五十五、生まれ変わり
私は突然、目が覚めた。
そう・・私のいるところは、あの謎の部屋だった。
え・・城田さんは・・?
うそ・・
カフヒー店は、どうしたの。
私は部屋を見回したが、城田さんはいなかった。
私の姿も現代に戻っていた。
私は急いで部屋を出て、城田さんを探した。
「城田さん!どこですか」
そして私は、店の入り口にいた初老の男性のもとへ行った。
「あの、すみません」
「はい、なんですか」
「私と一緒にいた男性を知りませんか」
「ああ・・もう終わったのですね」
男性は意味深なことを言った。
「終わったって・・どういうことですか」
「お嬢さん」
「なんですか」
「あの城田浅緋という人は、もうこの世に存在しとらんのですよ」
「え・・」
「あの人はもう死んだ人ですよ」
「う・・うそ・・だって、そんな・・」
私の頭は、当然ながら混乱した。
「城田さんはね、この世に思いを残したまま亡くなったんです」
「ちょ・・あの、じゃあ私が一緒にいた城田さんって、幽霊だったのですか」
「それは過去のことを仰ってんですかね」
「ああ・・はい、そうです。明治か大正時代の・・」
「それは城田さんご自身ですよ」
「えっと・・じゃ、ここに一緒にいた城田さんって、その・・過去の城田さんなんですか」
「そうですよ」
「あの・・ちょっと混乱してしまって・・」
「わかります。落ち着いたら話してください」
私は考えに考えた。
え・・私ってタイムスリップしたのよね・・
城田さんが連れて行ったのよ。
でもなんで・・私だったの。
あの経験は、バーチャルとは思えない。
絶対にリアルだった。
「あの・・城田さんはなぜ私を過去へ連れて行ったのですか」
「それは・・あなたが白川水樹の生まれ変わりだからですよ」
「ええっ!」
わ・・私が生まれ変わり・・
でも・・なに・・記憶は・・私のままよ。
「城田さんはね、あなたを探していたんです」
「え・・」
「それでもう一度、あなたと恋に落ちてやり直したいと願ったのですよ」
「ってことは・・私の前世の水樹さんは、あの時代、城田さんと恋に落ちていたのですか」
「仰る通りで」
「それで、どうなったんですか・・」
「水樹はね、自殺したんです」
「え・・」
「親に反対されてね・・」
「・・・」
「それで城田さんも後を追ったのですよ」
「う・・うそ・・」
「どうでしたか。あなたと城田さんはどうなりましたか」
「えっと・・ものすごく色々あったんですけど・・最後は一緒にカフヒー店をやって行くことになりました。そこで目が覚めたんです」
「ほお。それはよかったですね」
「でもなんで・・そこで目が覚めたのでしょうか」
「それは、城田さんも水樹さんも成仏した証拠ですよ」
「そ・・そうですか・・」
っていうか・・この人、なんでこんなに色々知ってるのよ。
「あの・・お爺さんはどなたですか」
「気になりますか」
「なりますよ」
「私はね、江梨子の息子ですよ」
「えええ~~!姐さんの・・」
姐さん・・結婚したんだ・・
よかった・・
「はい」
「でもなんで、その息子さんが私のことや城田さんのこと知ってるんですか」
「母はあなたたちのこと、ずっと見ていたんですよ。それで私によく話してくれました。そんなことがきっかけなんでしょうかね、私には不思議な力が備わってましてね。それで城田さんが私の前に現れたというわけです」
「・・・」
「それで、あなたを探していると言ってましたよ」
私はふと気がついた。
あの日、っていうか・・今日なんだけど、私がここへ来た時、このお爺さんは私をずっと見ていた。
そのわけが、今やっとわかった。
「あの・・私はもう、城田さんとは会えないんですか・・」
「そうですねぇ。もう成仏されましたからねぇ」
「なんか・・私だけ取り残された感じで・・」
「水樹さん」
「はい・・」
「城田さんが経営していた、コーヒー店へ行かれてはどうですかね」
「えっ・・今もあるんですか」
「いえ・・ありません」
