Prologue
「―あ」
その瞬間、我輩が死期を悟ったのは言うまでもない。
何時もと違う道を通った事が仇となったのか。其れとも冬至の闇を過大評価していたのか。
だが、今は反省だとかそんな時間の産物に思考を向けている場合ではないはずだ。
小さな呟き、揺れる肩、向けられた視線、揺れる青。
ああ、まずい。非常にまずい。
これは三丁目のミシェルに出くわしたあの日よりも、非常に分の悪い状況だ。
考えれば考えるだけ焦りは増し、終いには頭が諦めた様に真っ白になり、嫌な汗が滲み出す。
その汗の伝う感覚に、急速に何かが冷めていく。硬直寸前だった体がバキッと、嫌な音を立てた。
まずい。これも非常にまずい。
これは三丁目のミシェルが両親を連れて来た時よりも、非常に情けない状況だ。
老体に鞭打って散歩に出た結果、短時間の硬直で骨が折れました、だなんて。
ああ、笑えない。笑える訳がない。
だが、こうして考えていてもいいのだろうかと、ぼんやり思いながら髪を触る。
ああ、枝毛が・・・じゃない。そんな場合ではなかったはずだ。
まずいまずいと思ってる時間が、そもそも惜しい事に気づく。
目線を泳がせれば、こちらを見つめる少年が変わらず石像の様にそこに居て。
何だか安心して息が漏れる。
― とにかくこの状況を良い方向に持っていくことから考えようか。
ゆっくりと空を仰ぎ、共に手を伸ばした。
ああ、眩しい上に五月蠅くて。偉ぶる上に、昔も今も面倒くさいなお前。
それは笑っていた。酷く嬉しそうに、楽しそうに。
ざまーみろとか言ってそうだ、と。口元を歪め、震える手を握り締めた。