第5話
※2018/2/28 原案『デカうさ』を実行案『ラット・ラビット』に修正しました。
神官さんと父さんの挨拶が終わったあと、真っ白な部屋に連れていかれた。広さはないが、神と名乗る火の玉と会ったのもこんな感じの真っ白な空間だった。
「ここは鑑定の儀専用の部屋です」
どうやらここで鑑定の儀を受ける様だ。
「その像の前で跪いて目を閉じてください。……では、始めます。《汝の才を我が前に示したまえ、汝の才を記したまえ、鑑定の儀》」
鑑定の儀は神官専用の鑑定魔法で、ステータスをカードに記すというもの。記した後は自動更新される。
「おぉ、これは……」
どうやら総合魔法適正(極)が珍しい様だ。それに無詠唱も見える様にしてるので他の人から見ればかなりすごい。端的にいえば、この二つだけで他の異住者や勇者達と同等なのである。
「どうぞ、これが貴女のステータスカードです。紛失して再発行する際は金貨10枚が必要になりますのでご注意下さ……」
……またか。時々ボク以外の世界が止まる時がある。それも少しずつ止まっている時間が伸びている。最初は3分ほどだったが、今では3時間ほど止まっている。これは何なのだろう、と思って《攻略本》に聞いてみたことがある。帰って来た答えはーー
《スキル《停止》に因るものです。恐らく、スキルの使用訓練をしているのでしょう》
ーーだった。つまり、使えば使うほど時間は長くなる。そしてなぜボクには効かないかというと《スキル完全耐性》で《停止》の効果を打ち消しているからだそう。取り敢えず暇なので《スキル完全耐性》をオフにして停止を有効にさせる。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「無事終わった様だな」
「はい!父さん!」
その後ボク達は家に帰った。ちなみにステータスカードは親に見せる習わしになっている。が、ボクが常日頃魔法を撃ちまくっているので納得した様な表情だった。
翌日
ボクは昨日のうちに狩りの許可を貰っていた。両親はとても嫌そうにしていたが、渋々兄さんについていくだけならと許可が出た。
と、いうわけで早速兄さんに連れてきて貰った。
「いいか?今日は魔獣でも魔物でもなくただの狼だ。だが、気は抜くなよ?肉食は肉食だからな」
「はい!」
最初はスライムやらゴブリンやらと戦うのかと思っていたが、狼だった。
《この世界でもスライムやゴブリンは弱小種族ですか、この辺りは発生条件が整っていない為、存在しません。故に近隣の人たちはそれと似通った強さを持つ狼を初心者用にしているのです。またスライムやゴブリンといえど全てが弱いわけではありません。不死かと思えるほどに再生速度の速いアンチデット・スライムや人間並みの知能を持ち他のゴブリンを統率したり、魔法を使うゴブリン・キングなど、他にも変異種として強い個体は存在します。非常に稀ですが》
ふぅん、ゴブリン・キングは弱そうなのにアンチデット・スライムは強そう。不思議。同じ弱小種族の変異種なのに。昨今のスライムの強者化の波に思考が流されてるのかもしれない。
「いたぞ」
「ボクが魔法でやっていい?」
「あぁ、良いぞ。仕留め損ねたときは俺がやるから安心して撃つといい」
ボクは許可を貰ったので風の矢を放った。見事に眉間を打ち抜き、貫通した。
「魔法が上手だと思っていたが、狼とはいえ初の実戦で成功させるとはな。よくやった」
兄さんはそう言ってボクの頭を撫でた。ふむ、異性にあたまを撫でられるとはこういう気持ちなるんだね。なんかこう、心がフワッとしてる感じ。初めての感覚でうまく表現できない。だが、悪くはない。決して悪くはない。
「とりあえずバッグに入れておこう」
兄さんが言ってるのは端的に説明すると、見た目より中に入る容量が大きいバッグである。魔法道具である。
「よし、次行くか!」
「はい!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
数時間後
「結局サーシャだけで10匹以上狩ったじゃないか。魔法とはいえ、俺より出来る妹を2人も持つというのは兄としては複雑な気分だ」
兄さんがちょっと落ち込んでる様に見える。励まさねば。
「しょうがないですよ兄さん。うちは代々女性の方が魔法適性が高いんですから」
「そうか、そうだな」
どうやらちょっと気分が晴れたらしい。きっとボクが弟だったら余計機嫌を損ねていただろう。妹って特だ。
「帰るか!」
「はい!」
その日の夕食中
「サーシャ、話があるんだが」
「何?父さん」
父さんが珍しく改まって話しかけてきた。
「半年後、サーシャには王都の総合魔法学院に行って貰いたいと思っている」
「そうなの!?でも、なんで今の時期に話したの?」
学院!学院だよ!学院編だよ!!いやー楽しみだな。正直前世では勉強ばかりで友達ができなかったからやり直せるのは二度とない機会である。
「あぁそれは受験テストがあってな、そろそろ始めた方がいいかと思ってな」
あぁ、なるほど受験勉強か。だが、抜かりはない。
「どんなテストがあるんですか?」
「魔法の実技と座学は算術と歴史だな」
「それなら問題ありません。座学の方は父さんの書斎にあった本をほぼ全て読んだので算術も歴史も抜かりないですし、実技は言うまでもないです」
「ほぼ全て……あそこには500冊ほどあったと思うが……」
「はい、今のところ496冊読み終えて497冊目の半分まで読みました」
「……サーシャ、読書が好きだったのか?」
「いいえ?特に理由はありません。強いて言えば興味と将来のため、でしょうか」
「興味や将来って……お前7歳だよな?」
やばっ、さすがに7歳にしてはしっかりし過ぎてたか……?
