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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
27/55

二十七、反乱




―――そして次の日の夜だった。


三度(みたび)、剛三が私を指名してきた。

おばあは「今度こそちゃんとするんだよっ」と言い、私の体調も確かめた。

私はもう、いよいよ逃げられないと痛感し、言われるがまま離れへ行くしかなかった。


「いいね、これ以上、何かあったら店は潰されるんだよ。よく肝に銘じなよ」


私は幸恵にも、そう念を押された。


そうよね・・

私次第で、店の運命が変わるんだよね・・

私さえ我慢すれば済むことなんだ。

そうよ。

たかが・・寝るだけじゃない。

命を取られるわけじゃないのよ・・


私がこのような諦めの境地に至ったのは、やはり城田さんのことが大きかった。

もう城田さんは結婚するのよ。

私がどれだけ思いを募らせても、所詮は無理なんだよね。


私は覚悟を決めて離れへ向かった。


「水樹です」


私は障子の前でそう言った。


「来たか。入れ」


中から剛三の声がした。


「失礼します」


私は障子を開けて中へ入った。

剛三の姿を見たとたん、吐きそうになったがなんとか堪えた。


「酌をしてくれ」


剛三は横になりながら、右手で頬杖をつき、左手で猪口を差し出した。


「はい」


私は剛三の傍へ寄り、徳利を持って酌をしようとした。


「水樹」

「はい」

「おひとつどうぞ、くらい言えないのか」


剛三は下から私を見上げた。


「すみません・・おひとつどうぞ」


そして私は酌をした。

剛三はグビッと流し込んだ。


「気分はどうだ」

「え・・」

「こうして僕と二人で居る気分だよ」

「はい・・とても楽しいです」

「あはは。それにしては顔がこわばっているな」

「そう見えますか。すみません」

「まあいい。ほら」


剛三は起き上がって胡坐をかき、また猪口を差し出して催促した。


「どうぞ」


そして私は酌をした。


「水樹はここの生まれなのか」

「いえ、群馬です」

「ほーぅ。またどうしてここに」

「親に売られたんです」

「ああ・・そうだったな。ここの女はみんなそうだ」


女って言い方・・なによ。

侮辱してるつもり?


「お前な、少しは笑ったらどうだ」

「すみません」

「まだ僕が嫌いか」


はあ??好きになる理由がどこにあるのよ。

と、どれだけ言いたいことか・・


「・・・」

「どうなんだ。答えてみろ」

「嫌いでは・・ありません」

「好きなのか」

「・・・」

「好き・・かも知れません」

「あはは。答えに窮するお前はおもしろい」

「・・・」

「まあいい。たっぷりとかわいがってやるよ。そして心底、好きと言わせてみるよ」


ううう・・ほんとに吐きそうだ・・


「僕以外の男には、目もくれないほどにね」


ぐうわあああ・・

やめて・・

気持ち悪い・・


「さあ、こっちへおいで」


剛三は私の手を握り、(とこ)へ連れて行こうとした。


とうとう・・

ほんとに・・

そうなってしまうんだ・・

城田さん・・城田さん・・助けて・・


やがて私は布団に寝かせられ、剛三が私に重なってきた。


ううっ・・嫌だ・・

耐えられない・・


剛三は私の顔に手をあて、唇を重ねようとした。


ああああ~~

もうマジでダメだ!


バチーン!


私は思わず剛三の頬を引っ叩いた。


「お前・・舐めた真似を・・」


剛三は私をきつく睨みつけた。


「嫌だあああ!」


私は剛三を突き飛ばして、転がるように部屋を出た。

その足で階段を下り、誰にも見つからないように裏口から外へ逃げた。


あああ・・やってしまった・・

どうしよう・・

もう取り返しがつかない。


どこへ行けばいいんだろう・・

ああ・・裸足だわ・・足が痛い。


城田さんのところへ行くこともできない。

かといって・・


あっ!

江梨子姐さんのところへ・・

江梨子姐さんのところへ行こう・・


私は以前、江梨子に教えてもらった家へ走った。

その際、何人もの人とすれ違った。

裸足の私を見て、唖然としている人もいた。

それでも私は、なりふり構わず江梨子のもとへ向かった。


えっと・・確か近所に魚屋があると言ってた。

魚屋・・魚屋はどこ・・


しばらく走ると魚屋の看板を見つけた。


あそこだわ。

魚屋の路地を右へ入るのよ。

そして・・真っすぐ行ったところの突き当りにある・・


私は突き当りの家の前まで来た。


ここかな・・

灯りは点いてるわ。


「夜分にすみません・・」


私はそう声をかけた。


「はいはい、どちら様?」


中から江梨子の声が聞こえた。

よかった・・姐さんだ・・


ガラガラ・・


そこで扉が開いた。


「あっ・・」


江梨子は、今にも死にそうな私の姿を見て、言葉を失っていた。


「姐さん・・姐さん・・」


私は泣きながら江梨子を呼んだ。


「入りな」


江梨子は辺りを窺って、すぐに扉を閉めた。


「姐さん・・すみません・・私・・」

「言わなくても察しはつくよ。さ、上がりな」


私は江梨子に促され、部屋へ上がった。


「あらあら・・裸足だったのかい」

「あ・・すみません」

「待ってな」


江梨子は炊事場へ行き、雑巾を絞って渡してくれた。

私は足を拭いて、「ありがとうございます」と言い、雑巾を江梨子に返した。


「さて・・これから大変だよ」


江梨子が言った。


「はい・・わかってます・・」

「相手は糸田だろう」

「はい・・」

「あいつ・・とうとう手を出したんだね」

「でも・・私、まだなにもされてません」

「そうか。未遂で済んだってわけだね」

「もう・・耐えられなくて・・」

「わかるよ。私だってそうしたさ」

「・・・」

「まあ今夜はここで寝るといい。明日になれば私が着いて行ってやるから、安心しな」

「すみません・・ご迷惑をおかけします・・」


そして私は、江梨子と布団を並べて眠った。

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