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カフヒーで始まった恋  作者: たらふく
11/55

十一、呉服屋の若旦那

    



その日の夜、仕事が終わって私たちは初枝の部屋に集まっていた。


「それにしても水樹、帳簿付けとはすごいね」


初枝が言った。


「水樹ちゃん、足し算もできるんだってね」


次に志歩がそう言った。


「カフヒーの作り方も、あの清助さんに教えるんだから、ほんと大したものよ」


小柄でかわいい房子が言った。


「あ~あ。すっかり先を越されちゃったよ」


里は、どこか投げやりだった。

けれども美智乃だけは、黙ってみんなの会話を聞いていた。


「帳簿付けって、どれくらいの給金が貰えるのさ」


里が訊いた。


「そんなの知らないよ。っていうか、私の家に前金払ってるから、しばらくは無給じゃないのかな」

「そんなのすぐに返せるさ。あ~あ。いいなあ」

「里ちゃんは、誰かと馴染みになって返すんでしょ?」


志歩が訊ねた。


「あっ!それだよ、それ」


里が何かを思い出したように言った。


「今日、あの若旦那が来たんだよ」

「ああ~、あのいい男ね」

「もうさ~、カフヒーを飲む所作ったら、そりゃ慣れたもんだったよ」

「え・・里ちゃん、見たの?」

「見たよ。御用はありませんか~って、覗きに行ったんだよ」


里はそう言って笑った。


「里ちゃん、お客に失礼だよ」


志歩がまたそう言った。


「いいじゃないか。本当に用があるかも知れないだろ」

「あの・・お連れの女性がいたよね」


私がそう訊いた。


「そうそう!あの美人ね。あれは絶対に恋仲だよ」

「やっぱりそうだよね・・」


私は元気のない声で言った。


「なにさ、水樹。あっ、もしかしてあんた、惚れたのかい?」

「まっ・・まさか。そんなことあるわけないよ」

「あらら?頬が赤くなってるわよ」


志歩はからかうように言った。


「ほらほら、里も志歩も。水樹が困ってるでしょ」


初枝が二人を制してくれた。


そうなのよ・・

帰り際にお金を払った時、一緒にいた女性は、城田さんの後ろで恥ずかしそうにしていたのよ。

来る時もそうだった。

きっと・・珍しいコーヒーを彼女に味わってほしかったんだわ。


「あの若旦那ね・・」


そこで美智乃が口を開いた。

みんなは一斉に美智乃を見た。


「ここら辺りじゃ有名な、呉服屋の若旦那なのよ」

「ええっ!ちょっと、なんで美智乃が知ってるのさ」


里がすかさず訊いた。


「知ってるってほどでもないの・・」

「でもさ、有名な呉服屋の若なら、なんで旦那さんたちは知らないのさ」

「最近まで留学なさってたそうよ」

「ええ~~!そんなことまで!」


里はひっくり返っていた。


「みっちゃん、それどこで聞いたの?」


志歩が訊いた。


「お使いに出かけた時、たまたま呉服屋の前を通ったら、「坊ちゃんおかえりなさい」って番頭さんが言ってて、「イギリスはどうでしたか」と訊きながら中へ入って行ったのよ」

「ひゃ~エゲレス!」


房子がそう言って驚いた。


「ふさちゃん、その呼称は、もう古いのよ」


美智乃が言った。


城田さん・・留学って・・

そういうキャラ設定なのかしら。


「美智乃・・それって、城田呉服屋?」


初枝が訊いた。


え・・城田・・マジで城田なんだ。


「そうよ」


下の名前はなんていうんだろう・・


「城田の若旦那なら、一見さんじゃなくて、上客の位なのにね」


初枝がそう言った。


そうなんだ・・

そんなにハイレベルなお家なんだ・・


「やっぱりそうだったんだ。どうりで上品だと思ったんだよ。ああ~~、城田の若旦那かあ。いいなあ~」


里は両腕を上げて、背伸びをした。


「その・・呉服屋ってどこにあるの?」


私は美智乃に訊いた。


「店を出てまっすぐ行くと、大通りに出るでしょ」

「うん」

「そこを左へ行くと三軒目にあるわよ。お隣は乾物屋」

「そうなんだ・・」


結構、近くにあるんだな。

まるで私が勤めていたカフェとA社の距離のようだわ。


「ちょっと、水樹」


里が私を呼んだ。


「なに」

「あんた・・行くつもりじゃないだろうね」

「そんなっ・・行かないわよ」

「抜け駆けは許さないよ」

「なに言ってるのよ。そんなつもりないんだから」

「まあまあ、さとちゃんも、水樹ちゃんも」


志歩がそう言って制した。


「里がそう望んだところで、恋仲の人がいるんだったら無理じゃない」


初枝がそう言った。


「それ言う?人の心はどうとでも変わるもんなのさ」

「それに身分が違い過ぎる。相手は呉服屋の若旦那。こっちは給仕だよ」

「玉の輿ってこともあり得るじゃないか」

「そんなの夢物語よ。私たちはせっせと働いて、年季を終えて故郷くにに帰ることよ」

「私は嫌だね。城田の若旦那と馴染みになって、金を稼いで自分で店を持つのさ」

「まったく・・里は」


初枝は呆れていた。


「それこそカフヒーの店でも開くと、大儲け出来るってもんさ」


そこで里は私を見た。


「水樹、あんたを雇ってやるよ」


と私の肩に手を回して言った。


「そんなの・・いいよ」


なに言ってるのよ。

カフヒーの店なんて。

それより城田さんよ。

なんとか話ができないものかなあ。

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