五十三、再会
「昨日、あれからどうだったの・・?」
私は翌日、椿に訊いた。
「旦那さん方、楽しそうにしてたわよ」
「そっか・・」
「あの若い方の旦那さん、あの人なのよ。私に何もしないで帰ったのは」
「へぇ・・」
「素敵な人だわ。桜ちゃんもそう思ったでしょ」
「うん・・まあね」
「なんかね、神奈川に家があって、もうこっちへ来たんだって。昨日はそのお祝いだったみたいよ」
え・・
もうこっちへ来たんだ・・
「それでね、お店を出すんだって」
「そうなのね・・」
「桜ちゃん・・昨日から元気ないけど、ほんとに大丈夫?」
「ああ、うん。大丈夫」
「姐さんたちも心配してたよ」
「そうなんだ、ごめんね」
「あ、それとね」
椿は、なにかを思い出したようだった。
「桜さんは、いつからここで働いてるのって訊いてたよ」
「え・・」
「あの若い人ね」
「椿・・なんて答えたの・・」
「二年前ですって答えたよ」
「・・・」
「いけなかった・・?」
「ううん、いいのよ」
もしかして・・
城田さん、私だってことに気がついたの・・?
それから二日後・・
「桜、指名がかかったよ」
私が張り見世で座っていたら、おばあが呼びに来た。
「作之助さんですか」
「いや、この間の若旦那さんだよ」
「え・・」
「ほら、宴会の時の」
う・・うそ・・
「あの、私・・ちょっと具合が悪くて・・」
「え・・桜ちゃん、大丈夫?」
私の横にいた椿がそう言った。
「お前、二日前もそう言ってたね」
おばあが言った。
「すみません・・なんだか身体がだるくて・・」
「仕方がないねぇ」
「すみません・・」
「じゃ部屋に戻って寝てな。若旦那には私から断っておくよ」
「はい、お願いします」
そして私は急いで自室へ向かった。
城田さんはきっと、私を水樹だと確認するために指名したに違いない。
会えば、今度こそバレてしまう。
それから三日後、また城田さんが私を指名してきた。
あの後、私は医者にも行かされ、健康体だという診断を受けたばかりだ。
もう断れない・・
「今日は、お相手をするんだよ」
おばあが言った。
「はい・・」
私はもう、どう足掻いてもバレると悟った。
ならば、堂々と会うしかない。
ずっと下を向いてられるはずもないんだ。
そして私は城田さんが待つ部屋へ向かった。
「失礼します」
私は障子の前でそう言った。
「どうぞ」
中から城田さんの声が聞こえた。
私は障子を開け、中へ入った。
「ご指名、ありがとうございます」
私は手をついて挨拶をした。
「お身体はどうですか。大丈夫なのですか」
「はい、おかげさまで、よくなりんした」
私は手をついたまま、そう言った。
「そうですか。さ、どうぞこちらへ」
「はい」
そこで私は頭を上げ、城田さんのそばまで行った。
「桜さん」
「はい」
「あなたは本当に、僕の知ってる人に似ています」
「左様でありんすか」
「声もそっくりです」
「世の中、似てる人はたくさんいるものでありんす」
そこで私は徳利を持ち「どうぞ」と言った。
「いえ、お酒はいいです」
「左様でありんすか」
「桜さん」
「・・・」
「もっと僕に顔を見せてくれませんか」
「旦那様、人違いでありんす」
「そうは思えないのですが・・」
「あちきは旦那様など、知りません」
「そうですか・・。僕の勘違いだったのですね」
「この近くに店をお出しになったとか」
私は話を変えた。
「えぇ。花街ではありませんが、ここから近いです」
「左様でありんすか。それはおめでとうございます」
城田さんは話をしながら、ずっと私の顔を見つめていた。
けれども私は、ずっと顔を背けていた。
「水樹さん・・」
「はい・・」
あっ・・し・・しまった・・
どうしよう・・
もう騙しきれなくなった・・
「やはり、水樹さんだったのですね・・」
「ち・・違います・・」
「もう嘘を言っちゃいけません」
「・・・」
「探したんですよ・・」
「・・・」
「水樹さん、僕を見てください」
私は観念して城田さんを見た。
「水樹さん」
城田さんは私を抱きしめた。
私はポロポロと涙が零れた。
「どうして・・僕の前から消えてしまったのですか・・」
「・・・」
「なにがあったのですか。話してください」
「もう・・私は城田さんに会わないと決めたのです・・」
「なぜですか」
「私は剛三に手籠めにされました・・」
「・・・」
「そしてここでは、何人もの男性の相手をして来ました」
そこで城田さんの私を抱きしめる腕の力が、一層強くなった。
「だからなんだと言うのです」
「え・・」
「それが、僕の前から消える理由になるのですか」
「・・・」
「水樹さんは水樹さんです。なにも変わりませんよ」
「ううっ・・」
「水樹さん」
「は・・はい・・」
「ここを辞めて、僕に着いて来てくれますか」
「え・・」
「頼みます。そうしてください」
「でも・・辞めることは簡単ではありません・・」
「身請けですか」
「はい・・」
「それなら僕が身請けします」
「でも・・」
「それ以上、言うことは許しません」
この後、私は城田さんから、その後の話を聞くことになった。




