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32 想像以上にハードだったんだが

 窓から差し込む夏の強い日差しに睡眠を妨害され、俺は半ば強制的に目を開かされる。


 目の前に映るのは楽しげに話す生徒達と乱雑な並びをした机。

 この光景を見る限り、まだ昼休みは終わっていないようだが時計はあと五分程で昼休みが終わってしまうことを告げていた。


 次の授業はホームルーム、始めに何か話があるらしいが教室を移動することはない。

 そのまま自分の席で待っていると授業開始のチャイムがなった。

 チャイムと同時に入ってくる担任の教師、その後クラスメイトはそれぞれの席に着き、授業開始の挨拶を行う。


 ここまではいつも通り、しかし今日はどこか担任の様子がおかしかった。

 まるでこれから楽しいことを起こしてやると言わんばかりのニヤついた表情に内心恐怖していると担任はその表情を変えないまま口を開く。


「お前らに大事なことを伝える」


 それから一拍の間をおいて担任の口から告げられた話。

 それはクラスメイトの大半を地の底に突き落とすものだった。


「今日から二週間後に期末テストを行う。それに際して今回のテスト範囲の一覧表を配るから取ったら後ろに回すように」


 期末テスト実施の知らせ。

 もうそろそろだと思ってはいたが実際そのときになるとなんというか絶望感がすごい。

 経験したことはないが四方八方を壁に囲まれた状態で水を流し込まれたときの絶望感と同じであろう。

 まぁ流石に言い過ぎであるがそれほどまでにこの事実は俺にとって受け入れがたいものだった。


「まさかこのクラスにはいないだろうがテストで赤点を取ったやつは夏休みに補習が待ってるからな。じゃあ残り時間はテストに向けて自習ってことで、以上!」


 担任が教室を出ていくと教室内は一気に騒がしくなる。

 周りからは『マジかよ、俺やべーわ』とテストに不安を抱く者や、『補習で夏休みってどのくらい潰れるんだろ……』と既に諦めモードになっている者までいた。


 テストは今日から二週間後、普段から勉強していない者にとってこの期間はあまりにも短い。

 かくいう俺もこの二週間を短いと感じてしまう人種だった。


◆◆◆


 放課後、俺は足早に部室へと向かっていた。

 目的は期末テストの対策をするため。

 というのも我が部活には勉強に関して大先生と呼べるお方が在籍しているのだ。


 部室の前にたどり着き、若干立て付けが悪い扉をガタガタと音を立てながら勢いよく開ける。


「椎名先生、俺に勉強を教えてください!」

 

 扉を開けると同時にそう言葉を発すると既に部室にいた二人がこちらへと顔を向けた。


「あなたもなの? まぁいいわ、そこに座って」


 椎名えりは呆れたような様子で俺が座る席を示す。


「あ、早坂君。お先です」


 一方の相坂優は仲間が出来たと喜ぶような表情で俺を迎え入れた。彼女も俺と同類のようである。


「相坂もヤバイのか?」

「はい、かなりヤバイです。というか早坂君って普段から授業を聞いてますよね? そんなに心配しなくても良いと思うんですけど……」


 確かに俺は普段から授業を聞いている。

 だがそれとこれとは話が別だ。

 普段授業を聞いているからといって誰しも勉強が出来るわけではない。


「俺だって授業聞いてるだけで全て理解出来たらどんなに良かったか。それに授業聞いてるって言っても普段は家で勉強してないからな」

「苦労してますね」

「相坂こそ」


 なんとなしにお互いで励まし合っていると突然机を強く叩く音が聞こえる。

 恐る恐る音がした方向見るとそこには無表情ながらもこちらにじっと視線を向ける椎名えりがいた。


「無駄話しない。黙ってやって」


 表情はいつもと全く変わらないのだが何故だろう、今の彼女には俺達に逆らえないと思わせる何かがあった。


「えーとここはあの公式を使って……」


 だからだろうか、ふと隣を見ると相坂優はいつの間にかペンを手に取って数式を解いていた。

 まるで自分は初めからしっかりやっていましたよ、とでも言いたげな行動である。

 しかし冷や汗の流れ具合と顔の青さからしっかり問題が解けているとは到底思えなかった。

 どうやら彼女は椎名えりの迫力に圧倒されてしまったらしい。


「二人とも話している時間があるなら手と頭を動かすのよ」


 もちろんそれは俺も同じであり、彼女が一喝してからは勉強に関すること以外の話を一切しなかった。

 確かにこの制限のおかげで勉強したことはだいぶ頭に入ったが無駄話が出来ないというのは想像以上にハードである。


「お疲れ様、今日はここまでよ。明日も同じ時間で良いかしら?」


 ようやく終わったと安堵しても、その直後に椎名えりから告げられる次回勉強会の日程。

 正直逃げ出したい気持ちでいっぱいだが自分から頼み込んだこと、そんな勝手なことは許されない。

 それに彼女は善意で俺達に付き合ってくれているのだ。わざわざ時間を割いてくれている相手に辛いからと逃げ出したら罰が当たるというものだ。


 どうせ勉強をするのなら今回の期末テストは良い点を取ろう。

 俺はそう決意して机の上に出した勉強道具を自らのバッグの中にしまった。


◆◆◆


 それから毎日椎名えりの勉強会は続き、今日は期末テスト前日の放課後。

 俺はいつものように部室で勉強に勤しんでいた。

 隣にはこれまたいつものように相坂優と椎名えりもいる。


「今日はここまでよ。二人とも今日までよく頑張ったわね」


 椎名えりの言葉でふーっと長いため息を吐く。

 ようやく終わった、その事実が俺に喜びと安心を与えていた。


「明日から本番だから今日くらいはゆっくり休んだ方が良いわね」


 椎名えりの言葉の通り今日はゆっくり休むとしよう。

 第一回勉強会から今日まで毎日、俺は家でも勉強をしていたのだ。

 今日くらい休んでも問題ない。


「早坂君、何か奢って下さい!」

「私は飲み物で良いわよ」


 知らないうちに俺が二人に何か奢る流れになってしまっているがまぁいい。今の俺は勉強会終わりで気分が良い。それに椎名えりには今日までお世話になった。


「二人ともお茶でいいよな」


 それから俺は部室を出て購買がある一階へと向かった。

 一応今日はまだテスト前日なのだが気分は既にテスト終了後のそれだった。


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