。
しかし利益を追求する錬金術師ギルドとは折り合いが悪く、結局自分の提案を却下されていたのだ。
「このポーションの味、アクトさんも褒めてくれたんです。それに、絶対に売れるって」
事実ショーンの作った回復薬は、他のギルドのものよりたくさん売れていた。
「みんなあんたの真心籠もったポーションを楽しみにしてるんだよ。おれもその一人だ」
オルガは笑顔で立ち上がると、ショーンの頭をなでる。
「あんがとな。これからも頑張ってくれ」
「はい! ありがとうございます!」
オルガが出て行った後、リタが目を覚ます。
「んがっ! さ、サボってないですよぅ!」
寝ぼけているリタを見て、ショーンは苦笑する。
「リタさん、お客さんはアクトさんじゃないですよ」
「なーんだじゃ……いいや……」
ぽふん、とまた机の上に頭を乗っける。
「ショーン君。ごめん、元気出るポーションを……」
「はいはい」
ショーンはフラスコに入った、黄金色の液体ポーションを手に取って、彼女に近づく。
リタがそれを受け取って飲むと、先ほどの死んだ表情から一転、元気はつらつとした表情になる。
「おっしゃー! やる気でりゅうぅう!」
ばばば! とリタは書類の山を凄まじいスピードで片付けていく。
彼はポーションを作ることにかけては、だれよりも才能があった。
基本となるポーション作りの考え方に、リタの知識が加わることで、あらゆる種類のポーションが作れるようになったのだ。
傷を一瞬で癒す、どんな疲れも一発で取る。
「ポーションって、こんなにたくさんの可能性が秘められてたんですね!」
「まあポーションがすごいと言うか、ショーン君にこんなすごいものを作る才能があったってことですけどね」
あっという間に書類が全て片付く。
「君は化学の基本がポーション作りを通して身についていたから、あとは応用を教えるだけで良かったんで教えやすかったですよ」
リタは立ち上がると、ショーンの髪の毛をなでる。
かぁ……とショーンが顔を赤くする。
「あ、ありがと……ございます」
「ま、この調子でいけばあと半月で卒業じゃないですかねぇ」
「え、つ、追放……?」
突然のことに戸惑うショーン。
一方でリタは懐かしむような目で彼を見やる。
「ま、そのうちにわかるですよ。瘴気を中和するポーションも完成に近いですしね。……さ、お昼ご飯にでもいくですよー」