マドラーの孤独
こつん。コップにマドラーが触れる。氷が音を立てて割れる。
「急に暑くなるんだよなぁ」
白く濁ったコップの中をかき回しながら呟く。世間は外出をした若者達を叩くので躍起になっているらしい。
私にとって至福の時間といえば、休日午後のティータイムに他ならない。まず飲み物を選び、一本の木製マドラーでかき混ぜながら、テレビに向けて独り言ちる。何もしていない時もあるし、小説を書いている時もある。大体は何か一区切りがついた時だ。
ワイドショーの偏向報道や、SNSの思想と思想による暴力を、ほんの数ミリのガラス越しに眺めながら、カラカラと小気味良い音で鳴くカップを弄り回す。その度に氷の隙間から別の隙間へと、白色が水の中に浸透していく。
「この評論家の意見は右寄りだなぁ」
激しく唾を飛ばして議論する人々の口は大抵悪く、間延びした私の語尾はいつも彼らに釣り合わない。それが滑稽でならないのか、混ぜる手を止めてなお、シロップがマドラーの上を這うように浸透していく。それは蜘蛛の巣のように細い線となり、氷とコップの隙間を埋める水へと降っていく。
口をつけようかと迷う良い馴染み具合になる頃に、再度SNSを更新する。
「あら^〜」
動物が戯れつく動画が流れてきて、つい見てしまう。待機したままのマドラーは、自分の周りに纏わり付く薄い白色に恐怖を抱き始めただろうか。
ほんの一般の至福を終えてコップに手を伸ばすと、汗ばんだ彼の肌が複眼のように私の方を見ていた。
待ちわびたのだと喜ぶように、マドラーは纏わり付く白色を巻き込みながら氷にその身をぶつける。肌色が赤色になる低い体温の彼が心地良い。やがて漂白された中身からマドラーを引き抜き、私は静かに、コップと接吻した。
「……あー」
流れ込むように歓喜が浸透する。一口が全身にもたらす暴力的な満足感は、階段を登る原動力になった。
さて。一筆認めますかな。