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116.ギルマスと駄犬の小旅行1

書籍版ギルドマスター、GAノベル様から好評発売中です!



 ある日のこと、俺のギルド【天与の原石】、ギルマスの部屋にて。


「それでは、数日有給でお休みさせていただきます」


 フレデリカが休暇申請書を俺に提出する。

 3日間の有休を取るそうだ。

 ギルメンに限らず、このギルドには給金と有給休暇が設定されている。

 それはギルメン達に与えられた当然の権利であり、どう使おうと彼らの勝手だ。


 俺は承認のはんこを押して返す。


「休みはどうやって過ごすつもりだ?」

「特に決めておりません。のんびり過ごそうかと……ところで」


 ぴょこんっ、と犬耳と尻尾が、フレデリカの頭とお尻から出る。


「マスター……一緒に旅行でもいきませんか……?」


「なに?」


 頬を赤らめて、フレデリカが照れながら言う。


「その……マスターもお休みが必要かなと……なら一緒に旅行なんて……やっ! わ、忘れてください冗談です!」


 彼女が顔を赤くして首を振る。


「そうだな。いいぞ」

「……………………ふぇ?」


 ぽかーん……とフレデリカが口を大きく開ける。


「あ、あはは! 何かの聞き間違いですよね! わたしと旅行に行ってくれるなんて……言ってないですよね?」


「言った。貴様と旅行にいこうとな」


「なっ……!?」


 びーん! と犬尻尾と耳が立つ。


「あ、わ、わかりました! あれでしょ? 実はギルメン達全員もついてきて、『貴様と二人きりなどとは一言も言ってない』ってパターンですよねうんうん!」


「いいや」


 あんぐり……とフレデリカは口を大きく開き、目をまん丸に開く。


「なんだその顔は?」


 フレデリカは慌てて近づくと、俺の額に手を当ててくる。


「熱はないみたいですね」

「失礼だぞ貴様」


 ぺし、と俺はフレデリカの手を払う。


「そ、そんなバカなあり得ない……マスターが、あの鈍感さにかけて他の追随を許さないマスターが、わたしのデートの誘いに乗るなんて……しかも泊まりがけ……」


「なんだ? 嫌なのか?」


 ぶんぶん! とフレデリカがクビを強く横に振る。


「嫌なものですかっ! ふふっ♡ うふふふふふっ♡」


 蕩けた笑みを浮かべて、フレデリカがその場でクルクルと回る。


「マスターと旅行♡ 二人きりで旅行♡ ああっ! 人生最良の日ですー!」


 そのときだ。

 がちゃり、と俺の部屋の扉が開いた。


「失礼しますギルマス」

「カトリーナか。どうした?」


 受付嬢長の女が俺の元へとやってくる。


「決裁文書をもってきたんですけど……なんですこの状況?」


 ぴょんぴょんと飛び跳ねながら、フレデリカが満面の笑みを浮かべている。


 俺は文書を受け取り、はんこを押しながら言う。


「こいつと3日間出かけることになった」

「お仕事ですか?」


「い・い・えっ! プライベートですぅー!」


 フレデリカが笑顔のままカトリーナに言う。


 カトリーナは目を丸くした後、微笑む。


「へー、良かったじゃない」

「ええ! ふふっ……人生最良の日です! ギルマスと二人きりでのデートですよ! しかも、お泊まりデート! FU~♪」


 よほど嬉しいのか人前だというのに尻尾を隠そうとしない。


「フレデリカ、このことは他言無用だ」


「そうよ。ギルマスは大人気なんだからね。ギルメンが知ったら自分も自分もって取り合いになる。だから、ギルマスは1対1でプライベートを過ごさないんだから」


「ええ! わかっておりますよ~♪ じゅんびしてきまーす」


 るんるん気分で駄犬が出て行く。

 やれやれだ。


「ギルマス、なぜフレデリカと旅行へ行くのです?」


 カトリーナが小首をかしげながら言う。


「飴と鞭の飴だ」


「……なるほど。フレデリカ、頑張りましたものね」



 俺の言葉を即座にカトリーナは理解したらしい。


 王都ギルド会館ができるまでの間、フレデリカは奮闘し、そして期待以上の結果を残したからな。


