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鱗少女と僕の世界の歩き方  作者: スコップ坂本
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出会い

今日は一段と冷え込むな。

僕はぽつり独り言を呟く。その声は廃屋と言うべき家によって吸収された。

この家は所々に隙間が空いており、風が矢の様に体に刺さる。しかしこんな家だが雨雪からこの身を守ってくれる。それに街からかなりの距離がある為、近寄る人が居ない。忌み嫌われる者にとってはメリットの方が大きいのだ。とはいえこの家は長くは持たないだろう。その証拠に降り積もった雪で屋根がキシキシと悲鳴をあげた。

そろそろ移住を考えなくては。そう思いつつ手元にある薪を暖炉に火をくべる。火はパチッと弾けながら薪を飲み込んでいった。その様をまじまじと見ていた僕は睡魔襲われ、暖炉の前に毛皮を敷いて薄い布を頭から被り、夢に落ちていった。


辺りが柔らかな光に満ち、家の隙間から幾つもの光が差し込む。その光の一つが朝を告げるように瞼を焼いた。もう朝か。

むくりと上半身を寝床から剥がし、うんっと体を伸ばす。

暖炉にまだ種火が残っているかな。寝ぼけた目で暖炉の方角に視線を向けた。

「うわっ!?!?」

暖炉の前に女の子が寝ていたのだ。予想だにしない事に思わず声が出てしまい、女の子を起こしてしまった。

「んっ…。」

少女は目をこすりながら声が聞こえた方向を体を向ける。その身体つきは華奢のレベルを超えており、骨が浮き彫りなっている。目は虚ろで生気が無い。そしてこの時期に似つかわしくない装いだ。

「……。おはようございます」

上体を起こし、床にぺたんと座りつつも丁寧にぺこりとだけ頭を下げた。寒いのか肩を手で摩っている。

「ん…あぁ…おはよう」

この状況であまりにも普通の挨拶で驚き声を詰まらせる。とりあえず肩を震わせる少女をどうにかしなくては。今さっきまで被っていた生暖かい布を少女の体に巻き付けてあげた。

少女はまたぺこりと頭を下げ、布をぎゅっと身体に引き寄せる。

その姿を横目に暖炉に薪に火をつけた。

これで寒くはあるまい。少女はのそのそ這ってと暖炉に近づき手を温める。少女にも火が灯ったように少し生気を感じられた。

こうしてようやく寒さに害されることも無く話が出来る。

「あの、君は何ていう名前?」

「…アリアです」

「アリアかぁ、うん、いい名前だね。僕はルルク。」

ルルクさん…とアリアは確認するように呟く。

「ところでアリアは何故ここに来たの?」

アリアは沈黙し俯いた。言いたくない、思い出したくない事を聞いてしまったのか。

「…私は異教者と言われ家族から国から追い出されました。行く宛の無い私は思い出しました、ここに私と同じく異教者が住んでる事を…。そして何日かかけてここにたどり着きました」

概ね話は分かった。僕が同じ異教者と知っていて庇護を求めに来たと言う訳か。

しかし僕は自分の事で手一杯であり、受け入れ難いが…。しかしアリアを救ってやりたいという気持ちがある。それは僕も異教者として街を追い出された過去がある。あの時は苦しく、何より孤独が

よし、決心はついた。アリアを受け入れよう。アリアの顔をしっかりと見て言った。

「アリアさえ良ければ、同じ異教者として一緒に暮らさないか?」

アリアはその言葉を聞き、表情がぱあっと晴れやかになり感極まってぎゅっと抱きついて来た。

「これからよろしくお願いしまっ…」

と言いかけた時にぐぅっとアリアのお腹が鳴り出す。必死になってお腹を抑え隠そうとする姿は何とも可愛く思わず声に出して笑ってしまった。

「ちょっと待ってて」と言い残し、自分の鞄をまさぐる。鞄の中には木の実が4個入っておりそれを渡す。

アリアは遠慮がちに手の中の木の実を2つだけ取り、1個ずつ口に運ぶ。

「アリア、お腹すいてるなら全部食べてもいいんだよ?」

「いえ…私はこれだけで充分です」

「遠慮しなくてもいいんだよ?」

「大丈夫です。半分こです」

これから一緒に過ごす仲だ、遠慮なんて要らないのにと思いながら木の実をひょいっと口の中に放り込む。しかしこれだけでは腹の足しにもならないな、狩りにでも行くか。

「アリア、ちょっと出掛けてくるね」

壁に立てかけている弓と矢筒を背負う。

ドスッ。

「おっと…」

後ろからアリアが抱きついてきた。

「…置いていかないで下さい…」

「ちょっと狩りに出かけるだけだよ」

と優しく微笑み、頭を撫でた。

アリアは嬉しみと悲しみの両極端な感情を含んだ顔を見せる。そんな表情をされると弱るなあ。

しかしアリアに狩りが出来るほどの体力があるとは思えない。

「待っててね」と言い残し、家を後にした。


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