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115.悪徳ギルドマスター、帰還する

書籍版、GAノベル様から好評発売中です!


また、マンガUPでのコミカライズも決定しています!


書籍版めっちゃ頑張って書きましたので、お手に取ってくださると幸いです!



 悪神ドストエフスキーの襲撃から、半月ほどが経過したある日の夜。


 俺のホームタウンにある、天与の原石のギルド会館にて。


「では、ギルマスお帰りなさいパーティを、開催しまーす!」


「「「いえーい!」」」


 受付嬢長のカトリーナが音頭をとり、ギルメン達が笑顔を向ける。


 今日はギルド休業にしている。

 会館の酒場では、天与の原石のメンバー達が全員揃っていた。


 俺は上座に座り、彼らを見渡す。

 ……長く不在にしていたから、彼らの顔ぶれを懐かしく思う。


「開会に先立ち、ギルマス。あいさつを」


 俺は立ち上がって彼らを見渡す。


「みな、俺がいない中しっかりギルドを守ってくれたな。礼を言う」


 ギルメン達が微笑みを浮かべる。


「それと、頼りないギルマス代行を支えてくれたこともな」


「ま、マスター……ひどいですっ」


 俺が不在の中、メイドのフレデリカにギルマスの代わりを任せたのだ。


「今日は俺のおごりだ、大いに飲んで騒ぐことを許可しよう」


「「「いえーい! さっすがギルマスぅ! 太っ腹ぁ!」」」


「ありがとうございますギルマス! それでは……乾杯の音頭を、フレデリカ」


 カトリーナがバトンを渡す。

 以前の彼女ならこういう役目を拒んでいた。


 だがフレデリカは立ち上がると、俺の隣に立つ。


「皆さん、至らない面が多い中、色々と助けてくださり誠に感謝しています」


 俺以外のものに対して、フレデリカが感謝の意を示している。


 他者へのリスペクト、それはフレデリカに欠けていたのものだ。……成長が見て取れた。


「これからもみな一丸となって、悪徳ギルドマスターの手先として頑張りましょう」


 フレデリカの冗談に、ドッ……! とその場が沸き立つ。


「それでは……乾杯!」

「「「かんぱーい!」」」


 その後、乾杯の音頭と供に、ギルメンたちが飲み食いを始める。


 ドドッ、とギルメン達が俺に駆け寄ってきた。


「うぁあああああん! アクトさぁん! さみしかったですよぉ!」


 弟子のユイが真っ先にやってきて俺の腰にしがみつく。


「フレデリカから聞いてるぞ。よくこの駄犬のサポートを頑張ったな。偉いぞユイ」


「えへへっ♡ だってわたし、アクトさんもフレデリカさんのことも、だいすきですもん!」


 スリスリと頬ずりするユイの頭を俺はなでる。


「ぐぬぬ……今回は許しましょう、世話になったし……しかし……マスターの隣はわたしのもの……ぐぬぬ……」


 フレデリカが頬を膨らませながら何事かを言う。


「まーまーいーじゃないの。アクトさんはみんなの物でしょう?」


 カトリーナが笑って彼女の肩を叩く。


「貴様の働きも見事だったぞカトリーナ」


 ユイ以上に今回活躍してくれたのは、カトリーナだ。


 彼女のコミュニケーション能力がなければフレデリカはギルマスの仕事に押しつぶされていただろう。


「ありがとうございます、ギルマス。お礼は……そうですね、1日私とのデートということで」


「「おい……! 抜け駆け禁止ー!」」


 フレデリカ、そして他のギルメン達がカトリーナにツッコミを入れる。


 ギルメン達の輪の中に、完全にフレデリカは溶け込んでいた。


 ……俺がいない間に、本当に成長したようだな。


「アクトさんが……笑ってますー!」


 ユイが目を剥いて叫ぶ。


「「「なっ!? なんだってー!」」」


 ギルメン達が仰天し、俺の方を見やる。


「ああ、もう笑顔が引っ込んでます!」「くっそー! 見逃したー!」「アクトさんの笑った姿なんて超激レアなのに!」「ギルマスー! もう一回笑ってー!」


 ……やれやれ、騒々しい奴らだ。まったく。


 だが耳に障ることはなく、心地よさを覚える。家に戻ってきたような安心感を覚えたのだった。


    ★


 宴は夜明け近くまで続いた。

 ギルメン達は酔い潰れて、みなギルド会館で泊まることになった。


 俺はひとり、ギルド会館の屋上へとやってきていた。


 ここからだと街を一望できる。

 夜明け前の街は死んだように静まりかえっている。


 悪神から受けた傷はすっかりと癒えていた。


「マスター、夜風が体に障りますよ」


 ふわり、とフレデリカが背後から、俺を抱きしめてきた。


 彼女の暖かな体温が伝わってくる。


「街も、すっかり元通りですね。復興が思ったより早くてよかったです」


 ドストエフスキーから石やりの攻撃を受けた。

 死傷者はゼロだったものの、建物や街には被害の痕があった。


 それでも、半月たった今はすっかり癒えている。


「トーリョを始めとした商工ギルドの連中と、ドノバンが手を貸してくれたからな」


 しかも無償で、向こうから手伝うと言ってきたのだ。


「さすがマスター、人から好かれてますね」

「勘違いするな。こういうときこき使うために奴らに飴を与えているのだからな」


「はいはい、そーですね」


 きゅっ、とさらにフレデリカが力を込める。


 まるで……俺を逃がすまいとしているように感じた。


「……わたし、寂しかったです」


 彼女の声が震えていた。振り返ってみたわけではないが、泣いているのだろう。


「マスターから大事なものを任されて、なんとかしなくちゃって……でも、あなたはあなたでやらなきゃいけないことがあって……あなたを頼れなくて……寂しかった」


