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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
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四十九、決行




私は剛三の家へ行く前に、城田さんの店へ向かった。

もちろん会うためではない。

私自身の決意が、鈍らないためにだ。

もう灯りも消えた店の前に立ち、私は「城田呉服屋」と書かれた看板を見上げた。


きっと恨みを晴らしますからね・・


不思議と私は冷静だった。

今から決行しようとしていることが、あまり重大なこととは思えないほどに。

そして私は、しばらく歩いて人力車に乗った。

車夫に行き先を告げ、人力車は糸田家の近隣に向かって走った。


お金は全部持ってきた。

もう使うこともない。

惜しまれたのは、城田さんに貰った浴衣と、志津に貰った小紋を置いてきたことだけだった。


やがて人力車は目的地へ着いた。


「お客さん」


車夫が私を呼んだ。


「なんですか」


私は下りながら答えた。


「こんな時間に女性が一人で、どこへ行くんですか」


そう、もう時間は十一時前だった。

あたりはすっかり闇に包まれ、人も歩いてなかった。


「親戚の家がここの近くなんです」

「そうですか・・」

「頼まれごとがあって」

「どうぞ気をつけて」

「ありがとうございます」


私は車夫にお金を渡し、人力車はこの場を去った。

私は急いで糸田家へ向かった。

その時、「お前は本当にそれでいいのか」と声が聞こえた。

私は立ち止まり、辺りを見回した。


けれども誰もいない。

今の声はなんだったんだ・・


私は再び歩き始めた。

するとまた「よく考えろ」と声が聞こえた。

私はまた立ち止まった。

けれども誰もいない。


そう・・実はその声は、私自身の心の声だったのだ。


なに・・

私は迷っているのというの。

いや、迷ってなんかない。

もう、あいつを殺さなければ、終わりが来ないんだ。

もしかしたら次は、城田さんが殺されるかも知れない。


「私は決めたんだ!」


私は思わず叫んでいた。


「そうか。それなら行けばいい」

「行くわよ!」

「でも、あいつを殺して千代が帰って来るのか」

「また誰かが殺されるかも知れないのよ!」

「人を殺めたお前を、城田が愛するとでも思っているのか」

「城田さんが殺されるよりマシよ!」


私は自分の中の私と葛藤していた。


「もう決めたんだ!」


そして私は糸田家まで走った。

やがて家の前に到着し、どうやって中へ入ろうかと考えた。

門は固く閉ざされ、入る隙間もなかった。


しばらく植え込みの横で、身を隠していると、そこに誰かがやって来た。


「あはは、若旦那ったら、やだわ~」


女性の声でそう聞こえた。


若旦那・・

もしかすると剛三なのか・・


「それじゃ、若旦那。おやすみなさいまし」


次に男性の声がした。


「やだ~若旦那、送ってってくださいな~」


女性がそう言った。

女性は、そうとう酔っているようだ。


「三郎、頼んだぞ」


剛三がそう言った。


「はい、かしこまりました」

「やですよ~若旦那あ~~」


そう言った女性の声は、次第に遠のいていった。

私は剛三が一人になったとわかった。


そして剛三が門を開ける音がした。

私は急いで包丁を懐から取り出し、一目散に剛三のもとへ走った。


すると、剛三は一人だと思っていたが、もう一人男性が立っていた。

私は、しまったと思ったが、止まらなかった。


「若旦那!」


男性がそう叫んだ。


「なんだ」


剛三は振り返り、私を見た。


「若旦那、危ない!」


男性はそう言って剛三の前に出た。


「どいて!」

「なんだお前!」


男性は大柄で力も強く、直ぐに私の腕を掴んだ。


「離して!」

「ほお、水樹じゃないか」

「剛三!よくも・・よくも、千代さんを殺したわね!」

「なにを言ってるんだ」


剛三はそう言いながらも、口元は笑っていた。


「私はあんたを絶対に許さないから!」

「あはは。飛んで火にいる夏の虫とはこのことだよ」

「なによ!」


チャリーン


そこで男性によって、包丁が私の腕から落とされた。


「この僕に牙をむくとは、水樹は大したもんだ」


私は男性に羽交い絞めにされた。


「さて・・どうしたものかね」

「なに言ってるのよ!」

「せっかく水樹から出向いてくれたんだ。家へ招待してあげるよ」

「誰がっ!」


私はそこで剛三に唾を吐きかけた。


「おやおや」


剛三は唾のかかった頬を手で拭った。

そして今度は剛三が私に唾を吐きかけた。

それは私の右の頬にかかった。


「どう?」


剛三の唾が頬を垂れていくのがわかり、私は狂いそうなくらい気持ちが悪かった。


「さて、続きは中でしてあげるよ」


剛三は門の中へ入り、私は男性に無理やり連れて行かれた。


新造(しんぞう)、お前はもういい」


部屋に入り、剛三がそう言った。

私が連れて行かれた部屋は、以前と同じだった。


「はい、若旦那」


そう言って新造は私を解放し、部屋を出た。


「さてと」


剛三はそういって、縁側に座った。

私は部屋の障子を開け、逃げようとした。


「水樹」


剛三が私を呼び止めた。


「また逃げる気かい」


私は無言のまま立っていた。


「今度は城田が死ぬよ」

「なっ・・」

「それでも構わないなら逃げればいいさ」

「どうして!なんでそんな酷いことをするのよ!」

「今さら、言うまでもないだろう」

「なんで私じゃなきゃいけないの!」

「問答するつもりはないよ。さ、ここにおいで」

「嫌よ!」

「僕ね、これでも無理やりっていうの、嫌なんだよ」

「お願い・・どうか諦めて」

「聞けない願いだね」


剛三は、頑として聞かなかった。

私が逃げれば、本当に城田さんは殺されてしまう。

そうなれば、私はもう生きていけない。


「まあ、夜は長いし急がなくてもいいよ。父もまだ出張中だしね」

「私が・・あんたの言う通りにすれば、本当に城田さんに手を出さないのね」

「うん、出さないよ」

「店の子たちにも手を出さないのね」

「うん、そうだよ」

「店も潰さないのね」

「潰さないよ」


私はもう言う通りにするしかないと、覚悟を決めた。


「わかった」


そして私は剛三のそばへ寄り、されるがままになった。


私はもう・・城田さんのもとには戻れなくなった。

これでなにもかも、終わりだわ・・

城田さん・・さようなら・・

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