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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
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四十二、江梨子の過去




城田さんは寺からの帰り、その足で家へ向かうことになった。


「水樹さん」


大通りの分かれ道で、城田さんが私を呼んだ。


「はい」

「家の方が落ち着いたら、必ず店へお詫びに伺いますので、待っていてください」

「私も・・城田さんのお家へ出向いて、お詫びします」

「それは結構です。これは僕の責任ですから」

「若旦那、水樹がこう言ってんだから、気の済むようにさせておくんなさいな」


江梨子がそう言った。


「それに、私も水樹は詫びに行くべきだと思いますしね」


続けてそうも言った。


「わかりました。では江梨子さん、水樹さんをよろしくお願いします」

「ああ、承知しましたとも」


そして城田さんは家へ向かった。


「さあて、水樹」

「はい・・」

「一旦、私の家へ行くよ」

「はい・・」

「元気出しな」

「姐さん・・いつもご迷惑ばかりかけて・・すみません・・」

「水臭いこと言ってんじゃないよ」


江梨子は笑って先を歩いた。

ほどなくして江梨子の家に到着し、江梨子は私に上がるように促した。


「さてと、お茶でも飲むかい」


部屋に座った私に、江梨子が訊いた。


「あ、それなら私がします」


私はそう言って立とうとした。

すると江梨子は「いいから座ってな」と言って、土間へ下りた。


「それにしてもまあ、寺にいたとは驚きだったよ」


江梨子はかまどに火を点けながらそう言った。


「私もまさか、姐さんがお寺に来るとは思いもしませんでした」

「あはは。だろうね。あの寺は菩提寺なんだよ」

「そうですか・・」

「三年前に母が亡くなってさ。今日は命日だったんだよ」

「・・・」

「水樹」

「はい・・」

「色々と訊いてやるから、楽しみにしてな」


江梨子は、いたずらな笑顔を見せた。

やがて江梨子は湯飲みを二つ盆にのせて、部屋へ上がった。


「さてと、なにから訊こうかね」

「・・・」

「心配しなさんな。もう怒りゃしないよ」

「はい・・」

「で、どうして逃げることになったのさ」


私は剛三の家へ行き、直談判した際、馴染みにならなければ初枝に手を出すと脅されたことを話した。


「なっんてやつだい!」


江梨子は湯飲みを叩くように盆に置いた。


「あんたさ・・どうして一言、私に相談しなかったのさ」

「それも考えたんですけど・・姐さんに危害が及ぶんじゃないかと心配して・・」

「っんな心配いらないんだよ。それで、どこへ行ったのさ」

「横浜港へ・・」

「ふーん、なんでまた」

「特に理由はありませんでした」

「そうかい。それを若旦那が追いかけてきたというわけだね」

「はい」

「しかしまあ、若旦那も大胆だねぇ」

「・・・」

「糸田ならまだしも、城田の若旦那は大人しいし、そんなことするようには見えなかったよ」

「私も驚きました」

「あんたのことが好きなんだね」

「あ・・はい・・」


それから、旅館に泊まったこと、追っ手が来て別の旅館へ移動したこと、そこにまた追っ手が来て寺へ行ったことなどを話した。


「追っ手は・・おそらく糸田が差し向けたんだろうね」

「はい、そう思います」

「まったく、なんて執念深いんだい。男の風上にも置けないねっ」

「あの・・姐さん」

「なんだい」

「私のために無茶はしないでくださいね」

「あはは。心配してんのかい」

「はい」

「私はさ、一人で生きてんだ。だからそうそう無茶はやらないよ」

「あの、姐さんってお一人でずっと・・?」

「それこそ三年前までは母と暮らしてたけど、亡くなっただろう。父は私が五つの時に亡くなったしね」

「そうなんですか・・」

「母も芸者でさ。いい女だったんだよ。私は母が好きでね。母みたいな芸者になりたいってずっと思ってんだよ」

「姐さんって・・おいくつなんですか」

「私?私は二十六だよ」


えっ・・二十六・・

しっかりしてるから、もっと上かと思ってた。

城田さんと、一つ違うだけなんだ・・


「あはは、意外だったかい?」

「いや・・まあ意外っていうか・・とてもしっかりされてるので・・」

「やだよ。年増って言いたいのかい」

「違います。とても若くて綺麗です」

「まあ、この世界で長くやってると、自ずと強くなるもんなんだよ。そうでなきゃ生きていけないからね」

「結婚とか・・されないんですか」

「今さら結婚もありゃしないよ」

「でも姐さんなら、モテるでしょう?」

「まあ、昔、好きな男はいたけどさ。妻子持ちだよ」

「え・・その人は、今はどうしてるんですか・・」

「さあ、知らないね」

「その人のこと・・今でも好きなんですか」

「あんたさ、なに訊いてんのさ。私の昔話なんてどうでもいいだろ」


そう言いながらも、江梨子はとても嬉しそうだった。


昔好きだった人のことを思い出しているのかな・・

こういう女性の顔を見せる姐さんって、いいな・・


「私はこれでもね、手籠めにされたことを除いては、男は一人だけなんだよ」

「そうなんですか・・」

「身持ちはいいんだよ」

「それって・・その妻子がいる人のことですか」

「そうだよ」

「・・・」

「まあ、あっちは結局、遊びだったんだけどさ」

「そうなんですか」

「芸者ふぜいに、本気になる男なんていないさ」

「姐さん」

「なんだい」

「姐さん、とても綺麗ですし、私はいい人見つけて結婚してほしいと思います」

「水樹・・」

「ほんとにそう思うんです。もったいないですよ」

「ありがとう。水樹はいい子だね」


江梨子はそう言って私の頭を撫でた。


そして翌日、江梨子は私を連れて水連亭へ向かった。

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