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17 話を聞いたんだが

 一日目メインの日程──クラス対抗ワークショップが終わり、なんか色々あって今は夕食後の自由時間。

 多くの者がこの間に他の部屋へ遊びに行ったり、お風呂に入ったりしている、そんな時間だ。

 そんな時間、出来れば部屋でゆっくりしたいのだが俺は今現在自動販売機が置いてある施設の休憩スペースを目指して歩いていた。


 というのも俺の部屋は早見優人と同じ。

 つまりは多くの者が早見優人目当てに、まるでボス犬に挨拶をしにくるしたっぱ犬のように部屋へとやってくるのだ。

 当然だがそんなところでは休みたくても休めない。

 そこで考えたのが施設の休憩スペースに行くというもの。

 それも行くのは人の出入りが多いエントランスの休憩スペースではなく比較的人の少ない裏手にあるもう一つの休憩スペースだ。


 休憩スペースのすぐ近くまで行くと、そこには二台の自動販売機と自動販売機が邪魔で一部しか見えないがソファーも二脚設置されていた。

 これなら十分ゆっくり過ごすことが出来る。


 ようやくたどり着いたオアシスに心から感謝し、早足でその場所に向かう。

 誰もいないソファーで怠惰の限りを尽くしてやろう、そんな小さな野望と共に休憩スペースへ駆け込むとそこには既に先客がいた。


「早坂君……」


 先客──相坂優は俺の姿を見つけると声をかけてくる。

 彼女が手に持つペットボトルの中身をみるに自動販売機が壁になって見えていなかっただけで随分前からこの場所にいたようだった。


「ああ、相坂」


 それはともかくまさか誰かがいるとは思わなかったので上手く言葉が出てこない。

 

「もう、ずいぶんテンションが低いんですね。とりあえず飲み物でも買って座ってください」


 いつもと様子が違う──とは言ってもまだ会って数回もないが──相坂優に少し違和感を覚えながらも彼女の言う通り自動販売機の前まで行き、お金を入れると同時にボタンを押す。

 それからゴトッと出てきた飲み物を自動販売機から取り出し彼女の座るソファーとは別のソファーへと腰を下ろした。


「なんでそんなところに座るんですか? 話しづらいじゃないですか」

「……すまない」

「まぁいいですけど」


 明らかにいつもより機嫌が悪そうに見える。

 もしかして怒っているのだろうか?

 とりあえずここは何か会話をして気を紛らわさなければ俺の精神が持たない。


「あの「そういえば……」」


 俺が今日のワークショップの話をしようとしたところでタイミング良く相坂優も話を切り出す。

 正直ワークショップの話などどうでも良かった俺はそのまま話の主導権を彼女に譲った。


「そっちは上手くいってるんですか?」

「そっちって?」

「ひゆりの依頼ですよ」


 そういえば事情を話したとか言ってたな。

 依頼については正直まだよく分からないが悪くはないだろう。


「まぁボチボチだ」


 俺の返事を聞いた相坂優はそうですかと表情を暗くする。

 それから彼女は少し考え込んだ後再び口を開いた。


「早坂君は本当にそれでいい思っているんですか?」


 それでいいとは多分安藤ひゆりの告白のこと。

 彼女と俺の共通の話題と言ったらこれくらいしかない。


「安藤が自分で選んだことだからな。口出しは出来ない」

「それは依頼だからですか?」


 依頼だから、そうかもしれないが少し違う気もする。

 曖昧だが今はそうとしか表現出来ない。


「……とにかく出来るだけ口出しはしたくないんだ」

「そうですか。分かりました」


 相坂優はさらに一段階暗い表情を顔に浮かべる。

 どうやら俺の答えがお気に召さなかったらしい。


「ではちょっとした話でもしましょうか」

「話? これまた突然だな」

「まぁ聞いてください」


 それから彼女の話は始まった。

 話の内容はとある内気な少女の話。

 ある日、内気な少女が恋に落ちたというところから始まる──。


◆◆◆


 ある日、少女はとある男の子に一目惚れしてしまった。

 しかし、少女にとってそれは初めてのこと、生まれてから一度も感じたことがない感情だった。

 少女は溢れてくる未知の感情が怖くなって一人の友人に相談する。

 友人は言った、それは恋だと。

 少女は恋について知っていた。

 恋とはとても素晴らしいことだと、自分の世界を変えてくれるものだと自分の親から聞いていた。

 だが少女は恋をしたくても自分に自信がなかった。

 今までそんな経験が一度もないのだから当たり前だ。

 そこで見かねた友人が少女に言った。

 それなら私がその恋を手伝ってあげるよ、と。

 少女は飛んで喜んだ。

 友人が手伝ってくれるなら百人力だ、と。

 それからは友人の助けもあってか少女と男の子はあっという間に仲良くなった。

 普通に会話が出来ることはもちろん、ごくたまに少女と男の子と友人の三人で出かけることも出来るようになった。

 そんなある日、友人はそろそろ告白する頃合いだと、きっと成功すると少女に告げた。

 少女はもちろん友人のこと疑わなかった。

 そして少女は友人の言葉に流されるまま、男の子に告白した。

 好きです。付き合ってください、と。

 しかし、結果は残念なものだった。

 少女はもちろん落ち込んだ。

 共に失恋というものを知った。


◆◆◆


 どこかほろ苦い話だった。

 でも誰でも聞いたことのあるような現実味のある話。


「話はまだ終わりじゃありません。男の子はそのあと少女に笑いながら言ったんです。正直迷惑だ、お前とはあり得ないって。それを聞いた少女は深く傷ついて、その男の子、告白の手助けをした友人とも疎遠になりました……とここで話は終わりです」


 それに俺の知っている誰かと物語の少女の影が重なった。


「その話ってもしかして……」

「これはただの作り話です」

「そうだよな」


 そうとしか言えなかった。

 彼女の声、表情からこれ以上は何も言わせないという気迫を感じた。

 きっとこの先に踏み込んではいけないのだろう。

 自然とそう察することが出来た。


「話を聞いてくれてありがとうございます。私はそろそろ行きますね」


 相坂優はおもむろに立ち上がると残り少ないペットボトルの中身を一気に飲み干し、休憩スペースを後にする。


 彼女が去ったことで俺の他に誰もいなくなった空間。

 そこで俺はペットボトルのお茶を一気に(あお)り、ソファーにもたれ掛かる。


「やっぱりそういうことだよな……」


 頭の中では彼女が話の終盤に見せた辛そうな表情だけが何度も再生されていた。

 多分彼女の話していた話は実話。

 事実を元にしたノンフィクションだ。

 だからこそ俺は参ってしまった。


 そんなことを言われたら素直に告白を応援することなんて出来ない。

 これはあちら側の作戦だと分かっているのだが俺にはどうしても割り切ることが出来なかった。


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