「よく頑張った犬には褒美をやらんとな」

「あれ、でもご褒美のキスをしたのでは?」


 ……あの駄犬め。

 誰彼構わず言いふらしやがったな。まったく。


「ふふっ、さすがギルマス。がんばった部下にきちんとした形のご褒美をプレゼントしてあげるなんて♡」


「ふん。勘違いするな。ここであの駄犬に飴を与え、さらによく働かせるため、つまり俺のためだ」


「はいはい、そういうことにしておきますよ」


 くつくつ、とカトリーナが苦笑する。


「ところで……ギルマス。私も随分と頑張ったつもりなんですがー?」


 ちらちら、と期待のまなざしを向けてくる。


「今度な」

「はいっ♡」


 俺はため息をついて立ち上がる。

 カトリーナがコートを俺に着せる。


「あの子、きっと言いふらしてますよ。ギルマスとお出かけするだって」


「だろうな」


「おや、わかってるのです? 時王の眼を使ったから?」


「使わずともわかる」


 でしょうね、とカトリーナは愉快そうに笑った。


 この後外出の予定があったので、カトリーナとともに部屋を出る。


「3日間不在にするが、後は任せて良いな?」


「ええ、問題ございません。ユイちゃんもおりますし、ロゼリアも最近は幹部としての自覚が出ているようで、よく働いてくれいます」


 王都でのことは、何もフレデリカ1人を成長させたわけじゃない。


 俺の側で補佐をやらせたことで、カトリーナは成長したし、ユイにはより一層頼りがいが出た。


「やはりギルマスは凄いです。フレデリカだけを成長させるのではなく、ギルド全体のレベルを大幅にあげたのですから」


 そうこうしてると、俺は1階へとたどり着く。


「「「ギルマスぅうううううう!」」」


 どどど……! とギルメン達が雪崩を起こしたみたいに押し寄せてきた。


 カトリーナが両手を開いて防波堤となる。

「聞きましたよっ!」「フレデリカの姐さんとお泊まりデートするんですって!」「しかも……二人きりで!?」


 思った通りあの駄犬は言いふらしたようだ。

 やれやれ、どうやらあの女の頭のなかには、他言無用という単語がインプットされていないらしいな。


「事実なんですかっ?」

「ああ」


「「「いいな~~~~~~~!」」」


 どいつもこいつも羨ましそうに俺とフレデリカを見やる。


「わたしもギルマスと旅行いきたいですー!」「おれもー!」「あたしもー!」


 そこへ、フレデリカがパンパンと手をたたく。


「皆さん冷静に」

「「「姐さんッ!」」」


 人混みをかき分けてフレデリカが俺の隣にやってくる。


「マスターは……わたしと二人きりでの旅行をご所望なのです。ええ、これは……ギルマス命令。何人たりとも邪魔してはならないのですよ」


 顔をふにゃふにゃとろかせながらフレデリカが言う。


「「「くぅ……! いいなぁ……!」」」


 カトリーナが頭痛を抑えるような調子で頭を抑える。


「あーあたしもギルマスとプライベートで過ごしたいよー」

「わたくしも二人きりでデートしたいですわ……」


 意気消沈するギルメン達に、俺は言う。


「誰もダメだとは言っていない」


「「「!?!?!?」」」


 くわっ、とギルメン達が目を剥く。


「だが怠け者に褒美をやるつもりは毛頭無い。この意味がわかるな?」


 ギルメン達の眼にやる気の炎が宿る。


「うぉおお! 言質とったどー!」

「頑張ればわたしたちも、ギルマスとデートができるってこと!?」


「よっしゃー! やる気出てきたぁ!」


 ギルメン達が声を張り上げる。

 単純な奴らばかりで助かる。


「……さすがギルマス。一言でギルメン達の士気を高揚させるなんて。ですが……良いのですかあんな約束して」


 カトリーナが心配げに耳打ちしてくる。


「無論だ。俺は一度した約束は守る」

「……なるほど。では、私との約束も守ってくださいよ」


 ぱちん、とカトリーナがウインクをする。

 こうして、俺は駄犬メイドと小旅行することになったのだった。

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