完結
私は泡の胎内で丸く膝を抱えて、目を閉じています。
いえ、私は普段は特別、内向的というわけではありません。
こうして自分の殻に篭ることが、あまりよくないことだというのはわかっています。
外の世界には素敵なものがたくさんあって、発見や、学びの機会が多いということも、わかっています。
こうしているのはほんとうに時たま、私のこころがどうしようもなく撓んでしまって、やり切れないときに、顔を脚に埋めてふと思考を巡らせたくなるです。
今回も、きっかけは些細なことでした。
* * * * *
瞼の裏に、黒く濁ってしまった後悔が蟠ります。
あのときも、あのときも、あのときも。
私がこうしていれば、もっとより良い結果になったんじゃないか──と、そう思うことばかり。
けれど、それは私の人生が享受する〝良い〟ばかりでは、決してなかったように思います。
〝私がこうしていれば、あの人は惨めに泣かずに済んだんじゃないか〟
〝私がこう言ってあげれば、あの人のつらい気持ちは少しでもマシになったんじゃないか〟
そんな後悔だって、もちろん残っています。
私は上等な人間ではありませんから、満足に誰かを幸せにすることなんてできません。
なにより大切な人を悲しませたことも、なにより信頼すべき自分を傷つけ罵ったことも、一度や二度では済みません。
下を見れば、私より劣った人はいくらでもいるでしょう。
大切なものを蔑ろにし、愛すべき誰かを唾棄するような罪深い人が。
けれど私は、そんな暗い悦に浸って下卑た笑みを浮かべたくはない。
そんな潔癖な気持ちが、確かにあります。
私は愚直な人間です。
目先のことに囚われて、必死にがんばったのに結局は痛い目を見たこともありました。
大好きな映画の誘惑に耐え切れず、怠けて大目玉を食らったこともありました。
私は私が思っていたよりも、自分が平々凡々だったことを知りました。
私がもう少しでも要領がよければ、きっとあの初夏の日に、大切なものを喪う決断をしなくともよかったのでしょう。
もう、遅いことですけれど。
* * * * *
思うことが纏まらず、私はわずかに顔を顰めました。
* * * * *
私が望めば、後ろにある扉は開かなくなるのでしょう。
この部屋は誰も私に近づかせない、優しい匣になるのでしょう。
けれど、そうなってしまった暁に、私は全体どうなってしまうでしょう。
嫌なことから目を背けるあまり、人との関わりが途切れてしまった私は、きっと落ちぶれることでしょう。
こうして泡に閉じ篭ってうじうじと同じことばかり巡らせているうちに、私はほんとうに殻を閉じてしまうのでしょうか。
それは、悲しい。
情けない私だけれど、
誰も幸せにできないような私だけれど、
一人で膝を抱え込んで思い詰めてしまう私だけど、
私はきちんと、自分の足で地面に立ちたい。
不恰好で、不得意でも、両腕で懸命にバランスをとりながら、私の力で歩きたい。
私を苦しめる世の中のすべてに、決して屈したくはない。
私はまだ、戦える。
* * * * *
私は目を開いて、顔を上げます。
鈍色の空が薄暗く、私の部屋を照らしていました。
手始めに部屋の明かりをつけよう。
ご飯を作って、ご飯を食べよう。
お風呂を沸かしてシャワーを浴びよう。
ゆっくり湯船につかったら、テレビをつけよう。流行りのドラマがやっているはずだ。
それから、机に向かおう。
そうして、私を苦しめる魔物と戦うんだ。
いつものように、ただ少しだけすっきりした気分で。
答えは既に出ている。
でも、だからと言って、すぐに吞み込めるわけじゃない。
堂々巡りの問答を経て、自分の足で立ち上がる。




