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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
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二十四、戸惑い




私は城田さんが、内藤医院へ入っていったことが気になりながらも、確かめる術もなかった。

おばあは、さっさと水連亭の玄関に足を踏み入れた。


具合が悪くなければいいんだけど・・

大丈夫よね・・


自分に言い聞かせながら、私も店に戻った。


そしてこの日の夜、城田さんが来店した。


「いらっしゃいませ」


私は小窓からそう挨拶した。


「水樹さん、今日はお客で来たのではありません」

「え・・」

「浴衣をお持ちしました」

「あ・・ああ、そうですか。わざわざすみません」


「水樹、行きな」


私と城田さんの会話を見ていたおばあが、後ろでそう言った。


「はい、すみません」


私は急いで玄関口まで行った。


「城田さん、すみません」


私は頭を下げた。


「いいえ、はい、どうぞ」


浴衣は新しいたとう紙に包まれていた。

そして私は浴衣を受け取った。


「それでお代はいくらですか」

「いいえ、要りませんよ」

「いえ、それでは申し訳ないです」

「いえ、本当にいいんです。気にしないでください」

「そうですか・・すみません」


城田さん・・いつもと同じだわ。

どこも悪くなさそうに見える。


「では、これで」

「あのっ」


城田さんが行こうとすると、思わず呼び止めた。


「はい」


城田さんは立ち止まった。


「城田さん・・どこか具合でも悪いんですか・・」

「え・・?」

「いや・・あの、医院へ入って行くのを偶然見かけたんです」

「ああ・・そうですか」


城田さんは幾分か、戸惑っているように見えた。


「えぇ・・ちょっと夏風邪を引いてしまってね」

「そう・・なんですか」

「でも、心配ないそうです」

「そうですか、どうぞお大事になさってください」

「どうもありがとう」


そして城田さんは立ち去ろうとした。


「あのっ」


私はまた引き止めてしまった。


「あはは、なんですか」


城田さんは半ば呆れている風だった。


「えっと・・江梨子姐さんのことなんですけど・・」

「江梨子姐さん?」

「芸者さんのことです」

「ああ、はいはい」

「姐さん、ご一緒したいそうです」

「そうですか。それは楽しみです」

「それで・・いつになさいますか」

「そうですね、明日の夜にでも伺います」

「そうですか。承知しました」

「あ、お部屋は離れではないですよ」

「は・・はい・・」


よかった・・

離れじゃないんだ・・

でも明日の夜って・・やっぱり城田さん、風邪なんて引いてないじゃない・・


そして次の日の夜、城田さんは三階の八畳の部屋へ案内された。

城田さんの他に、乾物屋の忠助も同行していた。

城田さんたちが部屋へ案内されて、かれこれ一時間が過ぎようとしていた。


「水樹」


私が受付で座っていると、おばあが私を呼んだ。


「はい」

「城田の若旦那が、あんたのカフヒーを所望だよ」

「そうですか・・」

「早く作って持って行きな」

「はい」


私はすぐに調理場へ行き、コーヒーを二人分作った。

一つは私のではない。

忠助の分だ。

それを少し残念に思った。


そして盆に乗せ、三階へ向かった。


「失礼します、カフヒーをお持ちしました」


私は障子の前に座り、そう言った。


「どうぞ」


中から忠助の声がした。

私は障子を開けた。

すると城田さんが上座に座り、横には江梨子姐さんが座っていた。

忠助は障子に背を向ける形で、城田さんの斜め横に座っていた。


「水樹、若旦那は、たいそうあんたのカフヒーがお気に入りみたいだよ」


江梨子が言った。

私は中へ入り障子を閉めた。


「やはりここへ来ると、お酒もいいですが、水樹さんのカフヒーを飲みたくなりますよ」

「恐れ入ります」


私はそう言って城田さんと忠助、それぞれの膳にコーヒーを置いた。

といっても、今回は二人とも湯飲み茶碗に入れた。

コーヒーカップは、離れ専用だからだ。


「水樹、せっかくだからお酌させてもらいなさい」


江梨子が言った。


「あ・・はい・・」


私は城田さんの横へ移動し、徳利を持った。

城田さんは猪口を差し出した。


「どうぞ・・」


私は江梨子に教わった通り、私なりに女性らしく酌をした。


「どうもありがとう」


城田さんはそう言って、猪口を口へ持って行った。


「あの・・どうぞ」


私は忠助にも同じように酌をした。


「ありがとね」


忠助はグイッと一気に流し込んだ。


はあ~~・・なんか緊張する。


「それじゃ、ここらで小唄をお聴かせします」


江梨子は部屋の隅に置いてある三味線を手にし、下座へ移動した。

そしてあの『逢うて別れて』を披露した。


シャン・・シャン・・


三味線の音色が部屋に響き・・


――逢うて別れて 別れて逢うて 千切れちぎれの雲みれば

  恋しゆかしの一声は わたしゃ松虫主はまた

  空吹く風の呑気さよ 男心はむごらしい

  憎うなるほどにくいぞえ


パチパチパチ


私たちは大きな拍手を送った。


「いやあ~参った。姐さん、一級品ですね」


忠助が膝を叩いてそう言った。


「江梨子さん、素晴らしい小唄です」


城田さんもそう言って褒めた。


「恐れ入ります。おそまつさまでした」


江梨子は手をついて礼を言った。


「以前、あなたの小唄を離れで聴いたことがあるんですよ」


げ・・城田さん・・それはタブーですよ・・


「ほぅ・・離れ、ですか」


江梨子は城田さんの横に座りながらそう言った。


「その時、水樹さんも一緒にいて、それで目の前で聴きたいと僕が頼んだんです」

「おや・・そうでしたか」


江梨子は私をチラ見した。


いやいや・・勘違いしないで・・姐さん。


「城田さんは、カフヒーをご所望になられ、それで私もご一緒したというわけですよ!」


私はまた、大声を張り上げた。


「あはは、水樹。声が大きくなるってのは、動揺してる証拠だよ」


江梨子が笑った。


「ち・・違います!ほんとにカフヒーだけです!」

「ちょっと、水樹ちゃん」


忠助がそう呼んだ。


「なんですか・・」

「なにをそんなに焦ってるんだよ」

「あっ・・焦ってなんか・・」

「ほらほら、若旦那、あまり若い子を虐めないでやってくださいましな」


江梨子が忠助に言った。


まったく・・城田さん、なんで喋ったのよ・・


「水樹、若旦那にお酌を」


江梨子は城田さんに酌をしろと言った。


「はい・・」


そして私はもう一度、城田さんの横へ行き酌をした。

城田さんの顔は、ほんのり赤くなって、私を優しく見つめていた。

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