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第4話 とりあえず、私が行くしかない

 出稼ぎから帰って来てみれば、見知らぬ女が家に居ついているもんだから、マディのお父さん――ヨオトさんはそりゃあ初めは驚愕していたけれど。

 事情が分かるとすぐに快く受け入れてくれて、なんと私のために小さな部屋を増築までしてくれた。


 自炊していたお陰で料理はお手のものだったので、とても歓迎され、食事の支度は主に私の担当になった。タダ飯食らいという訳にはいかないから、決まった役割が出来るのは嬉しい。


 食材は、元の世界とはやや違うものの似たようなのが多かったので、さほど苦労はしなかった。ただ、『鳥』肉(『鶏』肉ではないところがポイント)や『牛』肉の元が魔物だと知った時は、普通の人間の暮らしから大きく逸脱してずいぶん遠くまで来てしまったような、妙な気持ちになった。


 それから、今まではヨオトおじさんが街に薬や材木を売りに行っている間に、マディが薬草を摘みに行き、新しい薬を調合しながら待っていたけれど。

 私という人手が増えたことで薬草の採取量が増え、薬を作り溜めておくことが出来るようになったので、マディも、時には私も一緒に、おじさんと街へ出掛けることが出来るようになった。


 街に連れて行ってもらった時は、何とか帰り方の糸口を見つけようと色々な人に話を聞いたけれど、役に立ちそうな情報は一つも得られなかった。転移魔術の失敗はあくまで不運とのことで、帰りたければ徒歩・馬車・船など、物理的な手段を使うしかないらしい。


 地図を広げてもらっても、私がいた場所はそもそもが別世界なので、載っている訳がなく。

 奇跡が起こるのを待つしかないまま、月日は流れて行った。


 二週間を過ぎると、会社でやり残して来た仕事の心配をするのは無駄だと気付き、考えるのを止めた。

 一ヶ月を過ぎると、実家の皆や友人達は心配しているだろうなと思いつつも、連絡手段がないので気にしないことにした。

 三ヶ月目には、あちこちに顔馴染みが出来て、居心地が良くなって来ていて。

 半年経過を目前に、もうこっちで良い男を見つけて結婚するのも面白いかもなんて、帰るのを半ば諦め始めていた。


 そんな矢先。

 まるで血染めにしたかのような、赤黒く不気味な羊皮紙が、ある日突然家に投げ込まれた。


 その途端にヨオトおじさんの顔が真っ青になり、マディがわっと泣き出したので、私はその羊皮紙に書かれた内容を解読しようと思ったのだけれど、それはこれまでに見たことのない文象形字で。

 おじさんに恐る恐る内容を尋ねたところ、背筋が凍るような答えが返ってきた。


「これはね、ミオ。絶対に逆らうことの出来ない、死刑宣告なんだ」

「死刑!?どうして!?」

「ああいや、正確には死刑ではない。生贄を寄越せ、というお達しだよ。逆らえば村の皆がまとめて皆殺しにされる。ここいらには来ないと思っていたんだがな……」


 おじさんが泣きじゃくるマディを抱きしめながら項垂うなだれる。


「生贄の条件は、健康な娘。私が行けるものなら代わりに行ってやりたいが……」

「……どうして『健康な』娘なのかしら」

「そりゃ、血を吸うからだろうな。この書簡は、紅夜こうや城と呼ばれる城の、ヴァンパイア伯が出したものなんだよ」


 マディの泣き声が恐怖でより一層高く細くなる。そりゃ怖いわよね、ヴァンパイアのお城に連れて行かれて、血を吸われるなんて。こんな可愛い子の血が吸えるなんて、ヴァンパイアの奴羨まし……違う違うそうじゃない。。


「ねえおじさん、ヴァンパイアに血を吸われたら、死んでしまうんですか?」

「……そう噂されている。何しろ、城を出て戻って来た娘というのは聞いたためしがないのでね」

「じゃ、生きてるかもしれないですよね」


 定期的に新しい生贄を補充しているのならその確率は低いけれど、私は可能性を考えてみた。

 血が必要なら健康体であることは大事かも知れないけど、『娘』に限定する必要はない。単なる好みだった場合はまあしょうがないとして、例えば夜伽の相手として残されたりなんてケースも無くはないかも。いずれにしても、マディに経験させたいものではないわね。


 彼女にとっては怖いのも勿論あるだろうけど、きっとおじさんを一人残して行かなければならないことが何よりも辛いはず。今は私という居候がいるけれど、元は父娘二人暮らしだったんだから。


 それに私だって、マディを行かせたままヨオトおじさんのお世話になるなんて、そんな無神経なことは出来ない。


「娘っていうのは、片っ端から差し出さなきゃいけないんでしょうか?」

「いや、姉妹ならそのうちの一人だそうだ。恐らく根こそぎ集めてしまうと、次の娘……つまり未来の生贄を産む存在がいなくなってしまうからだろうな」

「……なるほど。じゃ、決まりですね」


 私は羊皮紙を小さく折り畳むと、自分のエプロンのポケットに仕舞ってにこりと笑った。

 そして、きょとんとするヨオトおじさんとマディに言ったのだ。


「マディの『姉』として、私が行きます」と。 

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