6.傍観者たちの日常
さて、ここで彼らの話をしておこう。アルフレッドが嘆きの王と成り果てる要因の一つでもあるからだ。
パーシヴァル・ガーフィールドはアルフレッドの従者であり、乳兄弟である。透き通るような長い銀色の髪を藍色のリボンで束ね、銀縁の眼鏡の奥に海より深い青色の瞳を持っている。大人びた顔立ちと冷静な態度から冷たい印象を持たられがちだが、常にどちらが兄貴分かでアルフレッドともめている少年らしさもある。
パーヴァリはアルフレッドの魔法研究における助手であり、幼馴染みである。水を司るウンディーネの一族の出身である。性別はないため彼と称すのは微妙かもしれないが、基本的に好んで男装をしているのでよしとしておこう。グレーの長い髪は一本の三つ編みに束ねられ、人懐っこいタレ目の瞳はブルーグリーンの色をしている。
彼らには秘密があった。それはチェンジリングである。チェンジリングとは妖精が人間の子どもを攫い、妖精の子どもを置いていくという伝承である。
つまり、パーシヴァルが本来はウンディーネであり、パーヴァリが人間なのである。生育環境は妖精を人にし、人を妖精へと育て、順応したのだ。
事実、アルフレッドの乳母であるペネロピはウンディーネの血を引いており、実の子であるパーヴァリが人の手では治せない重い病を生まれつき持っていたことから、このチェンジリングは行われたのである。
この2人もお互いの出自を知ったとき、自分が何者なのか曖昧な立ち位置にいたが、2人だったからこそ乗り切れた面が多かった。だからこそ同じように悩み、苦しむアルフレッドを守り、手助けしたいと思ったのだ。
「まぁ俺たちの王様が抜けてるから放っておけないだけだと思うけど。」
「一人だと何もできないからな。」
「しかも婚約したと思ったら進展のしの字も見つからないなんて、理解できないな。」
「王妃と母上としか接してこなかったから扱いがわからないんだろう。初心だな。」
「お前たち、悪口が大声すぎて全部聞こえているぞ。」
婚約者のレオノア・グリンデルバルドのことは隅から隅まで調べつくした。一応兄であるオーガスティンよりも先に反対を押し切って、珍しく強引に話をつけたことに一番驚いたのは彼らだったからだ。
見た目はやや華奢なご令嬢だが、芯は強く博学で努力家。慕う者は多いが、こちらもまたひどく鈍感だと知ったときには笑いをこらえるのが大変だった。
我が王はこれまたとんでもないお嬢様に手を出したものだと。
2人を見ている限りレオノアの方はアルフレッドよりも書庫の閲覧権のほうが魅力的に感じている気がすることが否めなくて、面白くて仕方ない。
最近ではレオノアの兄・クリントも2人に加わって楽しんでいることは言うまでもない。
「我が妹ながらここまでばっればれの好意によく真顔で対応できると感心しているよ。」
「最近のアルは顔が緩み過ぎだと思う。」
「元々ビジネススマイルは得意なほうだけどね。あそこまでふにゃんふにゃんに笑ってるのとお腹抱えて笑っているところは見たことがないよね!」
そして2人は願うのだ。アルフレッドの幸せな人生を。