第6話
王都編のスタートです。
とても退屈な馬車の旅を終え、ついた王都はまさに都と呼ぶに相応しかった。
「大きいですね、父さん」
「あぁ王都は王国のシンボルだ。他国の王国のと比べても、大きいんだぞ。それと、人口も街の大きさと比例してとても多い」
別にボクは人が苦手なわけではないが、それでも見ていて億劫になる様な人混みだった。それはもう、人がゴミの……あっと、父さんが歩き出した。逸れてしまわない様に追いかけなければ。
「今日は別邸に泊まるぞ」
貴族たるもの王都に別邸を持っている。伯爵家ともなればそれなりに豪華だ。そして、ボクが来るのは初めてだ。
「「「おかえりなさいませ旦那様、お嬢様」」」
手厚い歓迎を受けた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
明日は王立総合学園の入学試験がある。とは言っても合格は確実だ。何せ、『自分の力の全てを出し切れ!』とパンフレットに書かれており、入学試験の詳細なルールが書かれた冊子にはどこにもスキルの『使用を禁ずる』みたいなことは書かれていない。詰まる所、ボクは《攻略本》でカンニングし放題。余裕すぎて眠くなっちゃうかも。
閑話休題
取り敢えず今日は明日に備え寝ることにした。
翌日
「着替えたか?」
「はい、バッチリです」
「よし、じゃあ行ってこい!」
「いってきます!」
別邸から約10分、地図を頼りに人混みを歩いていると、ボクと同じ様な年齢の子たちが集まってきている建物を見つけた。
「あれだね」
《あれです》
《攻略本》が答えてくれた。よろしくね、《攻略本》。いや、この手のスキルのテンプレに習って、よろしく、先生!
まぁ、まだ試験は始まらないけどね。今は受験登録用の列に並んでいる。
「おい、そこの女!そこを俺に譲れ!」
なんだ横入りか?そんなのに絡まれるなんて可哀想だな。周りの男衆は助けてあげるのかな?
「な、何を無視している!俺が誰だかわかっているのか!」
ありゃりゃ、無視しちゃったか。それは相手を怒らせるだけなのに。
「お前だよッ!!」
そう男の子の声が聞こえたと同時に誰かがボクの肩を無理やり引っ張ってボクを振り向かせた。そこには脂ぎっていて、まるでオークの様な男の子が立っていた。
「なんで無視する!俺がマルヤキー侯爵家の三男と知っていて無視してたのか!?」
どうやら先程からの声はこの丸焼きオークくんがボクに向かって発していた様だ。
「なんだ、ボクに向かって言っていたんですね。それなら早く言ってくれればいいのに」
「さっきからずっと言っていたぞ!!」
ちょっとした冗談のつもりなのに。
「それで、どういった御用向きですか?」
「ふん、お前のいる所を俺に譲れと言っている。わかったら早く譲れ、そうしたらさっきまで俺を無視していた事を許してやる!」
どこからどこまでも高圧的で威圧的で上から目線の丸焼きオークくんである。
「なぜあなたにボクが順番を譲らなければいけないのですか?」
「お前が女で受付まで近い所にいるからだ!」
「訳がわかりません。ボクが女で受付まで近い所だからってなぜかボクがあなたにボクが待った順番を渡さないといけないんですか?」
「俺が待つことが大っ嫌いだからだ!」
何をアホなことを。大概の人は待つのが苦手なのが当たり前なのに。
「そうですか。では、お断りします」
「……今、なんと言った?」
「あなたに順番を譲ることをお断りすると言ったのです」
「ふ、ふざけるな!平民ごときが貴族たる俺に逆らうのか!?」
あぁ、なるほどぼくの服装を見てそう思ったのかも。『実技試験や体力試験があるから、動きやすい格好を持参して来てください』って書かれてたからこの世界の動きやすい格好をして来たのだ
それを平民と思って標的をボクにした訳だな。まぁ、どっちにしろ面白くないのは事実だがこの場は一先ずおかえり願おう。
「あぁ、ボクを平民だと思ってたんですね。ボクはこれでも伯爵家の次女ですよ。はい、これで平民と言う理由で貴族のあなたに順番を譲る必要はなくなりましたね」
「なんだと?そんなみすぼらしい格好で伯爵家次女?」
「あぁ、服装ですか。朝、寝間着から貴族らしい服に着替えて、その後学園で動きやすい服に着替えるなんて面倒ですから家から着て来ました」
「何をバカなことを言っている!」
「はぁ……いい加減お引き取り願えますかね?ボクの順番が来たので失礼します」
