109.駄犬メイド、少しずつ打ち解けていく
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アクトからギルドを任されてから、さらに月日が流れた。
メイドのフレデリカは、朝、ギルド会館へと足を運ぶ。
「「「姐さん、おはようございます!」」」
早起きなギルメンたちが、既に出勤しており、フレデリカにアイサツをしてくる。
以前は冷たく簡単なアイサツをするだけだったのだが……。
「おはようございます、ザリー、ウーヴァ、ガメル」
ギルメン1人1人の名前を呼び……そして、微笑んだのだ。
滅多に笑わないフレデリカの笑みに、ドギマギとしてしまうギルメン達。
「きょ、今日も美人っすね!」
「どうもありがとう。お世辞でも嬉しいです」
「いや! お世辞じゃないっすよ! なぁ!」
「「おうよ!」」
フレデリカはギルメンと普通に、業務以外の会話をする。
「あなた方は朝一での護衛任務でしたね。最近盗賊が出ていると聞きます。十分に気をつけてくださいね」
「「「了解っす!」」」
フレデリカはきびすを返し、ギルマスの部屋へと入っていった。
「いやぁ~……びっくりした。人って変わるもんだなぁ」
ザリーが2人を見て言う。
「ああ。姐さん、前はすんげえ冷たかったけど最近よく話しかけてくれるようになったよな」
「なっ! ほんと前よりずーっと親近感がわくよな!」
「おいおいダメだぜ? 姐さんはアクトさんの女なんだから、ほれちゃよ」
「「それなー……はぁ……」」
さて一方でフレデリカは、自分のデスクに座り、たまっている書類に目を通す。
「はぁい、フレデリカ」「おはようございますー!」
受付嬢長カトリーナと、アクトの弟子ユイがフレデリカの部屋に入ってくる。
「おはようございます。今日も良い天気ですね」
「そうですねー! お洗濯日和です! フレデリカさんシーツほしてきましたー?」
ユイが気安くフレデリカに話しかける。
「当然です。主人がたとえ使わずともシーツを干すのが、一流のメイドです」
「なるほど! さすがフレデリカさんっ!」
笑顔で日常会話をするユイとフレデリカ。
カトリーナは嬉しそうに目をほそめる。
「なんです?」
「いーえ。なーんにも。さっ、打ち合わせ始めましょうか」
フレデリカは現在、ギルマスの仕事を3人で分担してこなしている。
主に交渉ごとはカトリーナに、ギルド内での細かな仕事はユイに、それぞれ仕事を振っている。
だが彼女たちに任せきりというわけではない。
朝来たら、まず打ち合わせを行う。
3人でスケジュールと仕事の分担を決めながら、より効率的な仕事の進め方を設定。
「以上です。他に報告することはございますか?」
「だいじょーぶです!」「アタシも大丈夫」
フレデリカはうなずいて2人を見て言う。
「今日は暑いです。水分補給を忘れぬよう、ギルメン達だけでなく、職員にも徹底させてください」
「「了解!」」
「わかってるとは思いますが、あなた方も含まれてますからね。脱水で倒れて周りに迷惑をかけないように」
ニコニコ、とユイとカトリーナが笑う。
「なんです……?」
「「べつにぃ~?」」
くすくすと2人が楽しそうに笑った。
馬鹿にされてるニュアンスはない。
「倒れて周りに迷惑かけないように……か。あんたも言うようになったわね」
「この間寝不足で倒れてましたよね~」
「う……」
フレデリカは犬耳がぺちょんと垂れる。
「あれは……ほんと、すみませんでした……」
「「気にしてないよ~」」
……2人にからかわれたのだと、フレデリカは気づいた。
「バカやってないで、さぁ、今日もマスターの大事なギルドを守るべく、仕事をしますよ」
「「はーい!」」
★
フレデリカは寝不足で倒れた日から変わった。
具体的に言えば、人に興味関心を持つようになったのだ。
ギルメンと会ったら一言二言、日常会話をする。
特に用事が無くても会話するようになった。
フレデリカは日常会話なんて必要ないと思っていた。
主人との会話こそが尊ぶべきものであり、そのほかの有象無象との会話なんて無駄だと……。
しかし……それは間違いだった。
「ザリー。大丈夫ですか」
「姐さん……!」
フレデリカは山の中にいた。
馬車の護衛任務に就いていた、ザリーたちのもとへと、救援にやってきたのである。
馬車は道中で盗賊に襲われたのだ。
個人個人の強さでは勝るものの、数で劣っていたためにだいぶ苦戦を強いられていた。
そこに、フレデリカが颯爽と現れたのである。
盗賊を氷の魔法で瞬殺(拘束)した。
「姐さん……どうしてここに?」
「ザリーたちのお友達が、あなた方の帰りが遅いと言ってたので。真面目なあなた方がサボるとは思えず、差し出がましいとは思いましたがこうして様子を見に来たのです」
あんぐりとザリーたちが口を大きく開く。
ギルメンたちの交友関係までも把握し、さらに他者に興味を抱いて、心配して様子を見にきてくれる……。
それは以前のフレデリカにはなかったこと。
そして……まるでアクトのごとく、部下想いの、まさにギルマスとしての行動に……ザリー達は感動した。
「「「うわぁああん! 姐さぁああああああああん!」」」
涙を流しながら、ザリー達はフレデリカの腰に抱きつく。
「こ、こら! やめなさい!」
「おれら姐さんについて行きますぅ!」
「アクトさんに忠誠を誓った身だけど、姐さんにも忠誠を誓いますぅ!」
わんわんと子供のように涙を流すギルメン達が……フレデリカは愛おしく感じた。
「次からは困っているのならさっさと通信用の魔法道具で連絡を寄越しなさい。何のためにそれを渡したと思ってるんですか?」
……アクトそっくりの言動に、思わずザリー達は笑ってしまう。
「ほら、帰りますよ」
「ああでも、姐さん。馬車の到着が遅れちまった」
「相手さん怒ってますよね……どうしましょう」
やれやれ、とフレデリカはため息をつく。
「そんなこと、気にする必要はありません。部下の失敗に対して頭を下げるのは、上司の仕事ですから」
「「「姐さん!」」」
3人がフレデリカに抱きつく。
「は、離れなさい! わたしの体はマスターのものなのです! 不義理はしたくないのですー!」
とんちんかんなことを言うフレデリカがおかしくて、ザリー達は笑う。
「何がオカシイのですか、まったくもう……」
そう言いつつも、彼らの馬鹿馬鹿しいセリフを聞いて苦笑する。
「姐さん、やっぱあんたは笑ってたほうが似合うっすよ!」
「あ……」
フレデリカはアクトの言葉を思い出す。
ーー貴様は笑っていた方が良い。
「わたし……笑えてました。自然に……笑えてましたよ、マスター」
以前はアクトの前だけでしか笑えなかった。
だが今は、自然に、彼がいなくても笑えている自分がいる。
この変化は、果たして主人が喜んでくれるものだろうか。
「マスター……早く会いたい。早く、あなたの声が聞きたいです……」
フレデリカはギルメン達とギルドに戻りながら、そう思うのだった。
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