「……まぁサーシャは元々天才の帰来があったからな。何も言うまいよ」
よ、よかったぁ〜父さんのがおおらかな人で!本当によかったぁ!
「それに今から復習するなら主席だって夢じゃないな」
実際夢ではないどころか余裕である。算術は元の世界ほど進んではいないし、歴史など《攻略本》を使えばそれこそ満点である。まぁ、事実と歴史の定説は少々齟齬が出るが、空気の読める《攻略本》なら定説の答えを持ってきてくれるだろう。文字は《完全言語理解》でなんとでもなるし。まぁそれ無しでも上位20人位には入る自信はあるが。
「それでどうする?」
父さんが聞いてきたが、愚問である。
「受けたいと思います」
「そうか、これからも頑張れよ」
そう言って父さんは執務室の方へ行ってしまった。背中を見ただけでわかるくらいソワソワしていた。今頃きっとこんなことを考えているだろう。
(少しは威厳のある父に見えただろうか……)
と。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
6ヶ月後
「よし、出発だ」
え?なに平然と6ヶ月も飛ばしてるのかって?はっ、もしかして、『街を襲った凶悪な魔物を狩って有名になった!』とか『戦闘で負傷した兵隊さんたちに治療を施して聖女と呼ばれた!』なんてのがあったとでも?ボクもね、『こんなにテンプレ満載の世界ならあるかも!』とか思ってたよ?実際には何もなく只々平穏な日々。そんなの書いたって意味ないじゃん!それに書いても『読みたい!』って思う人がどれだけいるか……それならいっそ飛ばしてしまおうって寸法。分かった?
閑話休題
「さて、出発するか」
父さんがそう言うと御者さんは馬を歩かせ始めた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ここ6ヶ月と同じく馬車は平穏無事にパッカパッカと進んでいる。出発してからすでに2日経った。ボクは暇すぎておやつと暇つぶしを兼ねてりんごに似た果物の皮を細く剥いている。
「サーシャは本当に器用だな。そんなに細く剥けるものなのか?」
「父さん、慣れですよ」
「うーむ、慣れか。つまりは鍛錬が必要ということだな?」
「鍛錬……まぁ間違ってはないですけど、練習とか他に言い方はなかったんですか?」
昔、父さんが料理をしようとしたことがあった。が、まさか剣を持ってきてまな板ごと切るとは思わなかったが。その時は母さんが怒りの笑みを浮かべていて、それに恐れをなした父さんがすぐにやめて、みじん切りにされた野菜とまな板だけが残った。
「おや?」「む?」
御者さんと父さんが何か反応した。何かあったのだろうか?
