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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
26/55

二十六、塾




次の日、私の気持ちは沈んだままで、開店間近の受付で、ぼんやりと座っていた。


明日からは「塾」が始まるというのに・・


城田さんの承諾は、まだ得ていなかったので、とりあえず私だけで教えることになった。

女子たちには、また恨まれたら嫌なので、昨日の夜、その話をした。


すると意外なことに、みんなは「すごいじゃない」と言って喜んでくれた。

中でも美智乃は、「塾生」の一人として学びたいと羨ましがっていた。

そこで私は、「仕事が終わって後で、字を教えてあげる」というと、美智乃は大変喜んでいた。

その他の女子は、いまいち乗り気じゃなかったけど、美智乃が学ぶことには賛成していた。



「Excuse me」


突然、背の高い白人の男性が現れた。


ぎゃ・・この時代に白人が来日してるのね。

それにしても英語だわ。

どうしよう・・私、会話なんてできないよ。


「halo、Excuse me」

「えっと・・welcome・・」

「oh!You can speak english」

「no、no・・」


私は首を横に振った。

玄関を掃いていた男の子たちは、珍しそうに男性を見上げていた。


「水樹・・あんたわかるのかい・・」


後ろでおばあが驚いていた。


「いえ、わかりません」

「だって答えていたじゃないか」

「その・・城田さんに少しだけ教わったんです・・」

「そうだったのかい!それじゃ対応してみな」


えぇ~~・・そんなこと言われても、ほんとにわからないんだって。

どうしようかな・・


「えっと・・may I help you?」

「I am looking for a person」


げ・・なんて言ったの・・


「わっ・・what?」

「I am looking for a person」


ダメだ・・わかんない・・


「Tom!」


そこに城田さんが走ってきた。


「oh!asahi!」

「I'm sorry to have kept you waiting」


それから二人で会話を始めた。

私にはちんぷんかんぷんだった。


「若旦那の知り合いだね」


おばあがそう言った。


「そのようですね」

「エゲレスから来たのかね」

「そうかも知れませんね」


「水樹さん」


城田さんが私を呼んだ。


「はい」

「部屋、空いてますか」

「ああ・・はい。まだ開店前なので、空いてます」

「それじゃ、二階の部屋へ案内してくれますか」

「わかりました」


私は小窓から顔を出し、幸恵に「お二人様です」と告げた。

開店まで十分あったが、幸恵は城田さんだとわかると、快く二階へ案内した。


「それで水樹」


おばあがそう言った。


「はい」

「若旦那はエゲレス語を受けてくれたのかい」

「考えておきますと仰ってました」

「そうか・・。今の流暢なエゲレス語を聞くと、ぜひ、受けてほしいもんだ」

「はい・・」

「また念を押しといてくれよ」

「わかりました」



そして次の日、いよいよ「塾」を開始することになり、私は男の子三人を連れて、おばあの部屋へ入った。

男の子は、五助(ごすけ)孫一(まごいち)晴太(せいた)

みんな同い年で、十一歳だった。


「えっと、それじゃそこに並んで座ってね」


私は三人に、私と向き合う形で座るように促した。


「それと、これが帳面。これが鉛筆ね」


それぞれに配った。

三人とも習うことより、初めて入った住居に興味がそっちへいっていた。


「ほらほら、ちゃんとお姉ちゃんの言うこと聞いてね」

「はぁーい」

「それじゃね、まず平仮名っていうの教えるね」

「はぁーい」


私はノートの一ページを使い「あ」という字を書いた。


「これは「あ」と読みますよ」

「あ」


五助がそう言った。


「そうそう、「あ」ね。いい?もう一度書くからね。はい、こうやって横に線を一本。みんな書いてごらん」

「はぁーい」


三人は上手く書いていた。


「んじゃ、次ね。ここからぁ~斜め下に、ほらこうやって~」


私はこんな具合に、「い」や「う」など、いわゆる「あいうえお」を教えた。


「はい、みんな~、もう一度「あいうえお」を最初から書いてみようね」

「はぁーい」


「お姉ちゃん」


五助が私を呼んだ。


「なに?」

「お姉ちゃんって、城田の若旦那さん、好いてるんだよね」

「えっ・・」

「僕、知ってるんだ」

「ちょ・・五助くん、なに言ってるのよ」

「だってさ、お姉ちゃんっていつも、若旦那さんが来たら、嬉しそうな顔してるよ」

「な・・なに言ってるのよ。子供はそんなこと気にしないの」


すると孫一と晴太も「そうだそうだ」とはやし立てた。


「こらこら、あんたたち、そんなことより字を書きなさい」

「僕さ、若旦那さん好きなんだ」


五助がまたそう言った。


「どうして?」

「だっていつも「お掃除、ご苦労様」って言ってくれるよ」

「そうなんだ」

「お客でそんなこと言ってくれるの、若旦那さんだけだよ」


そっか・・

城田さんってほんとに優しいな。

でも・・内藤先生と結婚するのよ・・

いくら優しくても・・私にはただ空しいだけだわ・・


「お姉ちゃん・・?」


私が沈んでいると、孫一がそう言った。


「え・・あ、ああ、ごめんごめん」

「お姉ちゃん、どうかしたの」


晴太がそう言った。


「どうもしないよ。さっ、「あいうえお」を書いて」

「はぁーい」


こうして初日を終えたのだった。

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