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110.悪徳ギルドマスター、部下を働かせ自分は休む

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 王都でのギルド会館建設が着々と進む中。

 俺はこの日、休暇を取っていた。


 王都の宿屋で目を覚ます。

 ちょうどそのタイミングで、一緒に連れてきたS級冒険者のロゼリアが入ってきた。


「おはようございますわ、ギルマス」

「おはよう、ロゼリア」


 俺たちは食堂へ移動して食事をする。


 今日の予定をロゼリアと打ち合わせ。

 軽く指示を出しておく。


「ギルマスは本日お休みでしたわね」

「そうだな」


「ご予定は?」

「特にないが体を休めるつもりだ。貴様もしっかり有休を消化するんだぞ。他の奴らにも周知徹底させろ。いいな」


「かしこまりましたわ……ふふっ。相変わらず部下思いの素敵な上司ですこと」


「フン。勘違いするな。俺は部下を効率的に使うために飴を用意しているだけにすぎん」


「……ほんと、素直じゃないんですから」


    ★


 ロゼリアに後を任せることにして、俺は王都の街を歩く。


 平日だというのに王都は賑わっていた。

 整地された道を奥へ進んでいくと、やがて教会が見えてくる。


「あ、ギルマス!」

「トリッシュか。おはよう」


 教会の出入り口を掃除している、小柄な少女がこちらを振り向く。


 トリッシュが俺に気づくと、ぱぁ! と表情を明るくする。


 彼女は俺が雇っている不良のひとりだ。


「どうしたの、こんなとこに?」

「少し用事だ」


「「「「ぎるましゅだー!」」」」


 庭で遊んでいた子供達が、いっせいに俺の方へかけてきた。


「ぎるましゅー!」「おかしちょーだーい!」「おやつぅー!」


 わぁわぁと子供達が俺にお菓子をせびる。

 こいつらはトリッシュが面倒を見ていた孤児達だ。


「ふん。卑しいガキどもめ」


 俺は手荷物のなかから袋に入ったおかしセットを取り出す。


「今日はなにー?」

「チョコレートクッキーだ」


「「「ちょこー! くっきー!」」」


 俺は袋を子供達に手渡す。

 子供達はわいわいと騒ぎながらクッキーを取り合う。


「おい貴様ら。人数分きちんと用意してある。仲良く分けないと今後一切持ってこないからな」


「「「わかったー!」」」


 年長者の子供が子供達におやつを分ける。

「ギルマス……いつもありがとね」


 トリッシュがぽそりとつぶやく。


「あの子らのために孤児院を紹介してくれただけじゃなくて、いつもおやつとか持ってきてくれて」


「別に貴様のためじゃない。あのガキどもは将来貴重な戦力となる。そのための先行投資だ」


「でも……孤児院にもそうとう寄付金だしてるんだろ?」


「それは別にあいつらがいるからではない。前からこの孤児院には金を渡している。もちろん、将来を見据えての投資だ」


 トリッシュは目を丸くするが、ふっ……と淡く微笑む。


「なんだかあんたが、どういう人間なのかってわかってきた気がするよ」


 頬を染めながら、トリッシュが俺を見上げて言う。


「何が悪徳ギルドマスターだ。うわさって……ほんと当てになんないね」


「バカ言え。ウワサ通りだろうが」


「はいはい。まったく……休みの日まで人のために動くなんて、ほんとさすがギルマスだよ」


    ★


 子供達の様子を見た後、ギルド協会本部へと足を運んだ。


「ギルマスー!」

「カトリーナか。偶然だな」


 俺のギルド、天与の原石に残してきた、受付嬢長がこちらに笑顔でかけてきた。


「お久しぶりです、お元気ですかっ」

「ああ。貴様も変わりないようだな」


「はいっ!」


 その笑顔を見れば、ギルドが上手くいっていることは明白だろう。


 ふん。駄犬め。よくやってるじゃないか。


「ギルマスっ、あとでお茶しませんか? あ、おいそがしいならやめておきますが」


「かまわん。今日は非番だ。ラウンジで待ってる」


「はい!」


 俺はカトリーナと別れて、ギルド本部長の下へとむかう。


「よっ! アクト! 元気そうじゃあねえか」


 部屋に入ると、本部長が気安声をかけてくる。


「聞いたぜ、街の不良どもを改心させて、好待遇で働かせてるだってな」


「バカ言え。ガキどもを安く雇ってこき使ってるだけだ」


「その割に働いているやつらの顔、みんな生き生きしているらしいけどな。それにスラム街の雰囲気がよくなったってよ。国王さんも結構喜んでたぜ」


「別に国のためにやったわけじゃない」


「素直じゃねえなぁほんとよ」


 俺は細々とした仕事の打ち合わせや、本部からの書類を受け取る。


「ギルドに直接郵送すればいいだろうが。いちいち呼び出さなくても」


「まあいいじゃんか。ところで次期本部長の件なんだが」


 はぁ……と俺はため息をつく。

 前からこいつの後釜にどうかと何度もしつこく勧誘されている。


 王都に住むようになってさらに顕著になった。


「断る」

「えー?」


「俺は自分のギルドを回すだけで手一杯だ」

「その割に余裕が見えるんだが?」


「下で働くギルメンたちが有能だからな」

「いやいや、回している上の人間が有能だからだろ? ほら、やっぱり本部長に向いてる。なぁ頼むよ、おまえしかいないんだってば」


 俺は壁の時計をチラッと見やる。


「用がないならこれで失礼する」

「あ、ちょっと! 待ってってば!」


 俺は本部長をおいて外に出る。


 部屋の外でカトリーナが笑顔で待っていた。


「すまない、待たせたな」

「いえ、ちょうどわたしも用事が終わったところです」


 俺たちは本部のラウンジへと移動して茶を飲む。


「ギルドの様子を聞かないのですか?」

「ふん。聞かずとも上手く行ってることくらいわかる。あの駄犬とうまくやれてるのだろう?」


 目を丸くするカトリーナだったが、静かにほほえむ。


「ギルマスは本当に何でもおみとおしなんですね」


「うちの駄犬が貴様らに迷惑をかけてすまないな」


「いえいえ! 迷惑だなんて。頼ってもらえてわたしもユイちゃんも嬉しいです」


 ユイとカトリーナを残してきて正解だった。


 同性なら頼りやすいだろうからな。


「でも……さすがギルマスですね。フレデリカさんに試練を与え、それを乗り越えられるよう、助け船まできちんと用意しておくのですから」


「ふん。勘違いするな。俺は自分のギルドをメチャクチャにされたくなかっただけだ。あいつを助けるつもりは毛頭無い」


「では、ユイちゃんとわたしを連れてこなかったのは、どうしてですの?」


 俺はコーヒーを啜ってそっぽを向く。


「……ほんと、誰よりも優しく、部下思いで……誰よりも素直じゃないんですから」

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