112.悪徳ギルドマスター、用済みになった部下を追放する
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ついに、俺の冒険者ギルド【天与の原石】、その王都での支店となる建物が完成した。
「「「やったー! 完成だー!」」」
商工ギルドのメンバー、そして不良達が、建物を笑顔で見上げている。
「これはまた……立派な物に仕上がりましたわね」
部下のSランク冒険者ロゼリアが感心したようにつぶやく。
「まあな! アクトさんにはお世話になっとるからな! このトーリョ、ドワーフの技術の粋をあつめ、ギルド会館を作らせてもらった!」
商工ギルドの長トーリョが張り切ったらしい。
「おれたち……不良でも……こんなすげえ建物が作れるんだ……」
不良達のリーダー格、ドノバンが涙を流しながらギルド会館を見上げる。
うう……と他の不良達もなぜか泣いていた。
「何を泣いている貴様ら」
「だって……おれら、底辺のゴミって、役立たずだって言われ続けてきた不良でも……こんな凄いもんが作れるんだって……人のためになれるんだって……わかったから……」
ぐすぐす、とドノバンが鼻を啜る。
「感動してるところ悪いが、貴様らに少し話がある」
「「「話……?」」」
不良達を見渡して俺が言う。
「ああ。呼ばれたヤツから新しいギルマスの部屋に来い。それまでギルドホールで待機だ。いくぞロゼリア」
「かしこまりましたわ」
俺はロゼリアを連れて、天与の原石のギルド会館に入る。
「中も立派ですわね。王都一の冒険者ギルドにふさわしいですわ」
豪奢な内装にロゼリアが目を輝かせる。
「俺はまだ1位じゃない」
「あら? そうでしたの」
冒険者ギルドの格付けで言えば、1位は血の栄冠。2位が俺たちだ。
「ですがいずれ、1位の座につくとわたくしは確信しております」
「世辞は結構だ」
苦笑するロゼリアを引き連れて2階へと上がる。
「ところで……ギルマス。これから何をなさるのです?」
「決まってる。不要となったあいつらを追放するだけだ」
ロゼリアは目を丸くする。
「なんだ?」
「いえ……本当にギルマスは、お優しいお方だなと思ったまでです」
「俺のどこが優しい? 要らない人員を切り捨てるだけだぞ?」
「そう言って……きちんと追放先を用意しているのでしょう?」
ロゼリアが妙なことを言う。
「何を、当たり前のことを言ってるんだ」
俺はギルマスの部屋に入る。
ここも、元のギルドより立派な中身となっていた。
「ギルマス。以前より申しておりますが、あなた様がやっているのは追放ではなく、ただの人材斡旋ではないかと思いますよ」
「違う。俺はいらないヤツを切ってるだけに過ぎん……なんだその笑顔は?」
ロゼリアは静かに微笑みながら言う。
「本当に、素直ではないお方なのですからと思ったのです」
「ふん。まあいい。ドノバンを呼べ」
ロゼリアはうやうやしく頭を下げると部屋から出て行く。
ほどなくして、リーダーのドノバンをこの部屋に連れてきた。
「どうしたんだよ、ギルマス?」
やつはここに呼ばれた理由をわかってないようだった。
机の前に立つ彼に、俺は言い放つ。
「ドノバン。今日までご苦労だったな。今日限りでクビだ」
「なっ……!? く、クビだと!?」
ギルメンたちは最近なぜか驚かなくなったので、こういうリアクションは新鮮な気がする。
「ど、どうして!?」
「ギルド会館も完成して、貴様ら不良は用済みになったからだ」
ドノバンが目に涙を浮かべながら声を荒らげる。
「そんな……結局あんたも、他の大人達と同じだったのかよ! いらなくなったらポイ捨てって……ひでえよ!」
「ふん。貴様がどうわめこうが、これは決定事項だ」
「そんな……おれ……やっと……やりたいことが見つかったのに……」
肩を落とすドノバンに、俺は言う。
「ああ。だから、そのやりたいことを、次の職場で存分にやれ」
「………………へ?」
俺はロゼリアに目配せする。
彼女は持っていたクリップボードをドノバンに手渡した。
「こ、これは……?」
「次の就職先の書類だ。目を通しておけ」
ぽかん……とした表情のドノバン。
「次のって……どういう?」
「商工ギルドのトーリョが後継者を捜していたのでな。そこへ行って才能を存分に振るってこい」
「と、トーリョのおっさんの……後継者って……しょ、商工ギルドに入れるのか!? 王都の商工ギルドって言えば、世界一のギルドだって」
「ああ。貴様は体力もあるし部下の信頼も厚い。意外と根が真面目だし手先も器用だ。いい大工となるだろう」
呆然とするドノバンに俺は言う。
「どうした? 不服か?」
「あ……いや、全然。何も……不満はないけど……けど……どうして……?」
ドノバンは追放に納得がいってないようだな。
「ただのアルバイト員として手元においとくよりは、トーリョの元でしっかり経験を積んだ方が貴様の将来のためになる。そう判断したまでだ」
「ギルマス……ギルマス……! うぁあああああああああん!」
ドノバンが滝のような涙を流しながら、俺に近づいてくる。
正面からハグして大声で言う。
「ありがとう! ありがとうよぉ! おれの……こんな不良のために……うう、うわぁあああああああん!」
……やれやれ、何を勘違いしてるのだろうか。
「感謝など不要だ。貴様を商工ギルドに送ることで、将来的に俺のメリットになると判断したまでだ」
「うぉおおおん! ギルマスぅうううううう! ありがとぉおおおおお!」
……どうやら話を聞いてない様子だった。やれやれだ。
「商工ギルドで働けるような才能があるやつらが何人かいた。他の不良どもも連れてくように」
俺は追放者のリストをドノバンに手渡す。
「はいっす! ありがとごうざいます! ギルマス!」
ドノバンは直角で腰を折って、頭を下げる。
「このご恩は……絶対忘れません! いつか必ずあなたに、この恩を何百倍にして返します!」
「そうか。期待しているぞ」
ドノバンは頭を上げる。
晴れ晴れとした表情でうなずいた。
「はいっす!」
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