「じゃあ、どうして・・」
「今ならまだ城田さんの「思い」が残っているかも知れませんよ」
「そうですか。行ってみます」
そして私は場所を教えてもらい、そこへ向かった。
ほどなくして、コーヒー店があったであろう場所についた。
けれどもそこは、コーヒー店はおろか、更地になっていて何もなかった。
ここに・・店があったのね・・
私たちはどうやって暮らしたんだろう・・
子供はできたのだろうか・・
「水樹・・」
後ろで城田さんの声がした。
慌てて振り向くと、着流し姿の城田さんが立っていた。
「城田さん・・」
「水樹、僕は幸せだったよ」
「・・・」
「きみが水樹の生まれ変わりだとわかった時、僕はきみを過去へ連れて行ってしまった。きみを混乱させてしまった」
城田さんは、私ではなく、前世の水樹と話しているようだった。
城田さんは私を「水樹」と呼び捨てにしなかったし「きみ」と呼んだこともなかったからだ。
「生きていてくれて、本当にありがとう」
「そんなっ・・」
「僕のために・・辛い思いをさせて悪かった」
「そんな・・いいんです。そんなこと・・」
「きみはこの時代で幸せになるんだよ」
「・・・」
「もう思い残すことはないよ。ありがとう、水樹」
「あ・・あのっ・・私を・・私も連れてってくれませんか・・」
私は思わずそう口走っていた。
「それはできないよ」
「どうしてですか」
「きみにはずっと、美味しいカフヒーを作ってほしい」
「・・・」
「みんなを喜ばせてほしいんだよ」
「私・・城田さんがいなくなると・・とても淋しいです・・」
「そんなことはないよ」
「どうしてですか・・」
「これをあげるよ」
城田さんは懐から、すげ櫛を取り出した。
「きみ、これを置いていっただろう」
そして私に手渡してくれた。
「ううっ・・ううう・・」
「これを僕だと思って」
「城田さん・・ううう・・」
「それじゃ、さようなら」
「ゆ・・夢に出てきてくれますか・・」
城田さんはニッコリほほ笑んで消えた。
私はすげ櫛を握りしめて、ひとしきり泣いた。
そして翌日、私はカフェに出勤した。
店長も、大窪さんもいつもと変わりがなかった。
私にすれば、もう何年も会ってない気がしていた。
「あら、水樹ちゃん、寝不足?」
大窪さんがそう訊いた。
「ああ・・はい、まあ・・」
「ちゃんと寝ないと、身体に毒よ」
「はい、そうですよね」
そこで私は、城田さんのことを訊いてみようと思った。
「大窪さん」
「なに?」
「先日、ここに来た、素敵な男性いましたよね」
「え・・」
「ほら、若旦那風の・・」
「ちょ・・水樹ちゃん、大丈夫?」
「え・・憶えてないんですか」
「そりゃま、時々、素敵な人は来るけど、そんな、若旦那風って、ないない」
うそ・・
記憶が消されてる・・
城田さんはここに来てないことになってる・・
カランコロン~
「いらっしゃいませ~」
大窪さんが客を迎え入れた。
え・・ちょ・・
うそ・・
ちょっと待って・・
なんで・・城田さんが・・
城田さんは、紺色のスーツを着て入ってきた。
「大窪さん・・」
「なによ~」
「あの・・お客さん・・見えてるんですか・・」
「なに言ってるのよ。ほら、注文訊いて」
「は・・はい・・」
私は水を持って城田さんのテーブルに行った。
「いらっしゃいませ・・」
「どうも」
城田さんは私を見てニッコリ笑った。
その瞬間、私はその人が城田さんの生まれ変わりだとわかった。
「あ・・あの・・」
「はい、なんですか」
「城田さん・・ですよね・・」
「そうですよ」
やっぱりそうだ・・生まれ変わりなんだわ・・
でもなんで・・
「あなた、水樹さんですよね」
「はい・・」
「僕はあなたのカフヒーを頂きに来ました」
私は腰が抜けそうになり、その場に座った。
「大丈夫ですか」
城田さんは優しく私に手を差し伸べてくれた。
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