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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
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十七、隔たり




―――それから数日後のこと。


「いやだ・・私のお金がない」


突然、志歩がそう言った。

志歩は部屋の掃除の後、空いた時間を使って、買い物に出かけようとしたところだった。

私たちの小遣いを入れた木箱の引き出しから、志歩のお金が無くなっていたらしいのだ。


「ええ~どうしたの、志歩」


そこに、志歩と一緒に出掛ける予定の房子がそう言った。


「ないの・・私のお金がない・・」

「他の引き出しに入ってるんじゃないの」

「そんなことない。だって女将さんがここに入れてくれたの見たもの」

「あらほんとだ・・ないね・・」


「どうしたの」


その会話を聞いていた私がそう言った。


「水樹ちゃん・・私のお金がないの」


引き出しを覗いてみると、本当に何も入ってなかった。


「どうしたのかな。女将さんに訊いてみる?」

「え・・そんなことしたら、叱られるわ・・」

「でも訊かないと、なにもわからないよ」

「そうよ、志歩。女将さんに訊いた方がいいよ」


房子もそう言った。


「どうしたのさ」


そこに里がやって来た。


なんか・・嫌な予感・・


「里ちゃん・・私のお金が無くなってるの」

「え・・?なんだよそれ」

「ほら・・見て」


里は引き出しを覗いていた。


「あらやだ。ほんとだね」

「私、女将さんに訊いてみる」

「ちょっと待って」


そこで里は私を見た。


「誰かが盗ったんじゃないか?」

「ちょっと、それ、どういう意味よ」


私は疑いをかけられたことで、食って掛かった。


「私は別に水樹って言ってないだろ。誰かって言っただけさ」

「でも私の方を見て言ったじゃない」

「別にどこを見て言おうと私の勝手だよ」

「ちょっと二人ともやめてよ・・」


志歩が私たちを制した。


「それでさ、志歩」


里が言った。


「なに・・」

「いくら入ってたんだよ」

「えっと・・糸田の若旦那に頂いた十銭よ」

「十銭か・・私たちにしちゃあ大金だよね」

「うう・・ううう・・」


そこで志歩は泣き出した。


「志歩・・泣かないで・・」


房子が慰めていた。


「えっと・・水樹の引き出しはっと」


里がいきなり私の引き出しを開けた。


「ちょっと、なにするのよ!」


私は里の手を引っ張った。


「おい、なんだよこれ」


里は私の引き出しを見て驚いていた。

そう・・私は糸田からもらった十銭と、おばあから二回褒美としてもらっていた五銭とあわせて十五銭入っていたのだ。


「水樹、なんでこんなにたくさんあるのさ」


里がそう言うと、志歩も房子も引き出しを見ていた。


「いやだ・・水樹ちゃん。これどういうこと?」


志歩が訊いた。


「そ・・それは・・」


おばあからの褒美は、内緒だったので口にできなかった。


「お前たち、なに騒いてるんだよ」


そこにおばあがやって来た。


「水樹が志歩のお金を盗んだんですよ」


里がそう言った。


「ち・・違います!盗んでなんかいません!」

「ああ~うるさいね。志歩!そうなのかい」


おばあが訊いた。


「私のお金が・・なくなってるんです・・」

「いくらだい」

「十銭です・・」

「水樹、お前盗ったのかい」

「いえ!盗ってません!知りません!」

「他はどうなんだい」


おばあはそう言って、他の引き出しも開けていた。


「ふーん、みんな十銭入ってるね。それで・・水樹だけが十五銭か」

「そ・・それは、大女将さん・・」

「わかってるよ。あれ・・?」


おばあは志歩の引き出しを見て、何かに気がついた風だった。


「おやおや・・」


おばあは引き出しを抜き取って、奥を確かめていた。


「あはは。穴から落ちてるんじゃないか」


おばあは奥まで手を入れて、十銭を取り出した。

志歩の引き出しには、穴が開いてしたらしい。


「ほらよ」


それを志歩に渡していた。


「すみません・・」


志歩は申し訳なさそうに受け取っていた。


「志歩。こっちの空いている引き出しを使いな」


志歩はそう言われて小さく頷いた。


「それから里」


おばあが里を呼んだ。


「はい・・」

「むやみに人を疑うんじゃないよ。水樹に謝りな」

「水樹・・ごめん・・」

「うん・・いいよ・・」


私も里も、なんだか気持ちの整理もつかないまま、「和解」した。

けれどもその後、このことは初枝と美智乃の耳にも入り、里が私を犯人扱いしたことよりも、十五銭も持っていたことに不満を持ち、私と彼女たちの間に大きな溝ができたのだった。

店ですれ違っても、別棟で会っても、誰も私と口を利くことがなかった。


でも私は、十五銭だけが原因じゃないと考えていた。

これまで字が書けることや、計算ができて受付へ昇格したこと、コーヒーを作れること、そしてなにより城田さんと特別な仲だと思われてることが積み重なったところに十五銭だ。

嫉妬が積み重なって、こうなったのだと。


それでも私は悪くない。

何一つ、悪いことなんてしてない。

そう思いつつも、やっぱり心が折れそうになっていた。

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