二十一、乱闘
この日の仕事が終わり、私は自室へ戻った。
障子を開けると、部屋の隅に畳んで置いてあった、たとう紙が、無造作に開けられていた。
ちょ・・なに・・
私は急いで、たとう紙を確かめた。
すると浴衣の袖が切られていた。
なによ・・これ。
誰がやったの・・
私はおそらく、里だと直感した。
酷い・・
いくらなんでも、これはやり過ぎだ。
私は浴衣を持ち、その足で里の部屋へ向かった。
「ちょっと!」
私は障子を開けて、いきなり怒鳴った。
「ちょっと、なんなのさ」
里は布団を敷いているところだった。
「里!一体どういうことよ!」
私は里に詰め寄った。
「なんだよ、いきなり!」
「これ、どういうことよ!」
私は切られた浴衣を突きつけた。
「はあ?なんだよ、これ」
「あんたが切ったんでしょ!」
「知らないよ!」
里は私を両手で突き飛ばした。
私はその勢いで転んだが、直ぐに起き上がった。
「私に嫌味を言ったり、盗人扱いするのは、まだ我慢できたけど、これだけは許せないわ!」
「だから知らないって言ってんだろ!」
「あんたがやったんでしょ!どうしてくれるの。これは大切な贈り物なのよ!」
「いい加減にしな!そんな大事な物なら四六時中身に着けておくんだね!」
「なによ~~!」
今度は私が里を突き飛ばした。
すると、里も転んだが、直ぐに起き上がり反撃してきた。
そして私たちは乱闘になった。
互いの髪を引っ張り合い、爪で顔を引っ掻き、平手打ちを食らわしたり、足で蹴ったり、もう無茶苦茶になっていた。
「ちょっと!なにやってるのよ」
そこに初枝が入ってきた。
そして、美智乃、房子、志歩と次々入ってきた。
「やめて~~二人とも!」
志歩が悲鳴を挙げていた。
「やめなさい!」
美智乃が私たちに割って入った。
そこに初枝も加勢した。
やがて私たちは分けられ、乱闘は収まった。
「なにやってるのよ!」
初枝が怒鳴った。
「知らないよ!こいつがいきなり入って来て、私を襲ったんだよ!」
里は口元の血を拭った。
「水樹!どういうことよ」
初枝が私に訊いた。
「これ見てよ!」
私は畳に落ちた浴衣を拾って、初枝に見せた。
「なによ、これ」
「なにって、これが見えないの!切られてるのよ!」
「これを私がやったんだとさ!」
「水樹、ほんとに里がやったの?」
「里に決まってるじゃない!」
「私はやってないよ!そもそもそんなもの知らないよ!」
「嘘を言ってんじゃないわよ!あんた以外に誰がやるっていうのよ!」
「ちょっと・・」
そこで美智乃が口を開いた。
「水樹・・証拠でもあるの」
「証拠・・?」
そんなもの・・あるわけない。
でも里なのよ。
こんなことするのは、里よ。
「水樹・・あんた里に盗人扱いされたよね」
美智乃が言った。
「だからなんなのよ」
「その時、どう思ったの」
「どうって・・」
「一方的に疑われて、嫌だったでしょ」
「そりゃそうよ」
「だったら里だって同じじゃない?」
「・・・」
「よく確かめもしないで、なんでいきなり襲ったりしたの」
「それは・・」
「ちょっと貸して」
初枝が私から浴衣を引き取った。
「これ・・切られたんじゃなくて、かじられたんじゃない?」
「ほんと?」
美智乃は浴衣を見ていた。
「あ・・ほんとだわ。これ、ネズミの仕業じゃないの」
え・・うそ・・
嘘でしょ・・
私は初枝から浴衣を取った。
そして改めて見てみた。
すると、確かに初枝の言う通り、切られたのではなく、かじられたように見えた。
しまった・・
とんでもない勘違いをした・・
これは・・最悪の展開よね・・
志歩も房子も浴衣を見ていた。
そして「これは・・かじられてるよね」と言った。
里を見ると、鬼の形相になっていた。
ここは・・素直に謝るべきよね・・
「里・・ごめんなさい・・」
里は無言だった。
「私・・勘違いをしたみたい・・。ほんとにごめんなさい」
里はそっぽを向いていた。
「でも・・一言だけ言わせてほしいんだけど」
私は今までの不満を言おうと思った。
「里だけじゃなく、正直言ってみんなも私のこと、避けてるよね。それは私が字が書けたり、計算ができたり、カフヒーを作れたり、その・・若旦那から指名されたり、色々なことが積み重なってが原因だよね」
みんなは黙って聞いていた。
「私、そんなことが理由で避けられるのって違うと思うの。逆の立場だったらどう思う?それって避ける理由として納得できる?」
「・・・」
「それに、さんざん嫌味も言われたり。ねぇ志歩だったらどうする?」
私は気の弱い志歩に訊いた。
「え・・どうするって・・」
「お願い。考えてよ。志歩ならどうするの」
「そりゃ・・嫌だけど・・」
「そうよね。私の気持ちわかるよね」
「・・・」
「確かに・・水樹の言う通り、私たちはやり過ぎたね」
美智乃がそう言った。
「なに言ってるんだよ、美智乃!」
里は怒りが収まらないようだった。
「里・・あんたが一番、水樹に辛くあたった。私も反省しないといけないけど、里も反省しないとね」
「なんで私が!」
「あんたは水樹に劣等感を抱いてるだけ。悔しかったら水樹を超えることね」
「なっ・・」
「美智乃の言う通りよ。私もやり過ぎたと思う。反省するわ」
初枝もそう言った。
「美智乃・・初枝・・ありがとう・・」
私は涙を流した。
すると志歩も房子も「私も反省する」と言った。
「里、どうなの」
美智乃が訊いた。
「私は・・別に・・」
「あんたもわかってるんでしょ。今は素直になれないこともわかってる。でも、これからは水樹に辛くあたることだけはやめなさい」
「・・・」
「みんな・・騒がせてごめんなさい。私も気をつけるようにするわ」
私がそう言った。
そしてそれぞれの部屋へ戻ったのだった。




