105.悪徳ギルドマスター、ゴロツキたちをスカウトする(物理)
書籍版、GAノベル様から好評発売中です!
俺はスラム街にて、孤児のトリッシュを仲間に引き入れた。
その後、彼女に道案内してもらい、スラムの奥へと進んでいく。
「本当に街のゴロツキどもをスカウトするのかい?」
「ああ、今は人手がいる。貴様のような暇を持て余しているガキどもの根城に連れてってくれ」
「いーけど……でも言っちゃあれだが全員やべえ奴らだぜ」
「構わない。性格はどうでも良い。ようは使えるかどうかだけだ」
ややあって。
薄汚れた裏路地の、怪しげなバーの前までやってきた。
「この酒場では、あたしと同じでやることない不良どもが昼間っからくだを巻いてる」
「そうか。案内ご苦労。後で雇用契約の話をしに行く。下がって良いぞ」
ジッ、とトリッシュが俺を見つめてくる。
「なんだ?」
「いや……マジで止めとけって。中の連中すぐ手が出るヤバい奴らなんだってば。あんたの言うことを聞くとは到底思えない」
「心配は無用だ」
「なっ……!? し、心配なんてしてねーよ! ふんっ! 勝手にしろ!」
トリッシュは顔を真っ赤にして怒ると、きびすを返して去って行く。
「案内感謝する」
「へんっ! あとで迎えに来てやるよ! どーせケガして動けないだろうからなっ!」
面倒見のいい女だ。
よいリーダーになれそうだな。
「さて、入るか」
俺は木戸を開けて中に入る。
むわり……とアルコール臭が鼻をつく。
薄汚れた室内には、赤ら顔の男達があちこちで酒を飲んでいた。
俺の登場に、誰もがこちらを注目している。
静まりかえった店内を俺は真っ直ぐに歩き、カウンターへ到着する。
酒を注文してとりあえず1杯飲む。
安い酒だ。アルコール度数ばかりが高い。
しばし酒を1人で飲んでいた、そのときだ。
「よぉてめえ。見ない顔だなぁ」
筋骨隆々の大男が俺に話しかけてきた。
モヒカンヘッドの男は、俺を見下ろしてくる。
「王都には最近越してきたばかりだからな」
「おぅそうか。……なぁ兄ちゃん。ここはおれらの縄張りなんだよ、勝手に入ってくるんじゃあねえ」
俺はグラスを手に持って一杯飲む。
「そうか。すまなかったな」
すると男は持っていた酒瓶を振り上げて、勢いよく振り下ろす。
ガシャンッ……!
「てめえが悪いんだぜぇ。そんなスカシタ態度……この【ドノバン】様にするからよぉ……」
「そうか。ドノバンというのか」
「なっ!? て、てめえ……いつの間に!」
ドノバンが攻撃してくるのは未来を読んで見えていた。
ヤツが瓶を振り下ろす瞬間に移動しただけである。
「素手相手に武器を使うのか。感心しないな」
「くっ……! こ、このぉ……!」
ドノバンが拳を俺にむかってたたきつけてくる。
グシャッ……!
「なっ!? こ、このドノバン様の一撃を……受け止めるだとぉ!?」
俺は右手だけで、ヤツのパンチを正面から受け止める。
「す、すげ……」「なんだあの黒髪の男……」
周囲にいた不良どもがざわつく。
「良いパンチだ。スピードもパワーも申し分ない。こんなところで腐らせるにはもったいない才能だな」
「え、偉そうに言うんじゃあねえ!」
ドノバンのローキックを俺は飛んで避ける。
「なんなんだよてめえはよぉ!」
「俺はアクト・エイジ。冒険者ギルド【天与の原石】でギルドマスターをしている」
「なっ!? あ、アクト・エイジだと!?」
驚愕するドノバン。
どうやら俺の悪名は、王都のこんな場末にまで伝わっているらしいな。
「アクト……」
ぬぅ……とドノバンが俺に近づいてくる。
他の不良達もまた、俺に近寄ってきた。
やれやれ、よそ者である俺がいるのが、許せないようだな。
ケンカがお望みなら、良いだろう。全員のして言うことを聞かせるだけだ。
「「「す、すげええ……! 本物だぁ……!」」」
不良達がキラキラとした眼を俺に向けてきた。
「あの悪のカリスマであるアクトさんだ!」「やべええ! 本物みちまった!」「あ、あの! おれファンなんです! サインいいっすかぁ!?」「あ、ずりぃ! おれもぉ!」
……なんだこの反応は。
「アクトさん! すまねえ! まさかあなたがあの有名な悪徳ギルドマスターだとは知らず! とんだご無礼を!」
ドノバンがさっきの態度とは打って変わって、下手に出てくる。
「なにやってんだよてめぇら!」
バンッ! とトリッシュが木戸を開けて入ってくる。
「なぜ貴様がいる?」
「なっ!? べ、別にあんたが心配で様子見に来たんじゃねーからな!」
「そうか」
なら何できたんだろうか?