少々強引にだが話を切った。次突っかかって来たら体術を使って少し、ほんの少し痛い目にあってもらおう。
「名前だけで結構ですのでステータスカードを提示してください」
「はい」
素直にステータスカードを提示した。 どうや受験登録に使う様だ。
「……はい、サシュラーナ・フォン・キキカターサさん、受験番号357番で登録完了です。約1時間後の8の鐘がなる頃にまたここへいらしてください。」
8の鐘とは14:00、午後2時頃のことで、日付変更直後00:00を1の鐘とし、2時間おきに鐘がなる。尚、11の鐘から、3の鐘までは迷惑なのでだいぶ音が抑えられる。
「座学はどのクラス先行でも共通で歴史と算術です。実技は、サシュラーナさんは魔道士クラス志望ですので、使える魔法の精度、正確には平均と比較しての評価となります。説明は以上になります。
登録用テントから出ると、さっきの丸焼きオークくんがいた。
「お前、伯爵家の次女だって言ってたな!でも俺の方が位が上だ!貴族だろうと階級が上なんだよ!その俺に逆らっていいのか!?」
「まだ言ってるんですか?くどいです。それに次女も三男も当主になることはまずないですし、立場的には対等だと思いますが。それに私もあなたも、自分が偉いんじゃなくてご先祖様が偉いんですよ?その辺理解してますか?」
「まだ言うか!もういい!父上に言いつける!」
そう言って行ってしまった。あの丸焼きオークくんは頭が可哀想なのかな?ボクの家名も聞いてないのに。
まぁいい、それはこっちにデメリットはない。それよりも試験開始までの1時間、徒歩20分圏内で食べ歩きしていよう。
40分後
「そろそろ学園に向かわないと試験の開始時刻に間に合わないですね。ではやりますか!」
この40分ほどで結構食べた。焼き鳥(店にあった全15種類を2本ずつ)とホットドック、ピザ(マルゲリータとテリヤキチキンと野菜のみをそれぞれ一枚ずつ)に大福(こしあん、つぶあん×普通の大福、豆大福、いちご大福)、サンドイッチ(店にあった全10種類)、など他にも食べたが回った店は総数26軒。いやぁ、食べた食べた。お店の人がギョッとした顔をしてたけど少々食べ過ぎたかもしれない。
閑話休題
そんなこんな考えているあいだに試験会場についた。そこには既に多くの受験生たちがいて、皆復習に励んでいた。
357番と書かれた席を見つけて座って待っていると、試験官らしき人物が入って来た。
「これより座学試験を開始する。各受験生は筆記用具以外のものをしまってくれ」
日本とさほど変わらないな。これも異住者の影響かな?
《その通りです。現在ではガリ勉という名で歴史に名を残しています》
あぁ、確か歴史書にガリ勉って名前が書いてあった。変な名前だなと思ったのを覚えてる。
「教科は歴史、制限時間は1時間。それでは、開始!」
とうとう始まった。まずは出来るところまで《攻略本》に頼らずやってみよう。
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時間を20分残して全て解き終わった。問題のほとんどが初歩の初歩、初代国王様の名前や歴史に名を残した将軍の名前、うんたら革命では何が起こりましたか?とか。簡単過ぎて《攻略本》を使わなかった。
《…………》
出番が来なかったのでちょっと寂しそうだ。それはまぁ、いいとして、暇だ。なので残り20分は《攻略本》としりとりでもして時間を潰していよう。では、りんご《ゴキブリ》リス《スイートポテト》トマト《賭博》クマノミ………
「終了だ!」
気がつくと20分たっていた。とても白熱していたのでちょっと残念。
「各自、数学の試験用紙を受け取っておいてくれ。それでは15分休憩」
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結果的に言えば、数学もさほど難しくなかった。精々小学生の低学年レベル。必要最低限を試しているように感じた。座学はこれで終わりとして、次は実技だ。
「次は実技だ!各自、志望クラス毎の競技場まで向かうように。解散!」
と、言うことなので早速競技場まで向かう。
本話も読んで頂き誠に感謝です。
王都編では実技の訓練と称して魔物狩りや闘技大会などもやります。王都編では主人公の将来の旦那様とも……いえ、なんでも無いです。本当ですよ?