「父さん、どうしたんですか?」
「あぁ、いやなに、数人ほど冒険者がこちらへ走ってきているようだな」
そう言われて御者席から顔を覗かせると、確かにこっちに向かって3、いや、4人がこちらへ走ってきていた。索敵系のスキルをoffにしてたから気づかなかった。、
「どうしたんでしょうか?」
「恐らく、魔物か魔獣に襲われているのだろう。クエストで来たが、討伐しきれなかったのだろうな」
どうやら父さんの予想は当たっているようだ。大きな兎の様な鼠の様などっちつかずの魔獣が2匹、4人を追い立てていた。
「あれは、ラット・ラビットの番だな。唾液に毒を持っていてな、噛みつきを主な攻撃にしている魔獣だな。唾液以外に毒はないから舌以外の肉は大体食べられるぞ」
父さんがご丁寧に説明してくれたのはボク達の領地にはあれがいないからである。御都合主義ともいうが、それは置いておこう。
「じゃあ、今夜はあの兎で何か作りましょう」
「あぁ、それはいい。お前の料理は美味いからな。一体、いつ習ってたのか知らないが」
「料理と秘密は女性の嗜みですよ」
「……ほんと、だんだんサネアに似てきたな」
「母さんは美人ですから嬉しいです」
「そういう意味では……はぁ、もういい」
などと軽口を叩いてるうちに例の冒険者達が僕たちのところまでたどり着いた。
「あ、あんた達逃げるぞ!」
「ん?何故だ?」
「何故って、あのラット・ラビットの番が見えねぇのか!?」
「何故私たちがあの程度の魔獣相手に逃げ出さねばならない?それにあれは今日の夕食だ」
冒険者達が『何言ってんだこいつ?』みたいな顔をしている。それはそうだ。ラット・ラビットはそこらの中級冒険者じゃ相手にならない。噛みつきが基本だが、強靭な足を生かしたドロップキックをかましてくる。それに、基本ふわふわの毛だがラット・ラビット達が必ず習得している『硬質化』というスキルで物理と魔法の両方の威力を軽減させている。まぁ、父さん1人でも倒せるのだが。
「父さん、頑張って」
「なに言ってる、サーシャも手伝え。私1人でも倒せるがサーシャが魔法で仕留めてくれれば数倍早い」
「はーい……」
露骨にめんどくさそうな顔をしていると父さんが苦笑いしていた。
「あんた何考えてる!?あんな娘っ子になにができるってんだ!」
この冒険者さんはいい人みたいだが、見た目だけで判断しないでもらいたい。
「これでも私の娘だ。魔法ならば王都にいてもトップクラスだろう」
「はぁ!?んなわけあるかよ!」
そんな問答をしてる間にもラット・ラビットは迫っている。
「父さん、そろそろいいですか?」
「ん、あぁ。いつでもいいぞ」
父さんは剣を抜き、ボクは魔法を詠唱する。冒険者さんが見ているので無闇に無詠唱という手の内を晒すつもりはない。詠唱が終わるまで父さんに時間を稼いでもらう寸法だ。
「《風は猛烈に、風は切り裂き、風は忍び寄る、ウィンドカッター》」
「「「「なっ!?」」」」
冒険者さん達は全員絶句していた。それはそうだろう。一般的に威力の弱い部類とされる風系統の魔法で、ラット・ラビットの首と体を完全に切り離したのだから。
「サーシャ、よくやった!もう1匹は私に任せろ」
「ありがとうございます」
15秒後、そこには生きたラット・ラビットはいなかった。
「はぁ、解体の方が大変だよ」
「サーシャ、私も同感だ。だが夕食の肉のためだ、致し方あるまい」
「あ、あんたら一体なにもんだ?唯の旅人なんて言わせねぇぞ?」
先手を打たれてしまった。あのセリフが言えると思ったんだけど……ならばこうしよう。
「ボク達は貴族家当主とその次女、そして雇われの御者さんですね」
「き、ききき、貴族様!?」
目を剥いて驚いていた。
「すすす、すみませんでした!どど、どうか命ばかりはお許しを!」
どうやら貴族に普段どうりの口調を使っていたことを詫びている様だ。
「別に構わん。私はそんな事で激昂したり首と体を永遠の別れにするつもりもない。寧ろ、そうされると思われている方が屈辱だ。顔を上げろ」
「は、はいぃ!」
話を聞くと彼らは新人で出てくるモンスターが比較的に弱いところに行って狩りをしていたそうなのだが、そこで偶々あのラット・ラビットの番と出会ってしまったらしい。
その後冒険者さん達は彼らが拠点にしてる街まで戻るらしく、そこが王都までの道のりにある街だったので馬車に乗せていくことにし、無事街までついた。
「今日はありがとうございました!」
「「「ありがとうございました!」」」
彼らはボク達に礼を言って冒険者ギルドに入って行った。
因みにラット・ラビットは空間魔法のストレージを習得しておいた、と建前を述べて《無限収納》に納めておいた。鑑定の儀の時に見せた隠蔽しまくりのステータスカードに《無限収納》は入れていなかったので《総合魔法適正》で空間魔法を習得したと偽っておいた。まぁ、ストレージは実際使えるし、どっちに入れても同じだろう。
その日は宿をとって寝てた。翌日からの旅は何事もなく順調に進み王都に到着した。
本当にラット・ラビットの襲撃以外なにもなかった。暇だった……
本話も読んで頂き誠に感謝です。
幼少編は今回で終わりです。
次回からは王都編が始まる予定です。