夜の梟
ユリアちゃんに視線が戻りまーす
「さて。全員自己紹介が終わったところで、この世界について説明をしようか」
ナーラさんが話しだした。
が、私は今それどころでは無いのだ。
自己紹介をしていた時から感じていた頭痛に加え、吐き気と目眩までしてきた。
丸太に座っているのに地面がぐわんぐわんと揺れて倒れそうだ。
「ユリア? どうした?」
倒れないように必死に堪えていると隣に座っているユーインさんが話しかけてきた。
それが聞こえたのか、斜め前に座っている黒髪のチャラ男がこちらを振り向いた。
「え!? ユリアちゃん、どうしたの!? 顔色めっちゃ悪いよ!」
うるさい。大声で話しかけるんじゃ無い。頭に響く。
視界が段々暗くなっていく。
こんなところで倒れるわけにはいかない。
そう思って「俺」は立ち上がって走り出した。
目眩のせいで上手く走れない。
背後で自分を呼び止める声が聞こえたが振り向いている暇はない。
充分に離れたところで木の幹にもたれかかった。
本当なら水源を確保したり風向きを確認したいところだが既に体力の限界だ。
下手に動くと危険な場所で倒れるかもしれない。
周りの木の葉や枝を集めて体に被せて一先ず寝ることにしよう。
頬を突かれたような気がして目が覚めた。
体が熱く、だるい。
わぁ、目の前に茶色いもふもふがいる。
もふもふ……?
「うへへ、もふもふ」
「ま、まて、よだれがっ」
何か聞こえたが私は考える前に目の前のもふもふに抱きついた。
もふもふ……もっふもっふ……もふもっふん……もふもふん……もふんもふん……もっふもふ……もっふんもっふん……もっふもふん……もっふんもふん……うへへ……ぐへへ……
ふと私は考えた。
このもふもふは何だろう。
そろりと上を見ると星を詰め込んだ夜の瞳と目が合った。
「……」
「……」
「……あの……ごめんなさい……」
「うむ」
「……」
「……」
「……怒ってます?」
「よだれを、拭いてくれ」
あっ、しまった。
寝起きで抱きついたからよだれがべとべと付いている。
拭けと言われても拭くものがない。
というわけで
「川にいきましょう?」
「うむ」
「水加減いかがですか〜?」
「うむ。冷たい」
だろうな!!
夜だもん、冷たいに決まってらぁ。
よし、魔法を使おう。魔法でお水を温めるのだ!!
「やめておけ。体調が悪化するぞ」
「え、なんでですか?」
「今お主の体調が悪いのは魔法が原因だからだ」
「風邪引いたのかと」
「……水、冷たくないか?」
「冷たくないわけないですね」
まぁ、そんなことより
「魔法が原因で体調不良ってどういうことですか?」
「お主、今朝生まれたばかりであろう?」
「うん」
「まだ体がここの世界に慣れていないのに早速大きい魔法を使ったからな、体が耐えきれなかったんだ」
「そうだったんですね」
「うむ。だから体調が良くなるまで魔法は使わない方がいいだろう」
うーん。でもなぁ、梟さんが冷たい水浴びることになったの、私のせいだしなぁ。
「大丈夫だ。我は夜しか活動できぬ故、冷たい水浴びには慣れておる」
「風邪引かないんですか?」
「病に罹ったことはない」
ほへー。
あ、もしかして
「蛇さんの不死の加護ですか?」
「違うぞ」
「え、じゃあどうしてですか?」
「我はこの森のことを知り尽くしておる。故に病に罹らぬように対策することができるのだ」
「梟さんってもしかしてすごい人?」
「森の医者と呼ばれておる」
あ、やっぱりすごい人。
「残念だがお主にかかった呪いは解けぬのじゃがな」
ぴたりと、思わず梟さんの体を洗う手を止めた。
顔を上げると夜の瞳に吸い込まれそうになる。
「我の名はネゴフット。お主の探しておるゴフではないのだ」
「……医者というより賢者の方が正しい気がする」
「賢者はゴフの称号だ」
じっとネゴフットさんと見つめ合う。
「しばらく我の元にいると良い」
「得することは何?」
「うむ。……存分に我をもふれるぞ」
「あはは、それはいいですね! じゃあしばらく世話になります」
「うむ。もうすぐ夜明けじゃ。我は眠る。お主はどうする?」
「うーん……ネゴフットさんをもふりながら休もうかな」
せっかく集合したのにまた別れちゃいましたね。