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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
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五、奉公人




「いま戻ったよ!」


おばあが広い間口の玄関を開けると「おかえりなさい」と、奉公人と思しき少年たちが一斉に声を挙げた。


幸恵(ゆきえ)!」


おばあが幸恵という名を呼んだ。


「あ、お義母さん、おかえりなさい」


奥から女性が小走りで駆け寄ってきた。


「この子、頼んだよ」


幸恵はほんの少し、私を蔑んだ目で見た。


「そうですか。お前、名前は」


私は幸恵に訊かれた。


「白川水樹です・・」

「ふーん・・とりあえずこっちに来なさい」

「ちゃんと働くんだよっ」


おばあは捨て台詞を吐いて、入口に近い畳の部屋へ上がって、なにやら机に向かっていた。

私は幸恵の後を着いて行った。

ちょっと・・なんで私がこんなとろこへ連れて来られなきゃならないの。

城田さん、どこへ行ったのよ。


「水樹、今日からここで働くんだよ」


私が連れていかれたところは、調理場だった。

調理場・・

なんか・・カフェのホールと似たような・・


「私・・ここで何をするんですか・・」

「ちょっと!清助(せいすけ)


幸恵は、こちらに背中を向けて魚のうろこを落としている男性に声をかけた。


「はい、なんでございましょう」


清助という男性は、腰に付けていた手ぬぐいで手を拭きながらこっちを向いた。


「今日からこの子、水樹もここで働くので、よろしく頼むよ」

「はい、わかりました」


清助はそう言って、私を興味深そうに見た。


「水樹、清助はここの料理長だからね」


幸恵がそう言った。


「そう・・ですか・・」

「じゃ、あとは頼んだよ」


幸恵は調理場を去った。


「あの・・」


私は清助に声をかけた。


「あまり緊張するなって」


清助はニコリと微笑んだ。

年のころは・・四十代といったところか・・

私の父と同年代に見える。


「私・・いきなり連れて来られて・・なにをすれば・・」

「ここには俺をはじめとして、助手やら、給仕の女が何人かいるんだ」

「えっと・・それで私はなにを・・」

「お前は給仕だ」

「給仕って・・ホールってことですか・・」

「ホール?なんだそれは」

「いや・・料理を運ぶ・・?」

「そうだよ。わかってんじゃねぇか」


なんか・・偶然というか・・

仕事をやるにしても、慣れた職種でよかった・・


「おおーい!」


そこで清助は誰かを呼んだ。


「おおーい、真知子(まちこ)!いないのか」

「はいはい、なんだよ清さん」


そこに、これまた母と同年代と思しき女性が現れた。


「こいつ、水樹ってんだ。今日からここで働くことになったんで、よろしく頼んだよ」

「へぇ~」


真知子は私を上から下まで、舐めるように見ていた。


「よ・・よろしくお願いします・・」


私は真知子に頭を下げた。


「私は給仕長の真知子だ」

「はい・・」

「んじゃ、早速なんだが、あっちで食器を拭いとくれ」


真知子の視線を追うと、若い女の子たちが布巾で食器を拭いていた。


「はい・・」

「ほら、ついて来な」


私は土間の上り口まで行き、板の間に座っている女の子たちの前まで連れて行かれた。


「みんな!今日からこの子もここで働く。色々と教えてやっておくれよ」


真知子がそう言うと、女子たちは一斉に私を見た。

女子は全員で五人いた。

みんな私と同年代か、年下に見えた。


「はい、これ」


真知子がこの場を去ると、女子の中の一人が私に布巾を渡してくれた。


「あ・・どうも」


私は布巾を受け取り、その女子の隣に座った。


「私、初枝(はつえ)。よろしくね」


女子がそう言った。


「あ・・私、水樹です。よろしく」

「ここにある食器を全部拭くの」


初枝は木箱の中に入っている、様々な食器を指して言った。

どの食器も、色とりどりの絵柄が描かれてあり、一目見ただけで高級品とわかった。


「割ったら給金から引かれるからね」


初枝はそう言って笑った。


「あの・・訊きたいんだけど・・」


私はそう言った。


「なに?」

「ここって・・高級料亭なの・・?」

「え・・ああ・・うん・・」


初枝は急に言葉を濁した。


「はっちゃん、無駄話してたら、叱られるよ」


初枝の隣に座っていた女子がそう言った。


「うん、そうだね」


初枝はそれっきりなにも言わず、もくもくと食器を拭いていた。

今の、初枝の反応はなに・・?


「おかえりなさい~~!」


突然、玄関の方で何人もの大きな声がした。


「きっと、江梨子えりこ姐さんだよ」


初枝の隣の女子が呟いた。


「そうだね」


初枝がそれに答えた。


「江梨子姐さんって・・誰なの」


私が初枝に訊いた。


「ここの専属の芸者さんよ」

「そうなんだ・・」


芸者さんかあ。

実際には見たことないけど、綺麗なんだろうな。


「私の憧れの姐さんなんだあ」


初枝がそう言った。

初枝の見た目はとても清楚で、古風な感じの美人だった。

初枝も芸者を目指しているのかな・・


「あの・・また訊きたいんだけど・・」


私は初枝にそう言った。


「なに」

「ここって・・みんな住み込みっていうか・・」

「そうよ」

「そうなんだ」

「私たち下働きは、ここを出たところの別棟で寝泊まりするのよ」

「そうなんだ・・」

「仕事が終わったら連れて行ってあげるね」

「ありがとう」


食器を磨く作業が終わった頃には夕方を迎え、調理場は本格的に忙しくなり、私たちはお膳に食器を並べたり、料理の盛り付けなどもした。


「さて、今夜は若旦那ご一行が来られる。みんな粗相のないようにな!」


真知子が調理場でそう言った。


私以外の女子は「はいっ!」と勢い良く返事をした。

私も遅れて「はい」と言った。


「そうだねぇ・・お前は来たばかりでまだ早いけど、顔だけでも見ていただくか」


真知子が私を見てそう言った。


「え・・」

「いいかい!まずは酒をお出しするんだよっ。それからっと・・おい!精さん!」


真知子は清助を呼んだ。


「なんだよ!」


清助は菜箸を持ちながら振り向いた。


「若旦那の好物、拵えてあるんだろうね」

「言われるまでもねぇさ」

「そうかい。頼んだよ。さあさあ、忙しくなるよ!」


そう言って真知子は玄関口へ行った。


顔を見せるってなんだろう・・

私のこと言ったよね・・

若旦那って・・誰なのよ。

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