まあいい。
「トリッシュ。おまえがアクトさんをここまで連れてきたのか! いやぁお手柄じゃあねえか!」
ドノバンが笑顔でトリッシュの肩を叩く。
「いやあんたら……なんでそんな嬉しそうなんだよ」
「そりゃ……アクトさんがおれら不良の憧れだからだよ……! 裏世界でアクトさんの名前を知らない人は居ないからなぁ!」
どうやら俺のあずかり知らないところで、ウワサが勝手に一人歩きしているらしい。
「は、はぁ……あたし知らなかったんだけど?」
はぁ……と不良どもがため息をつく。
「女子供にゃ理解できねえ世界の話だからな」
「あ? んだよケンカ売ってるのかぶっ殺すぞ?」
「騒ぐな、話が進まないだろうが」
「「「さーせん!」」」
不良達が俺の前で正座をする。
「なんであたしまで……」
「いいから! ささっ、アクトさん、おれらに何の用事ですかい?」
俺は不良どもを見渡して言う。
「貴様らに、仕事を頼みたい」
不良達はそれを聞いて、眼を子供のように輝かせる。
「「「うぉおおおおおお!」」」
「うっさ……」
彼らは嬉しそうに笑みを浮かべる。
「あの伝説の悪党アクトさんと仕事ができるだって!」
「感激だァ……!」
「アクトさん! それで、どんな悪事なんですかいっ?」
俺は彼らを見渡して言う。
「商工ギルドと協力し、新しい俺のギルド会館を作る仕事だ」
「「「へ……?」」」
はて、と不良達が首をかしげる。
「商工ギルドを襲うんじゃないんですかい?」
「違う」
「あ、わかった! 闇ギルドを作ってヤバいことするんですね!」
「違う」
「「「え、じゃあ何を……?」」」
「俺のギルドの、王都での支店を今度作ることになった。貴様らにはその手伝いをしてもらいたい」
不良達は顔を見合わせた後……クビをかしげる。
「い、いや……手伝えと言えば手伝うけどよお……」
「なんかデカい悪事を働くものとばかり思ってたから……」
ふんっ、と俺は鼻を鳴らす。
「貴様らのような中途半端な小悪党どもに、暗闇の世界は似合わん」
「「「なっ……!? こ、小悪党だとぉ!」」」
彼らの額に怒りマークが浮かぶ。
「アクトさん……あんたは憧れの人だ。だが……誰であろうと、おれら不良を侮辱していいわけがねえ」
ドノバンを初めとした不良達が立ち上がる。
「侮辱などしていない。事実を述べただけだ。貴様らでは、本当の悪人にはなれない」
「な、何を証拠に!?」
「簡単だ。貴様らが弱いからだ」
一瞬の静寂。
だが、不良達が怒りで顔を真っ赤にする。
「てめえ!」「言わせておけば!」「おれらが弱いだとぉお!」
いきり立つ不良達。
拳を握りしめて、今にも殴りかかってきそうだ。
「ちょうど良い。かかってこい。格の違いを教えてやる」
「お、おい……アクトさん。やめとけって」
俺は上着を脱いで拳を構える。
「ケガしてもしらねえぜぇ!」
ドノバンが真っ先に殴りかかってくる。
俺は半身をよじってそれを避け、カウンターで顔面に一撃を入れる。
「ぶげらっ……!」
ドノバンが回転しながら地面に倒れる。
「残りもさっさと来い。時間の無駄だ」
「や、やっちまえてめえらぁ!」
ドガッ! バキッ! ドゴッ!
……ややあって。
「貴様らに悪党は向かん」
倒れ伏す不良どもを見下ろしながら、俺は椅子に座って言う。
「わかってるさ……おれらはアウトロー気取った半端モンの集まり。人も殺せない……中途半端な不良だってよ」
ぐすん、と不良たちが涙を流す。
「所詮、おれらはただの、社会のつまはじきものたち……どこにも行き場なんてねえんだ……」
「ふん。だから諦めて、こんな場末のバーでくだを巻いているのか。全くもって、もったいないな」
「「「え……?」」」
俺はドノバンを見やる。
「貴様は強靱な肉体を持つ。身体強化の魔法を習得すれば、いい前衛になれる」
俺は別の不良を見る。
「貴様は手先が器用だ。鍛えれば商工ギルドで働ける。貴様は眼がいい。貴様は……」
俺はその場にいた不良達全員の長所を見抜いて言う。
「ちょ、ちょっとアクトさん……なんでそんなことわかるんだよ?」
トリッシュが目を丸くして言う。
「俺の眼は全てを見抜く。先ほどの乱闘で適性を見させてもらった」
「す、すごい……何者なんだよ……あんた……」
感心したようにトリッシュがつぶやく。
「誰にでも隠れ持った長所というものがある。俺の元へ来い。貴様らを生かしてやる」
不良達は立ち上がる。
「ま、まずいよアクトさん……不良は命令されるのが一番嫌いなんだ……今度は殺されるかも……」
心配するトリッシュをよそに、不良達は頭を下げる。
「「「お願いします、おれらを使ってください……兄貴!」」」
「え、ええー……」
腰を90度曲げて頭を下げる不良達。
「良いだろう。俺に付いてこい」
かくして、俺は労働力をゲットしたのだった。
悪徳ギルドマスター、書籍版・電子版が好評発売中です!
めちゃくちゃ頑張って書きました!
ぜひお手にとっていただけますと幸いです!