移動
三浦と名乗った青年に言われるまま、弦は片腕のない女性と一緒に、彼に着いていった。
行き先は古い一軒家だった。
枚方弦は、黒いポロシャツを着て黒のジーンズの三浦を、目立ちたくないネクラタイプかと思った。
「白のバイク格好いいね」
森に囲まれた公園を横切り、アスファルトの県道に出た。
「貰いもんだ」
三浦は歩幅を普段より狭め、MTBを押しながらゆっくり歩いた。三人が縦一列に進む歩道の横は、二車線の道路で、乗用車やトラックが渋滞気味に走っていた。
勾配のある橋を渡っていると、薄川からぬるい風が吹きあがった。
「きゃっ!」
風に煽られた弦のスカート。
悲鳴をあげたのは弦の鞄に掴まって歩いていた女性の方だった。
「あれ?スカート穿いてたんだ」
「オマエさぁ、女の自覚あるのか?」
顔だけ振り返った三浦が、膝上15センチのスカートの裾に一瞥くれた。
「自覚…?」
弦は足を止めた。腰を左右にくねらせ、スカートを揺らしてみる。
「だいたい、大学生が何でそこの私立高の制服着てるんだよ?」
「あ、どっかで見たことあると思ったら、あそこの高校の制服かぁ」
弦は納得したように、三浦に追いついた。
「公立高は私服だから、私も私立の制服に憧れたわ」
笑顔でいう彼女に、弦は曖昧にうなずいた。
「確か、明日はこの辺のお祭りで、花火が上がるわよ。浴衣着ればいいじゃない」
「ん…、浴衣や着物は着たことがないです」
弦は苦笑いを浮かべ、浴衣の記憶がないことを反芻していた。
「でも、せっかくだし、簡単だから着てみたら?」
二人の浴衣談義をよそに、三浦は神社近くの小路を左折した。そのまま奥へ進み、少しするとマウンテンバイクを横づけした。
趣のある一軒家だ。
「会わせたい奴がいる」
三浦は鍵のかかっていない扉を開けた。
「奥にいるはずだ。遠慮なく涼んでろ」
「はぁ…」
有無を言わせない空気に、二人は言われたとおり、玄関で靴を脱ぎ揃えた。
一番手前の扉がこれみよがしに開け放たれ、ソファーとテーブルが並んでいた。テレビやエアコンなどの類いは見当たらない。
弦は何とはなしに足を踏み入れ、ためらいがちな彼女を呼び入れた。
「この部屋、寒い…」
彼女は青ざめていた。
「体調悪くなっちゃいましたか?」
弦は慌てて彼女の額に手をあてた。と、その冷ややかさに飛び退いてしまった。
冷たい
体温が、ない
まさか、
「あ、あの、あの…」
公園で感じた違和感。
だからと言って、さっきまで笑いあった彼女に、手のひらを返すような真似はできなかった。
「オマエ、ひとりで何してんだ?」
「え?」
弦は弾かれたように顔をあげた。
いつから戸口に立っていたのか、三浦は空のペットボトルを握っていた。
こんなに短く区切っていいのか?
ってくらいのテンポです。
苦しくて申し訳ありません