「ああ、だが貴様は俺に頼ることなく、仲間を頼り……見事ギルドを守って見せた。よくやったな」


 俺はフレデリカの腕をぽんぽんとなでる。

 彼女は俺の隣までやってくると、肩に頭を載せてきた。


 頭をなでて欲しいのだろう。

 俺は望み通りなでてやる。


「ねえ……マスター。今回の意図は、なんだったのですか? わたしを一人残さずとも、あなたは王都にいてもギルドを回せたでしょう?」


 通信用の魔道具というものがある。

 それを使えば遠く離れた土地からでも指示を出すことは可能だ。


「貴様に自主性を身につけさせたかったのだ」


 以前の彼女は、俺の命令に絶対に服従する、操り人形のような面が目立っていた。


 俺は彼女に、俺が命じずとも、自分の頭で考え、行動する力を身につけさせたかったのだ。


「俺は人間だ。いずれ死ぬ。だが貴様は魔獣、俺より長く生きるだろう。主人が居なくなった後も生きていかねばならぬ。だが以前の貴様では無理だった」


「マスター……」


 ぬれた紫紺の瞳を俺は真っ直ぐに見やる。


「一度しか言わんぞフレデリカ。……俺はな、貴様に俺の意思を継いで、この大切な原石たちが詰まった宝石箱を……末永く守っていって欲しいのだよ」


 俺の野望。

 弱者が踏みにじられることなく、皆平等に幸せを享受できる世界を作る。


 この野望を俺がかなえたとしても、それを維持できなければ意味が無い。


 俺は、フレデリカに後を継いで欲しかったのだ。


「そう……だったのですね」

「ああ。ところが貴様ときたら俺にしか興味を持たん駄犬ときた。だから試練を与えたのだ。見事に突破して見せたな」


 俺はフレデリカの頭をなでる。


「……今日は、すごくお優しいですね」


 涙声になりながらフレデリカが言う。


「良くできたときには褒めてやらないとな」

「……犬扱いですか。不服です」


「その割には笑ってるではないか」


 涙で濡れた瞳。しかし花が咲いたように、美しい笑みを浮かべていた。


「今回は、わたしの番だったのですね」

「なんだ、唐突に?」


「普段、マスターがやられている、人材の隠れた才能を見つけ出し磨き上げる……それをわたしにもやっていたわけですか。……ねえ、マスター」


 フレデリカが俺を見上げて微笑む。


「あなたのおかげで、わたしは自分でも気づかなかった才能に気づくことができました。……では、追放そつぎょうですか?」


 彼女の瞳は、以前のような不安はなかった。


 俺の答えをわかっているようだ。

 でも、俺に言わせたいらしい。やれやれだ。


「まだだ。貴様が出て行くにはまだ早すぎる。これからも、俺の隣に居ろ」


 フレデリカは立ち上がると、俺の前にしゃがみ込んで頭を垂れる。


「イエス・マイ・マスター」


 ぱたぱた、と犬耳と尻尾が嬉しそうに揺れていた。


 恥ずかしいことをさせやがって、まったく……。


「ところでマスター……頑張ったご褒美が、欲しいです」


 頬を赤らめながらフレデリカが言う。


「ご褒美だと?」

「ええ。頑張ったわんちゃんには、ご褒美が必要だとは思いませんか?」


 何かを期待するような眼をフレデリカが向けてくる。


 自分の唇を指さして、色っぽい表情を浮かべる。


 まったく……だからこの瞬間を狙って声をかけてきたのだな。


「こっちへ来い」

「はい♡」


 フレデリカは嬉々として俺に近づいてくる。


 彼女を正面から抱き寄せる。

 体重を俺に傾けてくる。胸板に彼女の大きな乳房が押しつけられる。


 だが彼女は嫌がるそぶりを一切見せず、俺にぐいぐいと体を押しつけてきた。


「目を閉じろ」

「……んっ♡」


 俺はフレデリカを抱き寄せて、その唇に唇を重ねる。


 みずみずしい果実のような唇の感触。

 だがすぐに口づけを終えて顔を離す。


「もう……終わりですか? もっと……欲しいです」


 こいねがうように、彼女が俺を見上げて言う。


 俺はフレデリカの体を押しのけて立ち上がる。


「ならばもっと精進するのだな」


 ちょうど、東から朝日が昇ってきた。


 この街を、ギルドを……そして、フレデリカを。

 日輪の光が、俺の大事な宝物を照らして輝かせる。


「かしこまりました我がマスター。あなた様の大願が成就するよう……全力でサポートいたします」


 フレデリカも立ち上がり、俺と肩を並べる。


「絶対に作りましょう。弱く虐げられし者たちでも、みな笑っていられる……そんな優しい世界を」

「無論だ。貴様に言われるまでもない」


 輝く朝日のなかで、俺たちは誓う。

 原石たちが放つ輝きを、永遠に保っていこうと……この美しい景色にかけて誓うのだった。

【※読者の皆様へ とても大切なお願いがあります】


この話で大きな区切りとなります。


本作は18万Ptまで、あとわずかと!



大きなイベントが終わった機会に、もしよろしければ完結まで書き切るためのモチベーションのため


ブックマーク登録や広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして頂けると、それが一番の作者に対する応援となります!



もちろん強制ではありませんがこの機会にお気持ちだけでも結構ですので、


よろしければご協力お願いします!



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― 新着の感想 ―
[良い点] 話の展開の仕方がとても素敵です [気になる点] あえて気になると言うとこの後のギルドの行く末ですかね [一言] 小説で泣きそうになったのは久しぶりでした
[一言] この流れがとてもよかったので ☆5つにしたよ~。
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